第103話 来たるべき日

「今日は・・・ついに15日か・・・今日、もし魔女が行動を起こさなければ・・・」

「ええ、ついに始まる事になるわ・・・魔女との戦いが。」

「・・・ぜってぇ光達を助けねぇと。」

「・・・そうね。」


 健流は思い返す。

 数日前の事だ。


 


 先日、ティアがいなくなった件で、レーアと渋谷が調査に行った時、魔女側の襲撃を受けた。

 レーアは渋谷の指示で逃走したが、渋谷は戻って来なかった。

 現地に、アンジェリカ、セルシアと共に再度戻ったレーアが過去視をした結果、渋谷が魔女に連れ去られたと言う事がわかった。


 そして、その場に、光、ティア、そして充が居た事も。

 それが明らかにされた時に、動揺する姫乃や健流、灯里に、レーアは忠告した。


「瀬川くんは・・・もう普通じゃないみたい。首を切り落とされても普通にしていたわ。もし戦う事になっても、手加減しちゃ駄目よ?」

「・・・例えそうだったとしても、俺は諦めねぇ。絶対に、絶対に助けて見せる!」


 健流は拳を強く握りしめてそう誓う。

 気絶させてでも龍馬の所に連れて行けばなんとかなるかもしれない。

 決意を新たにしたのだった。




 そして、当日、既に姫乃と灯里と共に、健流たちは本部に来ていた。

 

 今日は念の為に本部に詰めるのだ。

 部活を休んで、灯里もいる。

 もしかしたらすぐさま決戦となるかもしれなかったからだ。


 龍馬から聞いた話によると、本日の午後7時を過ぎても動きが無ければ、魔女の異界に干渉するという事だった。

 

 今日は流石に訓練は無しにし、精神統一をして過ごすよう言われている。


「魔女との決戦か・・・今度こそ完全に潰す。総力戦だ。渋谷くんとティアくんも必ず取り戻す。」


 アンジェリカもいつにも増して気合が入っている。


 アンジェリカは今日に至るまでの事を思い返す。

 先日、廻里剣術道場に行った時の事だ。




「廻里さん。一つ聞いて頂きたい事があります。」


 龍馬が席を外した時に、アンジェリカは桜花に話を振った。

 桜花はじっとアンジェリカを見つめた後、ため息をついた。


「・・・はぁ。あんまり聞きたくない事のようだけど、仕方がないわね。どうぞ?」

「ありがとうございます。その・・・私はこれでも数百年生きています。」


 そして、自らの境遇を語るアンジェリカ。

 桜花は黙って聞いている。


「そして、その間、組織の長ではありましたが、精神的には孤独だったと思います。実は・・・先日、それに押しつぶされそうになった時に、三上さんに励まされた事がありました。」

「・・・それで?」

「はい。・・・その・・・その時に思ったのです。この人と一緒に生きていきたい、と。私には寿命がありません。本当の意味で一緒に過ごすことは、普通の人間では不可能なのです。ですから・・・私も認めて頂けないでしょうか。お願いします。」


 こう言って頭を下げるアンジェリカ。

 桜花は、それを見て、困ったような表情をした後、苦笑した。


「・・・頭をあげてアンジェリカさん。あなたの事はまだよくわからない。それに龍馬がどう判断するかわからないわ。でも、真摯に挨拶に来た事は認めます。ですが、私の取るスタンスは一つです。私は協力はしません。ですから、自分で頑張ってください。その上で、龍馬が認めたのなら、受け入れますよ。あなたの境遇には同情もしています。ですが、私達の仲間には同じ様に永い時を生きている者もおりますので、わかりあえる事もあるでしょう。いずれ、会ってみましょうか。」

「・・・はい!お願いします。」


 アンジェリカは輝く笑顔を見せた。

 桜花は反対はしなかった。

 それはすなわち、自分次第で受け入れて貰えるという事に他ならない。


 しかし、そんなアンジェリカを見て、桜花は珍しく意地の悪い顔を見せた。


「でも、龍馬には他にもいっぱいそういう人が居るわよ?大丈夫かしら?」


 アンジェリカは口元をきっと引き締める。


「・・・わかっています。ですが、私は頑張ろうと思います。」


 そう言うアンジェリカを見て、桜花はふっと笑顔を見せた。


「そう。なら、ちょっとだけ助言してあげる。龍馬は正面から真っ直ぐにぶつかって来られるのに弱いのよ。下手に小細工するよりその方が良いと思うわ。・・・あなただけへの助言だから内緒よ?」

「・・・なんで私だけに?」

「だって、あなたの境遇を聞いちゃったし、ちゃんと仁義を切ろうとしたし、今日の稽古でもわかったわ。あなたは悪い人では無いもの。なんとかしようと、仲間を助けようと頑張っているのでしょう?そんな人を嫌えるわけないじゃない。頑張ってね?無事全てが終わって、あなたと過ごせる事を待っているわ。」

「あり・・・がとう・・・ござい・・・ます。」

 

 アンジェリカは涙した。

 ここにも、自分を助けてくれる人がいる。

 一緒にいてくれようとしてくれる人がいる。

 それだけで、安らかな気持ちになった。


「(ああ・・・流石は三上さんの正妻なだけはある。この人もとても優しい・・・)」


 頑張ろう、そう決意をし直した。

 そんな時だった。


「あれ!?桜花がアンジェリカちゃんを泣かせてる!?桜花!駄目でしょ!大丈夫?アンジェリカちゃん!桜花に何かされたの?桜花は怖いけどいい子だよ?鬼みたいな時があるけど、人間だよ?」


 そう言ってアンジェリカに駆け寄った。

 アンジェリカは思わず笑ってしまう。

 自分をこんな風に心配してくれる。

 嬉しくないわけがない。


 しかし、そうはいかない人もいた。


「・・・龍馬。言いたいことは山程あるけど、ちょっと集合。」

「イテッ!?桜花何する・・・イテテテッ!?耳!耳離して!!」


 そして正座で怒られる龍馬を見て、アンジェリカは笑顔で気合を入れ直した。


「(準備は出来た。後は、黒瀬光、瀬川充、ティアくんと渋谷くんを助けて、魔女を倒すのみ。そして、今度は私自身の戦いだ。頑張って、この人達と生きられるよう努力しよう。)


「ア、アンジェリカちゃん?笑ってないで助けてよ!?」

「龍馬!まだ終わって無いわよ!もとはと言えばあなたが・・・」

「ひ〜!?」


 それを見て、アンジェリカはまた笑ってしまう。

 そして、二人に近づいて行くのだった。




「アンジェリカ様?何かありましたか?」

 

 執務室で穏やかに笑っているアンジェリカを見て、クリミアが問いかけてくる。

 

「ああ、なんでも無いよ。それよりもクリミア、今何時だったかな?」

「まもなく午後7時です。」

「そうか・・・待っていろ魔女。今度こそお前を終わらせる。」


 そう言って、アンジェリカは手元にマイクを手繰り寄せた。

 スイッチを入れ、本部内スピーカー全てに対し放送を入れた。

 その様子をレーア、セルシア、健流、姫乃、灯里は固唾を飲んで見守っている。


『エデン本部にいる諸君。まもなく、このエデン創設にかかる大敵を追い詰める作戦が開始される。本日中に戦闘がなされるかわからないが、激戦になる可能性が高い。総力戦だ。みんなも力を貸してほしい。今回は私も出る。みんなで頑張ろう。』


 至るところから、歓声が聞こえる。


「さあ、魔女。まもなくだ。」


 その時、微弱な地震を感知した。

 龍馬からの合図だった。


「始まるね。」


 アンジェリカは呟いた。

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