第64話 赤いオーラと謎の声

 ガリッ

 音が聞こえた。

 その音の方向を、ベンジャミン、姫乃、灯里は見る。

 

 すると、倒れた健流の指が、地面を掻いており、身体からはまた赤いオーラが吹き出して来ていた。


「健流!?また!?」

「さっきの・・・」


 姫乃と灯里は息を飲む。

 先程の健流を思い出していた。

 そして、ベンジャミンはというと、それを見ても然程気にしてはいなかった。


「(さっき見た能力か?だが、あれほどの状態から、そう対して力を震えまい。だが、さっさと止めを刺しておいた方が良さそうだ。)」


 そう言って無造作に健流に近寄っていく。

 この時、ベンジャミンが撤退を選択していたら、また未来は変わっていたかもしれない。

 だが、歴戦の戦士である彼は、だからこそ見誤ったのだ。

 これほどボロボロの状態から、自らを圧倒できる者などいないと過信したのだ。


「・・・てめぇらが・・・姫乃の・・・を・・・・・・か」

「ん?何かうわ言の様につぶやいているな。まあいい。さっさと止めを刺させて貰う。」


 ベンジャミンが足を大きく上げる。

 健流を踏み潰すつもりなのだ。


「「健流!!」」


 駆け寄ろうとした姫乃と灯里は、足を止めた。

 なぜなら、ベンジャミンの振り下ろされた足を、健流は片手で受け止めていたのだ。


「む!?」


 ベンジャミンは狼狽した。

 足を踏み降ろそうにも、手を振り払おうにも、一向に動かない。

 凄まじい力で握られていたのだ。


「くっ!離せ!はな・・・ぐあああああ!?馬鹿な!?」


 そして健流は、そのままベンジャミンの足を握りつぶした。


「ああああああああ!?」


 堪らず転げ回るベンジャミン。

 そして、ゆっくりと立ち上がる健流。


「てめえらが・・・てめえらが姫乃の人生を、無茶苦茶にしたのかぁ!!!!!!!」


 すさまじい怒声!

 部屋がビリビリと振動する。

 健流の身体からは先程、前田を倒した時に匹敵する程のオーラが噴出している。


「・・・健流の怒りに反応してるの・・・?」


 姫乃がそれを見て、呆然と呟く。

 しかし、灯里は、残り少ない精神力で天啓眼を発動させて健流を見ると、すぐに顔色を変えて叫んだ。


「健流!駄目!怒りに引っ張られちゃ!!帰ってこれなくなる!」


 それを聞いて姫乃は先程の惨状を思い出した。

 そして、


「健流!落ち着いて!怒ってくれるのは嬉しいけど!あなたが居なくなったらそれ以上に悲しいわ!!」


と叫んだ。


 健流の動きは止まる。

 意識を無くしかけていた健流は、二人の声で引き戻された。


 実は健流には、このオーラが発動している時に、ずっと聞こえている声がある。

 

=====殺せ=====


=====憎め=====


=====滅べ=====


=====こいつらは生きていてはいけない=====


=====力をやろう=====


=====身体を明け渡せ、そうすれば仇を討たせてやる=====


 それは、最初に発動したときよりも、段々と大きな声になっていた。

 前田を相手にした時には、他の声が聞こえなくなるほどのものだった。

 そして現在も・・・だから、


「うるせぇ!」


 健流は叫んだ。

 その声で、姫乃と灯里はビクッとして動きを止める。

 自分たちが言われたと思ったからだ。

 だが・・・


「黙ってろ!俺は俺の意思で姫乃の親の仇を討つ!お前の世話にはならねぇ!引っ込んでいろ!!」


 健流は、頭を振り払う仕草をした。


「(誰かの声が聞こえてるの?)」


 姫乃はそう推測する。 

そして、灯里も、


「・・・何かが健流を乗っ取ろうとしてる・・・?」


 そう呟くのだった。

 健流は上を見上げる。


「誰かの声に従って人を殺すなんて真っ平ゴメンだ!!俺が人を殺さなきゃいけねぇなら、それは俺自身が決意しなきゃ筋が通らねぇ!俺は、兄貴に、もう二度と筋が通らねぇ人間にはならねぇって誓ってるんだ!お前の声は間違っている!俺は・・・間違っている事に屈さねぇ!!なんだか知らねぇが、引っ込んでいろ!!」


 そう大声で叫んだ。

 すると、赤いオーラは段々と収まっていき、今は最初の発動時と同じ程度になっていた。


=====まだ時期尚早か・・・だがいずれ=====


 そんな声を残し、声は無くなった。

 健流は深呼吸して姫乃を見る。


「姫乃!今からお前の親の仇を俺が取る!止められるのはお前だけだ!」


 唖然としている姫乃にそう告げると、ベンジャミンに向き直った。


「クソ野郎。俺が今からてめぇを殺す。」


 目を真っ赤に光らせて健流がベンジャミンを見下ろすした。


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