閑話 幹部会議 sideアンジェリカ

 前田の起こした騒動について、幹部・・・すなわち、私、クリミア、Sランク『剣豪』渋谷十三じゅうぞう、同じくSランク『賢者』ティア・ブライト、同じくSランク『渦』セルシア・アーガットそしてAランク筆頭の『過去視』のレーアで会議をする事になった。。


 本来はここに姫乃くんが入るのだが、今回は外した。

 それには理由があるのだが・・・


「それでは幹部会議を始めます。」


 クリミアが会議室内で前に出て説明を始めた。

 おおまかな流れを説明していくと、幹部の顔に苦い表情が交じる。


 それはそうだろうね。

 何せ、Aランクにまでなった人間が、裏切るとは夢にも思っていなかっただろうから。

 しかも、理由は嫉妬。

 目も当てられないよまったく。


 クリミアの説明を聞き、全員が無言になる。

 すると、


「一つ良いか?」


 『剣豪』渋谷くんが挙手をした。

 彼は、45歳のベテランだ。

 能力は、名前の通り、刃物に力場を発生させ、なんでも斬る剣士。

 少なくとも、今までの実験で斬れなかった物は無い。


「今回の件、前田の犯行で間違いないのか?」

「彼については・・・レーア。」

「ええ、私が彼を前にしてサイコメトリーをしたわ。間違いなく、一連の犯行は彼の仕業ね。」


 そうレーアくんが言うと、渋谷は顔をしかめた。


「そうか・・・見どころがある奴だと思ってたんだが・・・今どんな状態なんだ?」


 すると、そこでレーアくんも表情を暗くする。


「・・・心は完全に壊れているわ。よっぽど恐怖を感じたのでしょうね。でも、わからないでもないわね。私もサイコメトリーで見て、鳥肌が立ったもの。」

「それをやったのは、新人くんなのですよね?」


 今度は、『渦』のセルシアくんが口を開く。

 それに対して、クリミアが回答した。


「その新人で間違いありません。名前は大和健流。現在はCランクですが、今回の件でBランクに上げる予定です。能力は『強化』ですが・・・彼の強化は段階があります。普通の強化でも、上昇率は比較になりませんが、更に向上します。但し、今回新たな事実が明らかになりました。強化状態で、理性を無くした可能性があります。」


 それを聞くと、みんなが息を飲んだ。

 レーアが口を開く。


「サイコメトリーで見たけど、全身から赤いオーラを発して、凄まじいスピードと破壊力になっていたわ・・・疾風が反応できないほどの・・・ね。もっとも、健流くんは獣みたいになっていたけれど。」

「おいおい・・・大丈夫か?そんな奴を入れてて。」


 渋谷が少し目の色を変えた。

 気持ちは分かる。

 能力者が理性を無くす事ほど、危険な事はないからだ。

 出来れば排除しておきたいのだろう。

 だが・・・


「彼には手出し無用だよ。」

「長・・・だがな?」

「彼は『神託』にあったエースだ。いくら君でも許可できない。」

「・・・はぁ、わかったよ。長がそう言うなら仕方がねぇ。」


 渋谷が、渋々納得する。

 

「神託と言えば・・・今回の同時多発テロの神託が無かったと聞いた。理由はわかる?」


 今度は、『賢者』のティアくんだ。

 

「それについては・・・アンジェリカ様から・・・」


 クリミアが気まずそうにそう言う。

 まぁ・・・仕方がないか。

 これが、今回姫乃くんを外した原因でもあるしね。


「うん。まぁ・・・結論から言うと、私は神と言われる者に今回の件で会ったんだよ。そこで理由を知った。」

「何!?」「「!?」」


 Sランクの三人が驚愕している。

 ・・・既に話してあるクリミアと、行く時に居合わせたレーアは複雑な顔をしているが。


「今回助けてくれた伝手の一人・・・彼は、神域とでも言うのかな・・・そこに行く手段を持っていてね。彼の手引で連れて行って貰った・・・というか連れて行かれた・・・というか・・・」

「・・・さっき報告であった、一個小隊を難なく壊滅させた女の片割れか・・・」

「ついでに言うと、その二人は『牙』も壊滅させている。理由は、新人の『天啓眼』を危険な目に遭わせたからから、だ。」

「牙を・・・」

「嘘・・・たった二人で?」

「・・・」


 絶句している3人。

 

「とにかく、その伝手については他言無用だし、詮索も無用だ。絶対に手出しはしては行けない。いいね?はっきり言って、私でも戦えば一瞬で殺される未来しか見えない。」


 そう言うと、その部屋にいる全員が唾を飲む。

 私は、これでもSランクと互角以上に戦える力を持っている。

 その私でも勝ち目が一切無いのだ。


「少し、ズレたが話を戻すと、そこで神は私に間違いなく神託を送ったと言った。だが、来ていない。そこに疑問を持ったその伝手の一人が、私と神のパスの間に、他の誰かがハッキングしているのを見つけた。」


「「「!?」」」


「残念ながら、すぐに接続は切られてしまったけれど、そんな事が出来るのは・・・」

「魔女・・・」


 ティアくんがそう口にする。

 その表情は苦虫を噛み潰したようになっている。

 気持ちはわかる。

 あいつは危険だ。

 それは、奴の弟子だったティアくんには、私以上に身を持って知っている事だろう。


「そうだ。もしくはその背後にいる者、だろうね。あの、私と同じか、それ以上の年月を生きる魔女、現代に生きる本物の魔法使い。奴が干渉した可能性が高い。その目的まではわからないが・・・」


 そう、奴の目的がわからない。

 だから後手に回っている。

  

「あの、全ての犯罪異能組織の生みの親とも言われている『魔女』・・・ですか・・・」

「きな臭くなってきやがった・・・」


 セルシアくんも渋谷くんが、考え込む。


「まぁ、いずれにせよ、いますぐ結論は出ない。ただ、奴が何かを画策している可能性が高いことをみんなも周知していてくれ。あ、そうそう、今日の会議の事は姫乃くんには内緒だからね。」


 そんな私の言葉に、首を傾げるSランク達。


「何故です?」


 セルシアくんの言葉はもっともだ。


「それはね?その伝手ってのが、彼女の相棒である大和くんや『天啓眼』の廻里くんの親しい人たちだからさ。向こうの希望で詳しくは言わないことになっているんだ。頼むね」


 これで、大丈夫だろう。

 それにしても、神域では衝撃の連続だったよ・・・あんなに疲れたのは初めてだ。

 本当に、彼が関わるとため息しか出てこないよまったく・・・


 本人を前にしては絶対に言えないけどね。

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