第六章 崩壊

第81話 不穏の足音

「光の様子が変?」


 現在は姫乃と灯里と共に、エデンに向かっている最中である。

 温泉旅行から、二週間近くがたった。

 表面上はいつも通りの健流、姫乃、灯里、光、充であったが、灯里と姫乃がそんな事を言い始めた。


「うん。なんかね?笑ってる顔に影が見えるっていうか・・・」

「ええ。心からの笑顔では無い気がするのよね。」


 姫乃と灯里が難しい顔をして言う。

 健流は首を捻る。


「考えすぎじゃねーか?あんまり態度は変わっ無ていように見えるが・・・」


 健流と接する光は変化は無い。

 だから、健流には違和感を感じる事は出来なかった。


 しかし、灯里と姫乃は違った。


「なんかね?温泉旅行の次の日、学校で顔を合わせた時からちょっと違和感があったのよね・・・」

「どうも一線引いているっていうか・・・何か思う所があるのかもって感じるの。」

「思う所・・・なぁ・・・そう言えば、結局、先に帰った原因もはぐらかされたままだったな。」


 健流たちは、学校で顔を合わせた際に、光に先に帰った理由を聞いた。

 しかし、光の回答は、


「ごめんね?ちょっと家の都合で・・・」


 というものだけで、都合の詳細は教えてくれていない。

 勿論、家庭の事情は様々なので、教えてくれなくても仕方が無いし、無理に聞き出すことも出来ない。

 しかし、どうも光の性格上、不自然に感じた健流ではあった。


 だが、その後、健流との応対は特に変わりが無かったので、いつの間にか忘れていたのだ。


「・・・もしかしたら、朝のお風呂での事を聞いていたのかなとも思ったのだけど・・・でも、人の気配は無かった筈なのよね・・・」

「朝のお風呂?なんの事?」


 考え込む姫乃に、灯里が疑問に思い尋ねる。

 灯里は、姫乃が健流に告白まがいの事をした事を、知らなかった。


「あ〜・・・まぁ、その、だな?」

「む!・・・姫乃!どういう事!?」


 健流のしどろもどろの態度に、灯里は何かあったと確信し、姫乃に問いただす。

 姫乃はドヤ顔をしながら、


「・・・なんでも無いわよ。ちょっと最終日の早朝に、健流に直接気持ちを伝えただけよ。一緒にお風呂に入って、ね。」


 と言い放った。

 灯里は苦虫を噛み潰した様な表情をした。


「!?あの時か!やられた!くそ〜!!健流!今日一緒に入ろう!」

「アホか!?出来るかんなこと!!」

「なんで!?良いじゃん!もう裸の付き合いしたんだし!!」

「人聞きの悪いこと言うのはやめろ!!」


 そんな風に言い合いながら、三人はエデン本部に到着する。

 そのまま、アンジェリカの執務室に移動した。


「やあ、三人とも。来てもらって悪かったね。」


 執務室には、いつもの様に、アンジェリカとクリミアが居た。


「問題ありません。それで、本日の要件は何でしょうか?」


 姫乃が、アンジェリカに尋ねると、アンジェリカは頷き、


「うん。ちょっと三人で任務を受けて貰いたくてね。クリミア。」

「はい。今回の任務は、対組織ではありません。その予備軍の壊滅です。」


 そう前置きして話し始めた。

 詳細はこうだ。


・ 最近、『牙』構成員の能力者の生き残り数人が、チンピラを集めて新たな組織を作ろうとしている。

・ 彼らは、極道や反社会勢力から以来を受け、非合法の薬を流したり、暗殺をしたりしている。

・ 構成員は現在30人程で、内、能力者は5人程。

・ 彼らは、名古屋市内の繁華街に潜伏しており、拠点は既に特定されている。


というものだった。

 『牙』は、既に壊滅しており、構成員の殆どは生き残っていないが、当時拠点を離れていた実行部隊の能力者が、少数生き残っていたのだ。

 

「今回の場所が繁華街という事もあって、あまり大規模な攻撃は困るんだ。だから、純粋な強化能力者の大和くんと、剣が主武器の灯里くん、その補助として、遠近両方をこなせる姫乃くんにお願いしたいんだ。」


 アンジェリカが、クリミアの説明の補足をする。

 三人は顔を見合わせた。

 別段、反対する理由が無い。


「わかりました。作戦はいつ決行でしょうか?」


 姫乃が代表して尋ねる。

 

「一応、明日、金曜の夜に強襲して貰おうと思っている。奴らが集る午後8時だ。」

「わかりました。一度エデンに立ち寄った方が良いでしょうか?」

「いや、良いよ。迎えの車を通学路沿いに配置する。車の中で戦闘用スーツと着替えを準備しておくから、そこで着替えてそのまま対応してくれたら良いさ。」


 こうして、三人は新しく任務を受諾した。

 


side光


 はぁ〜・・・今日も乗り切った。

 どうも、最近姫乃や灯里と話していると、態度が硬くなっちゃう・・・

 もうちょっとうまくやらないと・・・


 prrrrrrrrrr!


 あ!電話だ!?

 

「はい、光です。」

『もしもし?私です。』

「お姉さん?」


 なんだろう?


『明日面白いものを見せてあげるわ。夜、時間を開けられる?』

「夜・・・ですか?」

『ええ、もしかして門限とかあるのかしら?』

「はい・・・一応、午後7時までに帰らなくてはいけないのですが・・・」

『そう。午後8時に名古屋市内なのだけど・・・そうね。今お家かしら?』

「え?はい。帰って来たところですけど・・・」

『お父さんかお母さんは居るかしら?』

「お父さんは・・・いません。今は両親は離婚していますから・・・母親だけです。今家に居ますよ。」

『なら、代わって頂ける?』

「えっ!?あの・・・」


 なんで?

 でも・・・お姉さんの言うことだし・・・


『大丈夫。悪いようにしないわ。』


 私の母親は在宅ワークで働いている。

 基本的にはいつも家に居るの。


「・・・わかりました・・・お母さーん!ちょっと良い?」

「・・・どうしたの光。」

「ちょっと代わってくれない?」

「私が?誰なの?」

「その・・・知り合いなんだけど・・・お母さんと話がしたいって・・・」

「?わかったわ。もしもし代わりました。光の母親ですが・・・」

『私は光ちゃんの知り合いです。明日の夜、ちょっと光ちゃんをお借りしますね?少し帰宅は遅くなります。』

「え?それはどういう・・・」

『「良いわね?」』

「・・・はい・・・」


 なんだろう?お母さんが突然ぼーっとした顔になった。

 あれ?電話もう良いの?

 携帯電話を私に返してそのまま仕事に戻っちゃった。


『光ちゃん?お母さんの許可は取れたわ。明日午後6時30分に、名古屋駅の銀時計の前でいいかしら?ご飯代はこちらが出すわ。』

「そうなんですか?わかりました!けど、ご飯代は自分で・・・」

『良いのよ。ここは大人の見栄をはらせてちょうだいな。』

「・・・わかりました。ごちそうになります。」


 こうして通話は切れた。

 なんだろう・・・明日何を見せてくれるのかな・・・

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