（本編完結済み）異能が全てを変えた日

第３９話 怒髪天

「てめぇら･･･ぶっ殺してやる！！」

　健流の瞳は怒りに燃え、髪の毛も逆だってきている。

　しかし、先ほどまで灯里と話ていた敵の男は、健流を見てホッとため息を吐いた。

「誰だか知らんが、一般人のガキが一人追加か。驚かせるな。この女を助けに来たのか？無謀な奴だ。これだから無能力者は。まぁ、いい。それよりも、先程の爆発音はなんだったのだ？おい、こいつを排除しろ。そして、外の確認をしろ。そこのお前。すぐに装置を起動して、この女を洗脳しろ。」

「「了解。」」

　男の命令に、部下と思われる男が指示に従い、一人は装置を起動しようと操作を始め、もう一人は無造作に健流に近寄って行く。

「あああああああああっ！？」

「灯里！今助ける！！」

　灯里の悲鳴が響き渡り、健流は一歩踏み出そうとする。

　しかし、行く手を阻むように、部下の男が前に立ちふさがった。

「悪いがボスの命令なんでな。恨むなら恨め。」

　そう言って、健流にナイフを振るう。

　ガシッ

「何？･･･ぎゃああああああ！？離せ！離せ〜っ！！」

　しかし、次の瞬間、ナイフを持つその腕は、健流に凄まじい力で握られる。

　ゴキィッ！！

「がああああああ！？」

「うるせぇ！」

　健流は膝をついて痛みを叫んでいる男の顎を、思い切り蹴り上げる。

　蹴られた男は天井に突き刺さり動かなくなった。

「なんだと！？」

　そこで、初めてボスと呼ばれた男は驚愕し、臨戦態勢に入った。

「貴様！何者･･･」

　ボスがそう誰何した時には健流はそこにはいない。

「！？どこに･･･」

「げぼっ！？」

　ドゴン！！

「！？」

　ボスが振り向くと、操作をした部下が壁を突き破り、拳を振り抜いた状態で健流が立っていた。

「貴様！能力者か！！」

　ボスが叫ぶが、健流は取り合わない。

「なんだこれ！？外れねぇし、電源もわからねぇ！クソ！こうなったら･･･灯里！耐えろ！おおおおおおおっ！！」

　健流は、思い切り拳を装置に叩きつける！

　グシャァッ！！！

　金属で出来ている装置は粉々に砕け散った。

「馬鹿な！？機械を素手で破壊するだと！？」

　ボスが驚愕する。

　そして、思考する。

「（･･･この男、危険だ！俺の能力は、狭い所で高出力を出すと、巻き添えを食らう可能性がある。取り敢えず、一旦外に出て、総力を持って相対した方が良い！）お前ら！外に出るぞ！」

　ボスとその仲間が出口から外に出る。

　健流は構わず灯里を抱き起こした。

「灯里！」

「あ･･･あ･･･た･･･け･･･る･･･」

　健流は、被せられていた装置を引きちぎり、灯里の頭から外した。

　灯里の目の焦点は合って居なかったが、それでも生きている事にホッとした健流。

「待ってろ･･･今、この糞共をぶっ飛ばして、助け出してやるからな･･･」

　灯里を床に寝かせ、部屋の隅で震えているスーツの女性に近寄り、縄を引きちぎる。

「エデンの人っすよね？こいつの事、見てて貰えませんか？」

「･･･あなた誰？なんで私がエデンだと･･･」

「俺は･･･アルテミスの相棒っす。」

「あなたが噂の！？･･･わかったわ。でも、私は研究員だから、戦う力は無いからね？」

「いえ、今は見ててくれるだけでいいっす。携帯渡して置くんで、こいつを診て貰えるよう、エデンに連絡しておいて下さい。」

「わかったわ。･･･あなたはどうするの？」

「俺は･･･こいつをこんな目に遭わせた奴らに･･･地獄を見せてくる。」

「ひっ！？」

　健流の憤怒の表情と、溢れ出る殺気に、悲鳴をあげて固まるスーツの女性。

　健流は表に悠然と歩いて行く。

　外に出ると、小屋を囲むように背丈５メートルを超える火の海が広がっており、敵は立ち尽くしていた。

　そんな敵に近づいて行く健流に、ボスが気づく。

「後だ！まずはこいつを殺す！俺がサイコキネシスで止めるから！一斉に攻撃しろ！」

　そう言って両手を向けたボス。

　近づいていた健流がガクッと動きを止めた。

「よし！今だ！こいつを･･･は？」

　健流は一歩、また一歩と敵に踏み出す。

「馬鹿な！？今こいつにどれだけの抵抗を与えていると思っている！？何故動ける！？」

　部下が健流に踊りかかった。

「邪魔だァァァァ！！」

　健流は拳を顔面にめり込ませ、そのまま振り抜いた。

　殴られた男は、振り子の様に、頭から地面に叩きつけられ、そのまま頭を支点に１８０度宙を舞い、そのまま地面に倒れ伏した。

　失神しており、もう起き上がる事は無かった。

「どけぇぇぇぇ！！」

　健流はそれを見て足を止めた敵にボディブローを食らわす。

「げぇっ！！」

　二メートル位、宙に浮いた敵を今度は蹴り飛ばす。

　蹴られた敵は、５メートル以上飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「な、なんなんだお前は･･･」

　そこで、初めてボスは自身の身体が震えているのに気がついた。

　自身のサイコキネシスは、間違いなくこの男の身体を縛っている。

　にもかかわらず、部下を圧倒する。

　強化兵であっても、二、三人まとめて固めたままねじ切る事が出来る筈なのに！

　そんな思いが頭をよぎるも、今はそれどころでは無い。

　一人、また一人と健流に排除されていく。

「き、貴様！能力者だな！？何者だ！我々が異能組織『牙』と知っての事かぁ！！」

「･･･知るかんなもん！俺がてめぇらをぶっ飛ばす理由は一つ。あいつをあんな目に遭わせたお前らが許せねぇからだ！！」

「そ、そんな事でだと！？」

「そんな事･･･？そんな事だとぉ！！」

　健流は駆け出す。

　その速度は早いが、サイコキネシスにより枷がかけられている分、充分目視出来るモノだった。

「何をしている！撃て！撃てぇ！」

　ボスの命令で、部下がハンドガンを撃つ。

　健流の身体に何発か当たる。

　だが･･･

「効くかぁ！！」

「あがっ！？」

　健流はハンドガンを撃っていた部下に走りより、そのまま飛び膝蹴りを顎に食らわせた。

　顎が砕けながら外れ、持っていたハンドガンを落とし、顎を押さえている部下の側頭部を蹴り飛ばし、昏倒させた。

「･･･銃が効かないだと！？そんな馬鹿な！！」

　ボスは困惑する。

　能力で銃を無効化するならわかる。

　上がった身体能力で躱すのもわかる。

　しかし、健流は、真正面から銃弾を受けて尚、関係ないとばかりに動き回っていた。

　実際、効いていないわけでは無い。

　健流の筋肉に銃弾はめり込み、骨に達しているものもある。

　しかし、強化された筋肉と骨は、銃弾の貫通を防いでいた。

　そして、同じく強化された反射神経と視力は、急所に来る弾丸のみを回避させていた。

「馬鹿ね。あんた達。鬼を起こしたわね。」

　そこに、鈴の音のように響く女性の声が響いた。

「誰だ！？」

　ボスが振り向くと、火の海が別れ、そこから一人の女性が入ってくる。

　ボスが･･･いや、全ての異能組織が危険視する女性が。

「ア、アルテミスだと！？何故だ！？どこから来た！？」

　つまらなそうにボスを見る姫乃。

「最初から居たわよ。あんたの仲間はここにいるので最後。全て排除したわ。」

　その言葉にボスは呆然とする。

「ま、まさか･･･最初の爆発は･･･」

「そ、おあいにく様ね。ところで、そんなにのんびりしていていいの？」

「･･･何？」

　すると、姫乃はボスの後ろを指差す。

「もう、あなた以外いないけど。」

「･･･な･･･」

　そこには、倒れ伏す部下達と、ボスを睨みつける健流がいた。