第26話 初めての任務(4)
「さて、一応勧告するけれど、投降するつもりはあるかしら?」
「・・・ここで投降しても、おそらく組織に粛清されるだけだろう。ならば、一矢報いるまで!!おいっ!!『アルテミス』を足止めしろ!俺は男のガキを殺す!」
ここで、栗本は、残りの兵を姫乃に向け、自分は健流の方に向かった。
「この・・・させるかっての!・・・て、草薙?」
健流に目を向けると、健流は姫乃の目をじっと見た。
「(ここは任せて欲しい。)」
そんな健流の思いを
姫乃は大きくため息を吐く。
「いい?死ぬんじゃないわよ!『爆破』は任せた!」
「おう!任された!!」
健流は、自分の意を汲み取ってくれた姫乃に感謝した。
「ガキが!死ね!!」
そして、姫乃から距離を取り、健流に手の平を向けた栗本に対して
「あんがとよ。ボスキャラを譲ってくれてな。ボスキャラは経験値が多いって相場が決まってんだ。お前を倒して俺はもっと強くなる!行くぜ!」
爆発!
しかし、構わず突っ込む健流。
凄まじい衝撃が健流の体を襲う。
しかし、
「効くかぁぁぁぁぁぁ!!」
「何だと!?」
健流の服はボロボロで、体も焼け焦げた跡が見受けられる。
血も流れており、ダメージがある事もわかる。
しかし、健流は意にも介さぜず、栗本に突っ込んだ。
「くっ、来るなぁ!!」
ドォン!ドォン!!ドォン!!!
何発も健流に打ち込まれる爆発。
しかし、栗本は焦りの表情を変えなかった。
なぜなら・・・爆発の発生地点は、段々と栗本に近づいていたから!
「いい加減・・・死ねぇ!!」
既に、爆発による煙で、前方の状況はわからない。
しかし、確実に前にはいるはずの健流。
栗本は更に打ち込もうと・・・そこに、爆煙の中から手が伸び、栗本の腕を掴んだ。
「つか・・・まえたぁ!!」
「ひぃっ!?」
栗本の視線の先には健流がいた。
その表情は変わらず獰猛なまま。
そこら中から血を流しており、肌も焦げ、アザもある。
しかし、握る力は凄まじく、逃れる事は出来ない。
「こ、この!離せ!!」
この距離では、大爆発を起こせば、栗本も巻き込まれてしまう。
栗本は、掴まれた腕と逆の手の拳に『爆発』の力を乗せ、健流の頬を殴り飛ばした。
頬で小規模な爆発が起こり、健流が仰け反る!
「よしっ!・・・なっ!?」
健流はすぐに体勢を戻す。
健流の頬は腫れていたが、大きな怪我はなさそうだった。
「な、何故その程度の怪我しかないんだ!?化け物め!!」
そんな状況に、驚愕する栗本。
栗本の声には震えが交じる。
「痛ぇじゃねえか・・・」
健流は栗本の腕を引き距離を詰める。
「ドカンドカンと、やってくれたな、この野郎!!」
「ぐぎゃ!?」
その勢いのまま、健流は栗本の
栗本の鼻はへし折れ、鼻血が飛び散る。
「テロなんて陰険でしょうもない真似しやがって!」
「ぎゃああああ!」
健流はそのまま、掴んでいた腕を、強化した握力で折りながら、もう片方の手で胸ぐらを掴む。
「折角、人と違う力が手に入ったなら、困ってる人を助けてやれよ!このクズが!!」
「ぐがぁっ!?」
ゴキゴキッ!!
健流が栗本にアッパーカットを食らわすと、栗本の顎は砕け、そのまま後方に吹っ飛び気絶した。
「ふぅ・・・」
そうして一息つくと、
「このお馬鹿!!」
「ぐえっ!?」
頭を小突かれた。
振り向くと、全ての敵を排除した姫乃が、腰に手を当てて睨んでいた。
「な、なんで、しょう・・・か?」
「なんでしょうか、じゃないでしょ!?」
怒気を感じ取り、恐る恐る姫乃に問う健流に、姫乃は怒鳴る。
「なんて戦い方してるのあんた!ボロボロじゃない!!」
「い、いや・・・俺には遠距離攻撃なんか無いから・・・距離を詰めようと・・・」
「真っ直ぐ突っ込む奴がいるか!回り込むなり、障害物を使うなり、方法はあったでしょ!」
「その・・・面倒くさ」
「あ”あ”っ?」
「・・・なんでもありません。」
あまりの剣幕に、正直に答えるのはまずいと思い、健流は口を噤んだ。
そんな健流を見て、姫乃はため息をついた後、健流の頬に手を当て、
「あんまり無茶しないでよ・・・心配になるでしょ?」
そんな事を言った。
目は潤み、悲しそうな表情を見せる姫乃。
その表情を見て、健流は己のミスを悟り、頭を下げた。
「・・・すまなかった。お前の心を考えていなかった。仲間が傷ついてたら、良い気はしないよな・・・」
すると、姫乃は何故かもどかしそうな表情をした後、もう一度ため息をつき、
「”仲間”、じゃなくて”相棒”ね。私が相棒でいる限り、無茶な戦い方は許さないわ。わかった?」
「ああ、わかったよ。」
苦笑しながらそう言う姫乃に、同じく苦笑いしながら答える健流。
しかし、健流は、ふと、周りに横たわる敵組織の者たちを見て、
「そう言えば、こいつらどうするんだ?」
そう、姫乃に聞いた。
「ああ、こういう時は、待機しているサポート班の人が来て、拘束して連れて行ってくれるのよ。もう連絡してあるわ。前に、あなたが倒したミハエル達も、同じだったのよ。」
「そうなのか。」
ふーんと納得した健流を見て、姫乃はニヤリと笑った。
嫌な予感がした姫乃を見て、健流は心配になった。
「・・・なんだよ?」
「いや、ね?どうせあんたの事だから、無茶するなって言っても無茶するでしょ?」
「うっ・・・否定できんかも・・・」
「だからね?心配させた罰として、無茶するたびに、私の言うこと一つ聞いて貰うわ。」
「はぁ!?」
無茶苦茶な事を言う姫乃。
健流は姫乃に文句を言う。
このままにはしておけない!
「いや、なんでそうなるんだよ!?」
「嫌なの?」
「嫌に決まってんだろうが!」
「どうしても?」
「どうしてもだ!」
「じゃあしょうがないわね。」
ホッとする健流。
しかし、姫乃は再度ニヤリと笑い。
「じゃあ、これからは学校でも”健流”て呼ぼうかしら。きっかけは、そうね・・・週末に一緒に出かけて、ホテルで一緒の部屋に泊まって、ベッドで寝て、いつの間にか切っても切れない仲になったからって事にしようかな。」
「!?」
恐ろしいことを言い出した姫乃。
何が恐ろしいのかって、一つも嘘は言っていないことだ。
一緒に週末に出かけたのも(任務)
一緒の部屋に泊まったのも(アンジェリカの策略)
ベッドで寝たのも(仮眠を取っただけだし、別々のベッド)
いつの間にか切っても切れない仲になったのも(相棒となったし、今回の任務でとは言っていない。)
悪意しかない。
脅迫である。
「・・・汚ねぇぞ。」
顔は冷や汗でいっぱいだ。
対象的に姫乃はというと、わざとらしく真剣な顔をしていた。
「何が?私、嘘言ってた?」
「くっ・・・」
「まぁまぁ!大丈夫よ!無茶な戦い方しなきゃいいんだから!」
「・・・ぐっ・・・」
「勿論、心配させた埋め合わせだから、今回からね。」
「はぁっ!?」
健流、二度目の「はぁっ!?」である。
「えっ?何か文句ある?」
ニマニマしながら健流を上目遣いで見る姫乃。
そんな姫乃を見て、健流はため息を漏らす。
「(駄目だ・・・嬉しそうにしているこいつ相手だと、何故か反抗心が出てこねぇ・・・なんでだ?)」
「ん?」
ダメ押しの超笑顔の姫乃。
健流は全てを諦めた。
「・・・わーったよ!あんまり無茶言うなよ?」
「
こうして、敵では無く、味方に完全敗北した健流は、苦笑しながら車に乗り込むのだった。
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