第34話 避暑地に集まる厄介事

「それがね、どうもユリウスが公開した設計図をハイネ辺境伯領の魔道具師にだけ公開しているようなんだよ」

「え? そんな話、聞いてませんよ」

「そっか。ユリウスが知らないとなると、お父様が裏で手を引いているのか、それとも領都の魔道具ギルドが何かやっているのかも知れないね」


 俺は魔道具の設計図を売りつけただけだからなぁ。その後、どうなったのかはノータッチで知らなかった。

 ファビエンヌ嬢が「なかなか『お星様の魔道具』が手に入らない」と言っていたのはそのせいだったのかも知れない。あのときに良く調べておくべきだったかな?


「そんなことになっているとは知りませんでしたね。すぐに類似品が出ると思っていたのですが、そんなことはないみたいですね」

「おそらく王都の魔道具ギルド本部と連携して、専売特許をもらったんじゃないかな?」

「利益を優先したということですね」


 ちょっとガッカリだな。まさかそんなことをされるとは思わなかった。それでは思ったよりも庶民の間で広がらないだろう。そうなると、その恩恵を受けることができる人が少なくなってしまう。それは魔道具の発展を妨げることになるだろう。


「ちなみにロザリアが持っているぬいぐるみも王都では人気になっているよ。色んな種類を見てきたけど、ロザリアが持っているのが一番良さそうなんだよね」

「それはそうですわ。だってユリウスお兄様が作ってくれたぬいぐるみですもの。他にもイヌちゃんや羊ちゃんもいますよ!」


 誇らしげにロザリアが胸を張った。まさに兄自慢をする妹の図である。あ、ちょっとアレックスお兄様があきれているな。

 それにしても、ロザリアが毎回違うぬいぐるみを抱えているのをやめさせないと。


 ぬいぐるみが汚れたときに、それをキレイにする役割が俺なんだよね。ロザリアは俺のことを「ぬいぐるみのクリーニング屋さん」とでも思っているのではないだろうか。キレイにするのは良いんだけど、あれ、地味に『ラボラトリー』スキルを使うんだよね。


「ユリウスは本当に器用だよね」

「ロザリアにお願いされたら断れなくてですね……」


 そう言って何とかその場のお茶を濁した。




 その後は授業の様子はどうなのか、どんなことを教えてもらうのかなどを熱心に聞いていた。食堂では色んな領地で作られるご当地料理が出るらしく、当たり外れがあって、楽しいらしい。


 外れ料理をみんなで食べることも、思い出の一つになるのだろう。実に楽しそうである。

 休日には友達と学園内のお店に出かけては、話題のスイーツを食べるそうだ。その際、必ず女の子を誘ってから行くそうであり、男女の交流は盛んなようである。


 前期授業では友達作り、人脈作りが優先されていたようである。そのため、入学式以外には特に大きな行事はなかったそうである。しかし後期には、学園祭や、武術大会、ダンス大会などが行われるそうである。


 それを聞いたカインお兄様はダンスの練習をもっとやらなければと意気込んでいた。

 カインお兄様は武術は得意だもんね。あとはマナーとダンスができれば問題なし。自分がやるべきことが見えて来たのだろう。


 一方の俺は王都の学園に行くつもりはないので、そんなに頑張る必要はなかった。領都の学園なら適当でも許させるはず。そんな暇があるならば、庭の薬草園をもっと充実させたい。


 アレックスお兄様が帰って来る少し前から、ハイネ辺境伯領はだんだんと訪れる人が多くなっているように感じた。騎士団も警備へと駆り出されているし、この時期はどうしても足りないので、臨時の衛兵を雇っている。


 今年は冒険者ギルドとも仲良くなったので、そこから人員を回してもらっている。冒険者は最初からそれなりに鍛えてあるので、即戦力として十分に使えるみたいである。

 お父様が早くも「来年も同じようにしたい」とライオネルに話しているのを聞いたことがある。


 冒険者にとっても安定した収入が得られることもあり、人気がある依頼の一つだとアベルさんが話していた。

 この間、ワイバーン騒動のことを話すと「倒したかった」と嘆いていた。冒険者としての箔を付けたかったのかな?


 夕食の席ではハイネ辺境伯領を訪れた貴族たちの報告がなされていた。この地に避暑地を持つ貴族は多い。その中でも大手の貴族が避暑にやってきたら、ハイネ辺境伯として挨拶に行く必要があった。


「そうか。今年は王族がやって来るのか。目的はおそらく競馬だな。どうやら王都でもかなりの評判になっているらしいな」

「その通りです、御館様。今では我がハイネ辺境伯家が発案した競馬をまねしようという動きが活発化しているみたいです。実に嘆かわしいことで」


 お父様に報告している使用人の一人が言った。良いアイデアはすぐにまねされるからね。仕方ないね。だがウチが元祖であり本家であることを売りにすれば、それなりに戦えるんじゃないかな?


 それにハイネ辺境伯領ほど良質な馬が育っている環境は他にはないだろう。競馬が始まってからはさらに競争が加速して、どんどん優れた馬を輩出しているのだ。そのため、かなりの金額で売買される馬が出始めていた。


 領地に住んでいる者が儲かれば、当然、ハイネ辺境伯も儲かる。実にWin-Winの関係である。これからもこの調子で続けていってもらいたいものだ。


「王族の方がいらっしゃるのですね。実はミュラン侯爵家も、夏の間、我が領地を訪れたいと言っていたのですよね」

「なに? ミュラン侯爵家が? そうか。これは少し忙しくなるかも知れないな。例年通り、バレッタ公爵家も来るだろうし、ロッベン伯爵も来るだろう」

「あらあら、それはずいぶんと賑わうことになりそうね」


 お母様が眉をハの字に下げている。すでに予想できないほどの忙しさになることを感じとったのかも知れない。

 俺には関係なかったらいいなぁ。アレックスお兄様なら、アレックスお兄様ならきっと何とかしてくれるはずだ。

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