第14話 初めての魔道具作り

 翌日、薬草園の水やりや、妹の馬として午前中を過ごしていると、使用人が注文していた品を買ってきてくれた。

 鉄板に魔導インク。薬草などの素材を新鮮なまま保存しておくだけの、簡単な容器を作るだけなので、これだけの材料で十分だ。


 昼食を食べ、妹を寝かしつけるとさっそく作業に取りかかった。ガンガンやるとうるさくて迷惑だろうし、使用人に何をしているのか問い詰められるかも知れない。

 そのため防音の魔法を部屋にかけてから作業を開始した。


 鉄板を曲げるのには『クラフト』スキルを使う。このスキルを使えば、金属の形を自在に曲げることができるのだ。ただし、魔力を使う。細かい作業はできないが、大体の形を作るだけならこのスキルだけで十分だ。


 さほど苦労せずに三十センチ四方の鉄製の入れ物が完成した。高さは二十センチほど。高級菓子が入っていそうな入れ物で、フタをパカリと開けるタイプだ。これなら中身が一目瞭然だし、取り出しやすい。


「よーしよしよし、ここまでは順調だぞ。あとはフタに魔法陣を組み込めば……」


 フタの裏側に魔導インクで幾何学模様を描いていく。ゲームで何度も描いているので、完全に頭が覚えている。何だったら、目をつぶっても書けるぞ。失敗したら面倒なのでやらないけど。


 うん、まあまあのできだ。七歳児の器用さを高く見積もりすぎた。思ったように手が動かない。これは練習が必要だな。この魔道具作りが終わったら毎日の練習に取り入れよう。

 これはこれで何とか使い物になると思う。


「あとは保存の魔法を封じ込めるだけだな。うまくいってくれるかな?」


 保存の魔法を唱え続けること数分。これは無理か? と思ったときに、ようやく魔法陣に保存の魔法が浸透していった。魔力をかなり消費してしまった。


「魔石を箱の中に適当に入れておけば、魔力が鉄を伝わって何とかなるはず。効果のほどは使ってみれば分かるか」


 そんなわけで、昨日採取してきた魔法薬の素材をできあがったばかりの保存容器の中に入れた。これらの素材は優先して使うつもりなので、魔道具がうまく機能しなくても何とかなるだろう。

 気がつけば周囲は夕焼けに染まっていた。俺は慌てて妹のご機嫌を取りに向かった。




「お兄様、一人でずっと何をしていたのですか!」


 夕食の席で俺は妹に責められていた。どうやらロザリアは午後からも俺と遊ぶつもりだったようである。一向に現れない俺をずっとサロンで待っていたらしい。悪いことをしてしまったな。

 いや、そもそも午後からも遊ぶ約束はしていなかったわけだが。


「ごめんごめん。ちょっと勉強に熱が入りすぎただけだよ」

「何の勉強ですか?」


 ちょこんと首をかしげる姿がかわいくて、ついポロリと言ってしまった。


「魔道具の勉強だよ」

「お兄様は魔道具を作っているのですか?」


 純粋な好奇心による質問。周囲に控えている使用人は何やら聞き耳を立てているようである。ここはごまかさないといけない場面だ。


「新しい魔道具を作ってお金持ちになろうと思ったけど、うまくいかなかった」

「難しいのですか?」

「うん、難しいね」

「ふ~ん」


 そう言うと妹は食事を再開した。納得してくれたかな? だが興味を失ってくれたようである。その後は特に何のこともない会話を続けた。

 食事が終わったらお風呂だ。この時間はゆっくりできるはずだったのだが。


「お兄様ー」


 妹が乱入してきた。普段はお母様とお婆様という二大ストッパーがいるため、妹が俺の入っている風呂に入って来ることはない。すっかり油断してしまった。

 しかし、今さら追い出すわけにもいかず、一緒にお風呂に入るしかなかった。


「ロザリア、みんなには内緒だよ」

「分かったわ」


 本当に分かっているのかなー? とても不安だ。七歳児で良かった。普段は使用人が入って来て体を洗ってくれるのだが、気を遣っているのか、入って来る様子がない。仕方がないので妹を湯船から引き上げて、体を洗ってあげる。


「お兄様、私、欲しい魔道具があるの」

「へえ、どんな魔道具なのかな?」


 どうやら魔道具の話は終わってなかったようである。ロザリアが目を輝かせてこちらを見ている。俺が魔道具について言ったばかりに、随分と期待させてしまったようである。


「私ね、お星様を作る魔道具が欲しいの!」

「お星様を作るねぇ」


 要するにプラネタリウムが欲しいということだね。それくらいだったらすぐに作れるかな? 鉄板に小さな穴を無数に空け、ランプの魔道具に使われている魔法陣で光源を確保すれば簡単にできると思う。


「作れそう?」

「うーん、やってみようかな?」

「ほんと!? ありがとう、お兄様!」


 そのまま裸で抱きついてきた。うーん、これは案件だなぁ。だれにも見られなくて良かった。

 お風呂から上がった俺はさっそくプラネタリウムの魔道具の作成に入った。鉄板に無数の穴を空け、形を球体にする。そしてその内側に光源となる光を放つ魔法陣を描いた。

 エネルギー源となる魔石はそのまま中に入れた。転がすとカランカランと音がする。


 おっと、スイッチを忘れていた。俺は外側に、触れるごとにオンオフが切り替わる魔法陣を組み込んだ。試しに触れてみると、球体の中央に明かりがついた。

 うん、大丈夫そうだな。できあがった魔道具を持って、妹の部屋へと向かった。


「ロザリア、昨日と今日のお詫びの品を持ってきたぞ」

「お詫びの品?」


 首をかしげるかわいい妹。室内にはロザリア専属の使用人が控えていた。さすがに彼女を排除するわけにはいかないので、申し訳ないがそのまま壁の花になってもらうことにする。


「そうだよ。これだ」


 俺は先ほど作りあげたプラネタリウムの魔道具を差し出した。不思議そうな表情でそれを見つめるロザリア。


「明かりを消してくれるか?」


 俺の命令にためらう仕草を見せたが、明かりを消してくれた。俺はロザリアの手元にある魔道具を操作し、部屋の中に星空を発生させた。


「わあ! お星様だ!」

「そうだぞ。お星様だぞ」


 それは天井だけでなく、四方の壁にも投影されていた。

 もちろん、この世界の星空を再現したわけでもなく、適当に小さな穴を空けただけである。それでもパッと見た感じでは、どこかの世界の星空に見えた。


「お兄様、ありがとう!」


 顔は暗くて見えなかったが、その声は弾んでいた。これで少しはお母様がいない寂しさを紛らわせることができたかな?

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