第18話 調査結果

「遠慮無しだったね。驚いたよ。」


 エレンが姫乃に近寄りながらそう言う。

 健流はスタッフから手当を受けていた。


「・・・手加減出来なかったのよ。」


 そう姫乃が呟く。

 それを聞いたエレンとアンジェリカ、クリミアは驚きを見せた。


「姫乃さんが手加減出来なかったのですか?圧倒しているように見えましたが・・・」


 クリミアが疑問を姫乃にぶつける。

 姫乃は口を開いた。


「途中まではね。でも、最後の動き・・・あれは、ミハエルを倒した時の動きだった・・・」

「確かに、最後の動きは凄かったね。そこから推察するに、彼は強化状態から、更に強化出来る事になる。最後の動きは、通常時のおよそ10倍だよ。」


 姫乃の言葉に、エレンが結果と推測を織り交ぜ說明した。


「やっぱり・・・私も奥の手の短距離転移を使わされたもの。あれを使うと一気に精神力が減るから、滅多に使わないんだけど・・・そんな事を言っていられなかったわ。」

「ふむ・・・能力者は、その習熟度によって、身体能力が上がる。姫乃くんクラスになれば、強化兵であろうと、能力無しでも勝てる。それでも、その姫乃くんが奥の手を使わされる程の強化を、大和くんが使用した、という事か。」


 アンジェリカが結論をつけた。

 姫乃は頷く。


 姫乃の月光は、視界にある空間に干渉する能力だ。

 炎を生み出す、強風を生み出す、岩の壁を生み出す、これは先程の模擬戦でも見せたものだ。

 しかし、短距離転移は少し違う。

 空間に干渉するというより、干渉した空間を自分の位置と入れ替えるというもの。

 その分の負担はかなり大きい。

 それだけ、健流の速度は姫乃にとって危険であったという事だった。


「と、なると・・・大和くんの育成プログラムとしては・・・」

「素の状態の力を上げることと、強化の比率の向上を目指すこと。」


 アンジェリカとエレンが結論を出す。

 

「う・・・ん?俺は・・・ああ、そうか、負けたのか。」


 そのタイミングで健流は目を覚ました。


「大丈夫かしら?」

「・・・ああ、大丈夫だ。でも・・・くそっ!負けちまうとは・・・悔しいぜ!」

「これでも、最高戦力だからね。」

「へん!せいぜいふんぞり返っていやがれ!その内負かしてやる!」


 健流の悔しそうながらも、姫乃を越えるという気概。

 それを見て、姫乃は何故か嬉しくなってしまった。


「あらそう。なら、頑張るのね。私に勝ったらご褒美あげるわ。」

「言いやがったな?なら、クソ高っかいもんか、無理難題を言ってやる!」

「ふふふ・・・頑張ってね。じゃあ、それまでは、模擬戦に私が勝つ度に、ご飯奢ってもらおうかしらね。」

「・・・上等だ!」

「とりあえず、今日はラーメンよ!」

「ぐっ・・・わかった。」


 そんな二人のやりとりを見て、笑顔になるアンジェリカ達三人。


「・・・姫乃さんの力を前にして、あのセリフが出てくるとは。」

「彼の前向きな精神は、如月くんにいい影響を与えてるね。あんな笑顔見たことがない。」

「・・・やっぱり、彼は私達のエースだね。それに・・・姫乃くんにとっては・・・エースよりもキングなのかもね。」

「そして彼女はクイーンかい?」


 微笑ましそうに見る三人。

 今まで張り詰めたようにしていた姫乃のが、初めて見せた笑顔。

 これは、彼女達組織のトップ陣にも良い影響になるようだった。


 こうして、訓練と模擬戦は終わり、アンジェリカ達に挨拶をした後、帰宅の準備をする二人。


 地下訓練室を後にして、本部ビル入口に二人で歩いて行く。

 

「どこのラーメン屋にしよっかな〜♬」

「・・・ご機嫌で何よりだよちくしょう・・・」

「そんなにむくれないの!・・・ふふふ。」


 そんな仲睦まじそうな二人・・・というか、姫乃を見て驚く職員達。

 彼らは、いつも無表情に近い姫乃しか見ていなかったのだ。

 驚くのは無理もない。


 しかし、そんな時だった。


「如月さん!お久しぶりです!」


 そんな声が通路に響く。

 二人して振り向くと、そこには健流や姫乃よりも少し歳が上の男が、走り寄って来ていた。


「・・・こんにちは。前田さん。」


 姫乃はもう無表情に戻っていた。

 健流は首を傾げる。


「(なんでこいつ、表情隠してんだ?)」


 しかし、そんな姫乃の様子に気づかないのか、前田と呼ばれた青年は姫乃にしきりに話しかけている。


「今、任務から戻ったところだったんだ。如月さんは今から帰りかな?」

「はい、そうですが・・・何か御用でしょうか?」

「せっかく会ったんだから、食事でもどうかな?良いお店があるんだ!きっと満足すると思う!どうかな?」


 姫乃の表情はまったく動いていない。

 前田は気にしていないようだ。


「・・・お気持ちは嬉しいのですが、お断りします。」

「相変わらずつれないなぁ・・・でも、僕がきっと、君が寄りかかれる存在になって見せるよ。張り詰めている君には、そんな存在が必要なんだ!」

「(おーおー。こいつ、姫乃の事好きなんだな。で、頑張ってるってわけか。そりゃご苦労様って事だな。)」


 健流は、そんな二人の様子をしらっと見ていた。

 そして、「(これ、こいつに夕食押し付けたら、奢らなくていいんじゃね?)」と考えついて、姫乃に挨拶をして先に帰ろうと、一歩足を踏み出しかけた時、事件は起こった。


「お生憎様です。残念ながら、私は、彼と夕食のラーメンを食べに行くことになっていますから。」


 姫乃が健流の腕を掴み、健流を睨みながら、そう前田に告げたのだった。

 前田はその様子に驚いた後、健流に目をやり、鼻で笑うそぶりを見せた後、


「・・・如月さん。君は、この組織の最高戦力なんだ。もう少し、相手を考えた方が良いんじゃないかな?」


こう告げた。


自分が姫乃の逆鱗に触れる事に気づかずに・・・

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