第50話 救出任務(1)
時は健流たちが出発した直後に遡る。
健流たちが出発した時には、姫乃も準備を終え、愛知県の西側・・・豊田市内の山中に向かって出発していた。
「(前田さんは先日の件があるから、腹も立っているけれど、それでも、組織にとっては貴重なAランク。なんとしても救出しないと・・・)」
向かう車中でそんな事を考える姫乃。
「(それにしても『疾風』の前田さんがしくじるなんて・・・『ギガンテス』の幹部以上が相手になりそうね・・・油断はしないようにしなきゃ。)」
以前、『雷撃』のミハエルに痛手を負った時の事を思い出す姫乃。
それは、悔しい思いと共に、健流との思い出でもあり、内心複雑なものだった。
「(あの時の事は今思い返しても悔しいものだけど、あれが無ければ多分、健流との関係は今のようにはなっていないのよね・・・そういえば・・・)」
姫乃は、ふと思い出した。
「(今回、盗まれたあの短剣は、その時に使用された物なのよね。もし、敵の手に渡っていたら危険だし、他にも同一の物がある可能性がある。もしかしたら、前田さんもあれを使われたのかも・・・)」
思考の海に沈む姫乃。
しかし、段々と考え事は他事になっていき、最終的には、今現在別任務についている二人の事になっていた。
「(それにしても・・・健流と灯里は大丈夫かしら?健流は私がいない状況での任務は初めてだし、灯里はそもそも初任務だった筈・・・無事終わると良いけど・・・)」
二人の事が心配になる姫乃、しかし、心配はやはり段々と別の事になり・・・
「(・・・大丈夫よね?二人で危機を乗り越えただとか、そんなので、仲が進展したりしないわよね?・・・まさか二人で泊まって来たりしないわよね?許さないわよそんなの!)」
姫乃は段々と、心配と怒気がごちゃまぜになっていく。
そして、完全に自分を棚上げしていた。
「(駄目よ健流!いくら灯里が可愛いからって、そういう対象で見たら!・・・灯里は凄く真っ直ぐでとても良い子かもしれないけれど・・・真っ直ぐ過ぎて直球過ぎるけれど!いやらしい事は許さないわよ!私だってしてないのに!!)」
もはや完全に任務の事とは別物になっていた。
そして、自分が何を思っているのかも、かなりギリギリの事なのもわかっていなかった。
「(光さんの事もある。あの子も全身から好き好きオーラが出てるものね・・・あれに気づかない健流はやっぱり鈍感なんだわ!・・・人のこと言えないかもしれないけれど・・・いや、やっぱり違うわね!私の場合は、気づいても踏み込まれないように立ち回ってるし、踏み込まれても拒絶してるし!そもそも気づかない健流とは違うわ!!)」
自分の気持ちにも気づかない鈍感な事を棚上げし、健流に謎のマウントを取る姫乃。
「(・・・にしても、二人共凄いわね・・・よくあんな風に気持ちを押し出せて行けるわ・・・怖くないのかしら・・・拒絶されるのが・・・私には無理だわ。)」
姫乃は、すでに自分が健流に対し、恋人にする行為に匹敵するか、それ以上の事をしている自覚が無い。
やはり鈍感だった。
姫乃の表情は、考える内容によってころころと変わっている。
そんな姫乃をドライバーはちらちらと見ており、
「(・・・アルテミスは今回色々と考えておられるようだ・・・多分、様々なケースを想定していたり、『疾風』の心配をしていたり、相手の組織に対して怒りを感じておられるのだろうな・・・流石だ・・・)」
と、かなり的はずれな事を考え、勝手に尊敬の念を覚えていた。
しかし、そんな時だった。
姫乃の携帯に着信が入る。
「もしもし?」
『アルテミスですか!?前田です!!』
「えっ!?前田さん!?」
姫乃が表情を変える。
『敵に囚われていたのですが、今抜け出して来ました!』
「大丈夫ですか!?」
『ええ、大丈夫です!今の場所を伝えますので、迎えに来て頂けませんか?場所は・・・』
「わかりました。ではすぐに向かいます。本部には・・・」
『到着されるまでに、こちらから伝えておきます。』
「そうですか。わかりました。」
こうして、姫乃はドライバーに場所を伝え、前田と合流する場所に向かう。
この時に、姫乃が本部に問い合わせをしていたら、未来は少し変わっていたのかもしれない。
姫乃も焦りと安堵で気づかなかったのだ。
何故、姫乃が救出に向かっているのを知っているのか。
それが何を意味するのかを。
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