第120話 戦いの後

 マリアが逃走してから、その場に龍馬が現れた。


「ごめん・・・あいつは倒したんだけど、まさか自分の命よりも魔女を優先するとは思わなかった・・・。申し訳ない。」


 龍馬が頭を下げる。

 それに慌てたのはアンジェリカだった。


「い、いえ、良いんです!魔女はかなり深手を負いました。あいつの性格上、潜伏して傷を治す事も考えられますが、おそらく最終決戦を挑んでくるでしょう。」

「なんでわかるの?」

「いま、まさにそんな話を先程『神話』でシータ様としていました。シータ様の『演算』で計算すると、2,3ヶ月は潜伏し、力を蓄え、最終決戦が始まる、との事です。」

「そっか・・・シータさんがね・・・その前に魔女を追い詰めるとかはしないの?」

「はい、シータ様の計算では、魔女は手駒の組織全てを最終決戦につぎ込んで来るそうです。で、あれば、次の一戦で主要な犯罪組織全てを潰せる可能性が高い。ですから、こちらもそれに備えて、次で終わらせようと思います。取りこぼしがあるよりもその方が良いのでは無いか、と。」

「なるほどね・・・」


 龍馬が納得を見せた。

 そして、


「了解。取り敢えず、みんなここから出るとしよう。そして、ゆっくり休んで欲しい。え〜っと・・・瀬川くんと黒瀬さんは・・・近い内に僕の所に来れるかな?瀬川くんは身体を診るよ。黒瀬さんは・・・しっかりと話をしようか。」


 そう言って二人を見る龍馬。


「わかりました。よろしくお願いします。」

「は、はい!あの・・・すみませんでした!封印してしまって!」


 充は了承し、光は謝罪した。

 それを聞いて龍馬はにこりと笑って、


「良いんだよ。結果として利用させてもらうていになっちゃったしさ。それに、君のお兄さんの事についてはしっかりと説明させて貰うよ。なんだったら、映像を見せても良い。それをみたら、何故僕らが君のお兄さんと戦わなければいけなかったのか、分かってもらえると思うから。」

「・・・はい。」


 こうして、全員は現界に戻る。

 そして、


「それじゃあ僕と桜花はお先に失礼するね?みんなは一度本部に戻るんでしょう?」

「あっ・・・その・・・三上さんもよろしければ来ませんか?ゆっくりしていって貰っても・・・」

「う〜ん・・・でも、今日は流石に部外者は居ないほうが良いんじゃないかな?また次の機会にするよ。桜花も良いよね?」

「ええ、アンジェリカさんもみなさんも、今日はお疲れ様でした。」


 桜花の言葉で、アンジェリカは引き下がることにした。


「・・・わかりました。それでは後日改めて伺いますね。今回はお力添え、ありがとうございました。」

「兄貴!姐さん!ありがとうございました!!おかげで光も充も救うことが出来ました!!」

「龍馬さん!桜花ちゃん!!ありがとう!!」

「私の時に引き続き、友だちが助けられたのはお二方のおかげです。ありがとうございました。」


 健流と灯里と姫乃が前に出て頭を下げた。

 龍馬と桜花は笑顔で頷いた。


「みんなが頑張ったからだよ?よく頑張ったね!」

「まったくその通りだわ。それに・・・灯里、如月さん・・・それから黒瀬さんもかな。その内相談に乗るわ・・・多分、あなた達の考えている事は私の助言がいるでしょうから。」


 桜花の言葉に三人はハッと目を瞬かせ、そして頭を下げた。


「「「よろしくお願いします!!」」」

「助言?何の事?」

「あなたは知らなくて良いのよ。ほら、さっさと帰るわよ!この元凶め!!」

「イテッ!?何するのさ桜花!!・・・わかった!わかったから耳を引っ張らないでよ!!」


 こうして龍馬と桜花は転移で消えた。


 その場に残った者は全て後詰で来ていた応援要員と共に本部に移動する。

 移動中の事、各車の中では、


「・・・しかし、これで俺も独身貴族に終止符、か・・・なんだか感慨深いもんだぜ・・・」

「・・・なんですか十三?私に何か不満でも?」

「そうだよお父さん!私はいつでもお母さんの味方だからね!」

「ふ、不満なんかねぇよティア。それにセルシア、そりゃないんじゃね〜か?」

「日頃の行いね。」「日頃の行いよ。」

「・・・はぁ・・・もう尻に敷かれてらぁ・・・それも二人も、な。」


 こちらはアンジェリカとクリミアの乗る車内。


「アンジェリカ様。」

「なんだいクリミア。」

「どうしてあの姿になれるのを私に教えてくれなかったのですか!?」


 少し不貞腐れた様に言うクリミアに、アンジェリカは首を傾げた。


「な、何故だい?あれは切り札なんだよ?そう、おいそれとは使えないさ。」

「ですが!あの素晴らしさ!美しさ!神々しさ!!私は確信しました!!アンジェリカ様こそ女神であると!!」

「・・・クリミア?大丈夫かい?ちょっと何言ってるのかわからないんだけど・・・」

「ええ、ええ!そうでしょうとも!私だけがわかっていたら良いのです!アンジェリカ様!私はこれからもずっとアンジェリカ様について参ります!ペットとして!!」

「ペット!?クリミア!?本格的に何言ってるんだい!?魔女に何かされたのかい!?」

「やはり!三上さんとアンジェリカ様のめくるめく夜に参加する計画を実行しなければ!燃えてきました!!」

「クリミア!?何を言っているんだ!?クリミア!?」

 

 今度は、充と一緒が良いとダダをこねたレーアのいる車両の様子。


「ねぇミツルくん・・・」

「な、なんですかレーアさん?距離近くないですか!?」

「あのね?年上は嫌いかしら?」

「い、いえ・・・俺は恋愛は歳を気にしないと・・・思います。」

「本当!?あのね?私ミツルくんの事好きになっちゃった。」

「うぇ!?お、俺の事ですか!?で、でも、俺、大して取り柄が無くて、スポーツ馬鹿だし・・・レーアさんみたいな綺麗な大人の女の人には釣りあわないんじゃ・・・」

「そんなの関係無いわ!私が良いって思ったのがミツルくんだったんだもの!あなたは格好良かったわ!妹のように思っている光ちゃんの為に一生懸命頑張って、私の事も身体を張って守ってくれたし、何より・・・照れた顔が可愛いの♡」


 そう言って充の腕を抱え込むレーア。


「あ・・・う・・・そ、その・・・」

「ほら!その顔♡男らしくてその上照れ屋、私の理想なのよ!!ねぇ・・・私じゃ駄目かしら?」

「う・・・その・・・少し考えさせて頂けませんか?」

「なんで?私の事嫌い?」

「そ、そうじゃなくてですね?勿論好きだと言って頂けることは嬉しいんですが・・・色々あったし、きちんと落ち着いて考えたいんです。それに、まだ、俺はレーアさんの事を詳しく知りません。恋愛のパートナーとして選ぶのであれば、出来ればしっかりと好きになって付き合いたいんです。ですから、あなたの事を知る時間を頂けませんか?」


 充は真剣な眼差しでレーアを見る。

 ・・・頬は少し赤くなっていたが。

 そして、そんな仕草はレーアの心にヒットした。


「もう!そんなにキュンと来る顔しちゃって!!それにそんな真面目なところも良い!ええ!わかったわ!じゃあ、どんどんアタックしていくから早く私の事を好きになってね?取り敢えず・・・えい♡」

「うわっ!?レーアさん!?ちょっと・・・もごっ!?」

「うふふ・・・可愛い♡」


 レーアは、最初充を抱きしめて、その後その凶悪な胸に充の顔を挟み込んだ。

 匂いと感触にパニックになる充。


「(・・・ああ・・・良い匂いと幸せな感触・・・駄目だ・・・これ、耐えられる気がしない・・・)」


 魔女からの責め苦はしっかりと耐えた充は、レーアからの幸せ攻撃には一切耐性が無かったようだ。


「ダーリン♡早く私を好きになってね?そうしたら・・・もっと凄いことしてあげちゃう♡」

「モゴモゴ!?(これよりも凄いことって・・・俺もう耐えるの無理かも)」


 充が陥落するのは時間の問題だった。


 そして、それを目撃していた運転手は、


「(くっ!?嘘だろ!?あのレーア様がこんな若造にこんな風に!?これは緊急会議を開かなければ!!俺たちのレーア様を奪う奴が現れたと!!)」


 血の涙を流しそうなくらい歯ぎしりをして運転していた。

 充の明日はどっちだ!?


 最後は健流と健流を狙う御一行の乗る車両の様子。


「はぁ・・・これで一先ず一段落・・・かぁ・・・」

「疲れたわね・・・」

「ホントホント・・・」

「あ〜・・・お母さんになんて言い訳しよう・・・学校もだけど・・・」

「それは、長と一緒に考えましょう?なんにしても光も充くんも無事で良かったわね。」

「・・・充は無事って言えるのか?レーアさんにタジタジになってたじゃねーか・・・」

「何言ってんのよ!良いじゃない!恋愛に年齢も立場も関係ないわ!ついでに常識も、ね!」

「いや、常識はいるだろ。」

「いらないわね。」「いらないわ。」「いらない・・・かも。」


 そんな健流の言葉に三人はすぐさま否定する。


「いや、なんでだよ!?いるだろ!?」

「健流。」

「な、なんだよ?」


 姫乃が健流の肩をガシッと掴む。

 その真剣な表情に腰が引ける健流。


「大丈夫よ。私達に任せておきなさい。あなたの常識は私達がぶち壊してあげるから。」

「いや、怖いよ!?何言ってんだ!?なんでそんな事されなきゃいけねぇんだ!?俺に何する気!?」

 

 反対側の肩を今度は灯里が掴む。


「健流〜逃げられない・・・逃さないからね?覚悟しときなさい!!」

「俺ホント何されるの!?光!お前は大丈夫だよな!な!?」


 光は健流をじ〜っと見つめた後、にっこりと笑った。

 健流はその顔を見て少しホッする。


「(良かった!やっぱり光はこいつらと違って常識人だ!!)」


 しかし、そうは問屋が降ろさなかった。


「健流!私も頑張るからね!」

「だから何を!?お前もかよ!?俺になにする気だー!!」


 健流の叫び声が車内に響くのだった。



 本部に着き、アンジェリカの執務室に入る。

 アンジェリカは放送を使って、本日の戦闘が全て終了したと告げた。

 そして、数カ月後に最終決戦が行われる可能性が高いため、それぞれ自己を高めるよう言い、そして本日の事の謝辞を述べた。


 そして、放送を終えた後、ここにいる面々に簡単にアンジェリカの挨拶があって、それぞれが個室で休む事にした。

 

 こうして、魔女に伴う一連の出来事には終止符が打たれた。

 もっとも、束の間の事ではあるのだが。


********************

これで第八章は終わりです。

第118話でこのあとがきを読んだ方、当日夜にあとがきだけ修正しました。

ここまでが本編となりますのでご了承下さい。

後はいつも通り閑話を挟んで第9章となります。

息抜きと魔女を追い詰めるエデン陣営、抵抗するために動く魔女を書きます。

おそらく、第10章で最終決戦になると思います。


ケントゥムと龍馬の戦いは『勇者ではありません』のアフターでやる予定です。

10月の三週目には修学旅行編が終わるので、その後にやります。

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