第96話 魔女の弟子ティア(2)

「起きてケイン。」

「う・・・ん・・・だれだ・・・?」


 ケインは目を覚ます。 

 暗い部屋を見渡すと、室内にはティアが立っているのを見つける。


「ティ、ティア!?どうした!?なんでこんな時間にここに!?」


 ケインは狼狽する。

 しかし、そんなケインの問には答えず、ティアは別の質問をする。


「ケイン、答えて。昼間の女性は誰なの?」

「っ!!」


 ケインは答えられない。 


「答えて。早く。」

「あ、あれは・・・友達さ!そう!友達なんだ!!町で出来た、さ!」

「ケインは友達とキスをするの?」

「っ!?見られて!?・・・それは・・・ティアが悪いんじゃないか!!」

「私が?何故?」

「だって、ずっと俺をほったらかしにして、遊びに誘っても断ってどこかに出かけてさ!!だから浮気でもしてるんじゃないかって思ったんだ!だから・・・だから俺だって・・・ひっ!?」


 ティアから得体のしれない圧力を感じ、ケインは口を噤んだ。

 

「浮気?浮気だって?私がどれだけ頑張ってるか知らないくせに勝手なことを・・・私が!私がどれだけあなたとの未来の為に頑張っていたのか!!それを浮気だって!?ふざけるな!!」

「なんだ!?どうしたケイン!?」

「ケイン!?あなたは・・・ティアちゃん?」


 そこに、ケインの両親が異変を聞きつけて、ケインの部屋に飛び込んできた。


「何故ティアちゃんがここにいるんだケイン!お前何をしようとしていた!!ティアちゃん!さぁ、家に帰りなさい!」


 そう言って、ティアの腕を掴み引きずり出そうとしたケインの父親。

 普段、ティアの事も自分の娘のように可愛がってくれていた人。


『あらあら・・・邪魔者はどうするのかしら?裏切り者はどうするのかしら?あなたは魔女の弟子。魔女なら・・・』


 また、声が聞こえる。

 ティアは顔を上げた。


「私は魔女の弟子。魔女は邪魔者を消す。・・・消えて。」

「!?」


 次の瞬間、ティアが手のひらをケインの父親に向け、何事かを呟くと、突然、ケインの父親の全身が発火した。


「あなた!?」

「親父!?」

 

「次はあなた。・・・さようなら。」


 そのままケインの母親に手を横薙ぎに振る。

 すると、ケインの母親の首が飛び、血が吹き出す。

 ケインの母親の表情は驚愕のままだった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!?化け物!?」


 ケインは部屋から飛び出した。

 ティアはそれを見て、


「逃さない。裏切り者は・・・殺す。私は魔女。魔女は裏切り者を消す。」


 そう呟き外に出た。


 


 ケインの家とティアの家は近い。

 目視できる程の距離だった。

 

 様子がおかしかったティアの様子を見に来ていたティアの両親が、ティアの部屋を覗くと、ティアはいなくなっていた。

 ティアの両親は、近所の人に協力を依頼し、一緒に探していた。

 その中にはティアの仲の良かった友人達も含まれている。


 ティアの両親は、ケインの家にも捜索の協力を願おうと歩いていた所、


「うわぁぁぁぁぁ!助けてくれ〜!!」


 と叫びながらこちらに走ってくるケインを見つけた。


「ケイン!?どうした!!何かあったのか!?」

「おじさん!?ティアが!ティアが!!」

「ティアがどうかしたのか!?」


 お互いに走り寄った時だった。


 ゾンッ


 という音がして、ケインの足が千切れ、ケインが転倒する。


「ぎゃああああああああああああああ!!」

「ケイン!?」


 転げ回るケインに、ティアの両親が駆け寄ると、


「お父さんお母さん、どいて。とどめをさすから。」


 と冷たい声が聞こえた。

 そちらを見ると、そこにはティアが立っていた。


「ティアとどめってなに!?あなたがケインくんにこんなことしたの!?」

「ティア!止めなさい!まずは話しを・・・」


 両親がケインを庇ってティアの前に立つ。

 ティアはそれを見て、


「そう・・・邪魔者は・・・死になさい。」


 そう言って、ケインの父親を殺した火の魔法を放った。


「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」」


 ティアの両親は火だるまになって絶命する。

 そこからは虐殺だった。


 仲良く話していたおじさんも。

 仲の良かった友人も。

 いつもおまけしてくれていた雑貨屋のおばさんも。

 等しく全て殺された。


 そして、最後に残ったケインに近寄るティア。


「あなたのせいでこの村は滅びた。裏切り者に死を。」


 ティアの心は完全に壊されていた。


 ケインに手の平を向け、魔法を唱えるティア。


「やめてくれ!!助けっ」


 ドオンッ!!


 ケインは訳がわからないまま爆発した。

 爆死したケインの残骸を無表情に見下ろしているティア。

 

 パチパチパチ


 そこに拍手の音が響く。

 ティアがそちらを見ると、魔女が嬉しそうに立っていた。


「師匠。」

「おめでとうティアちゃん。見事な復讐だったわ!これであなたも魔女を名乗れるわね?そうね・・・愚者を殺す魔女・・・『断罪の魔女』を名乗りなさい。今日、あなたは生まれ変わったの。私がお母さんみたいなものね。」


 そう言ってティアを抱きしめる魔女。

 ティアの見開いた目から一筋の涙が溢れた。

 それが最後に残ったティアの正気だった。


「はい。母上。」


 それ以降正気を取り戻すまで涙が流れることは無かった。


「さぁ、行くわよティアちゃん。あ、その前に寿命を伸ばしましょうか。あの子で実験しておいて良かったわ。あの子は失敗して寿命そのものが無くなっちゃったけど、あなたはちゃ~んと調整してあげる!うふふ・・・」


 こうして、ティアはこの後10年程魔女と過ごす事になる。

 アンジェリカ達がティアを正気に戻すその時まで。

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