第34話 信じられない side黒瀬光

 私は今目の前で起きている事を信じられない。

 いや、違う信じたくない、が正しいのかもしれない。


「ええ、よろしく健流くん。」


 そう言って笑顔を見せる如月さん・・・とても綺麗な子だ。

 私も結構告白されたりしてきたけど、とてもかなわない。

 こんな綺麗な人は、中学校の時の先輩以来見たことが無い。

 あの人も綺麗だったけど、この子も負けてない。


 整った顔立ち、さらさらの絹のような黒い長髪、品の良い仕草、上品な物言い、腰の高さ・・・胸は私の方が大きいけど、無いわけじゃない。

 どちらかと言えば、すらっとしたモデル体型と言った方が良いのかもしれない。


 勝てるところはほとんど無い。

 でも、そんな彼女が、私の想い人である大和健流から名前呼びを受けているのだ。

 そして、本人も名前で呼んだ。


 以前から、如月さんは怪しいと思っていた。

 なんとなく、二人に流れる空気がおかしかったのだ。


 大和は、基本誰とでも仲良くなるタイプじゃない。

 どちらかというと、見た目なんかじゃなく、性格重視で人付き合いをするタイプだ。

 如月さんが転校してきた時、大和は興味なさげにしていたから、すっかり油断した。  

 どうしよう・・・こんな事になるなら、さっさと告白をしておけば良かった・・・


 如月さんが、大和を好きかどうかはわからない。

 でも、さっきの話し方だと、気に入っているのは間違いない。

 それに、大和も心を許しているような気がする・・・


 おかしい、進級してからいきなりライバルが増えた気がする。

 これまで大和は、他の人からはノーマークだった筈なのに!


 他のクラスに転校してきた、灯里ちゃん・・・廻里灯里ちゃんもそうだ。

 大和と凄く仲が良く見える。

 ん?廻里?・・・あの先輩も廻里だったような・・・

 

 まあ、今はそれどころじゃない。

 ゆっくりと行こうと思っていたら、いつの間にか最後尾になっていた気分・・・


 私は、大和とは一年生の時に知り合った。

 最初は、あまり気にしていなかった。

 むしろ、無愛想だった大和を敬遠していた気がする。


 でも、授業で瀬川と大和と三人で組むことがあって、その時に、実は大和が気遣いの出来る優しい人だと気づいた。

 それ以来、一緒に話をする事が多くなり、気づいたらいつも目で追うようになって、三学期の半ばには好きになっていた。


 特に、何かがあったわけじゃない。

 気づいたら自然と好きになっていたのだ。


 でも、理由はなんとなく想像できる。

 私には、一つ上に兄がいた。

 過去形なのは、兄は行方不明だからだ。


 兄が中学校を卒業した後、少ししてからある日突然いなくなった。


 正直兄は好きでは無かった。

 我儘だし、偉そうにしてたし、周りを見下し馬鹿にするような事ばかり言っていた。

 学校でも問題を起こして、親が呼び出された事もあった。


 その問題を起こした後は、おとなしくなったけど、逆恨みなのか、揉めた相手の事ばかり文句を言っていて、近づき難くなっていた。

 そういえば、兄がそれまで属していたグループに、あの綺麗な先輩もいた気がする・・・まあ、それはいいか。


 そんな兄が、ある日突然いなくなった。

 私は、はっきり言ってなんとも思わなかった。


 でも、兄がいなくなって数ヶ月たったある日、公園で仲の良い兄弟をみた時に、思い出した。

 小さな頃、まだ私が兄と仲が良かった頃、私は兄にべったりだった事をだ。

 兄は、ぶっきらぼうだったけど、そんな私を可愛がってくれていたと思う。


 それを思い出した時、私の心にぽっかりと穴が空いた。

 もう、兄には会えないかもしれない、そう考えると、とても寂しい気持ちになった。


 私が大和を好きになったのは、大和がその頃の兄になんとなく似ていたからかもしれない。

 ぶっきらぼうにしている癖に、実は優しい人。


 しかし、そんな大和を気にしている女性が出来てしまった。

 どちらも、とんでもなく綺麗だったり、可愛かったりしている。


 ピンチだ。

 はっきり言ってかなり不味い。

 

 どうしよう・・・

 これで二人共、大和と名前で呼び合ってる事になる。


 これ以上負けていられない!

 私も頑張らなきゃ!


 私が一番大和を好きなんだ!

 絶対に誰にも渡さない!!


 その為なら、私はなんでもする。

 どうなったって構わない。

 誰が相手でも負けてたまるもんですか!

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