第119話 魔女の誤算 sideマリア

 わたくしは、ケントゥム様の最後のお力であの場から逃走させて頂いた。


 エデンは・・・アンジェリカ達は強くなっていた。

 今まで叩き潰して叩き潰して、叩き潰し続けてきたのに・・・

 あれほどの力をつけていたとは思わなかった。

 誤算だった。

 読み違えていた。

 完全に下に見ていた。

 この事態はわたくしの油断が招いた事だ!


 悔しい!悔しい!!悔しい!!!


 そもそも、どこから計画が狂ったのか・・・全てこちらが優位に立っている筈だったのに・・・


 管理者の『神託』すら利用し、相手の駒さえ奪い、組織間の争いを起こしていたのに何故!!


 思えば、計画に綻びが見え始めたのは、滅びの獣を目覚めさせる作戦が失敗したところからに思える。

 

 あの時、本来であれば、滅びの獣が救出に間に合わない予定だった。 

 そして、獣を発動させて、エデンの戦力を減らし、釘付けにする。


 そこを、わたくしの息がかかった組織を総掛かりで攻め込ませ、壊滅させるつもりだったのに・・・何故間に合ったのかしら?


 上手くいかない・・・何故、何故、何故、何故!!

 こんな事今まで起こらなかったのに!!


 わたくしが『クイーン オブ ウィッチ』を継いでからずっとずっと上手く回っていた。

 なのに何故!今になってこんな風になるのか!!


 わからない!わからない!!わかりたくない!!


 管理者・・・神でさえこちらに居たというのに何故!?


 神・・・ケントゥム様。

 思えばあの方もわたくしの良い駒だった。

 だけど・・・もうその存在を感じる事は出来ない。

 あれだけ強いパスで繋がっていたというのに・・・


 イレギュラーに消されたのでしょうね。

 

 イレギュラー・・・なんと恐ろしい。

 まさか、神と同一である管理者をも上回るとは・・・人が有する力を優に越えている!

 あんな存在は世界にとってバグだ!!

 居てはいけない!

 そんなの反則でしょうが!!

 

 ・・・そうか!

 イレギュラーが計画に干渉したのね!?

 だから本来間に合わない筈の救出が間に合い、手出しできない筈の拠点が破壊されたのか!!


 ・・・悔しい!悔しい!悔しい!!

 わたくしの時は間に合わなかったのに!!

 そんなのは居なかったのに!!

 だからわたくしはこのような有様になったというのに!!


 何故!わたくしには現れなかったのにあいつらには現れるの!?

 わたくしだってあの時・・・あの時助けが来ていたら!!

 ニンゲンの国が裏切り、馬鹿な姫が裏切り、里を虐殺していなければ、わたくしだって!

 こんな風にはなっていなかったのに!!

 理不尽だわ!!




 理不尽・・・か・・・理不尽を越える理不尽・・・より大きな理不尽に、理不尽は潰される運命・・・

 そんな事は分かっている。

 だからこそ、わたくしは理不尽を振りかざしてきたのだ。


 まさかそのわたくしが潰される側になるとはね・・・


 涙が出てきた。

 涙を流すのなんて何百年振りだろう。


 この涙の意味もわからない。

 悔しいのか、悲しいのか、安堵の物なのかもわからない。


 女王様・・・お父さん・・・お母さん・・・わたくしは何を間違えたのだろう・・・

 ・・・もし、わたくしがケントゥム様に出会うのでは無くて、あのイレギュラーと出会っていたら変われたのだろうか・・・


 あの男はアンジェリカを含む者達から信頼されていた。

 そして、節々に優しそうな雰囲気を醸し出していた。


 あの男ならわたくしの間違いを正してくれたのだろうか・・・

 そうすれば、あの者達のように幸せそうな表情を浮かべられたのだろうか・・・

 今となってはもうわたくしにはわからない。


 だが、もう遅い。

 賽は振られている。

 わたくしはわたくしのままでエデンをどうにかしなければいけない。


 もう、止まれない。

 

 滅びの獣もあの小僧の中で眠っていると言った。

 何度か見たことのある獣・・・その全ては狂ったように世界を壊していた。

 あんな風に真っ直ぐに生きる内包者など初めて見た。


 あれもイレギュラーのせいなのだろうか・・・


 まぁ、いい。

 

 もう、どうしようもない。

 おそらく、滅びの獣はもう使えない。

 完全に封じられている。


 だが、このまま滅びてはやらない。


 最後に奴らに決戦を挑み、恨まれ蔑まれながら死んでやる。

 わたくしの死をもって奴らの心に消えぬ負の感情を植え付けてやる!!


 見ていろエデン。

 魔女の呪いはまだ健在だ。


 わたくしは魔女!

 魔女の女王!!

 その生き様、見せつけてやる!!

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