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「さて、まずはここに集められた人達のことを把握したい。ざっと見た限り部屋は10部屋ある。台本みたいなのに目を通した感じだと、集められている解答者とやらは全員で8人いるみたいだ。部屋の数と解答者の数が合わないのは気になるところだけど、俺達以外の解答者の中に何か知っている人がいるかもしれない。手分けをして他の解答者から話を聞こう」
ここの構造はいたってシンプルだ。廊下があって、その廊下の左右に5つずつ扉がついている。その先は楽屋と呼ばれる部屋であり、廊下の先はスタジオへと続く。まずは出口を探そうと考えていた司馬であるが、協力者を増やすのが最優先だと考え直した。この時間帯での脱出は無理であっても、次の収録前の時間で脱出することが可能かもしれない。脱出口を見つけ出すにしたって、人手が多いことに越したことはないだろう。
「分かりました。じゃあ、私はこっち側に呼びかけてみます」
アカリはアカリの楽屋がある列を、司馬は司馬の楽屋がある列を――。自然と役割分担が決まり、そして2人は動き出そうとした。ひと部屋ずつノックして回るつもりだったが、どうやらその手間は省けたらしい。2人の会話が聞こえていたのか、まるでタイミングを見計らったかのように、いくつかの楽屋の扉が開いた。
「誰かが何かを知っているのならば、俺にも教えて欲しいもんだね」
楽屋から出てくるなり口を開いたのは、身長が2メートルくらいありそうな大男だった。身長もさることながら横幅もある。ただ、脂肪がついているわけではなく、筋肉の塊のようだった。
「あのぉ、下手なドッキリだったら早めに言って欲しいんだけどぉ。
そう言うのは、実に奇抜な格好をした女性だった。ただ、その奇抜な格好はどこかで見たことがあった。歳は20代前半といったところか。明らかに周囲に媚びを売っている――というか、ぶりっ子をしている。ぱっと見た印象だけで決めるのは申しわけないが、おそらく同性から快く思われないタイプだ。
廊下が騒がしくなってきたのか、また別の楽屋の扉が開く。ただ、扉から誰かが出てくることはなく、顔の真っ白な女性が顔を覗かせた。長い髪を真ん中から分け、ややおでこが広い印象。切れ長の眉毛と、細長の目は猫を連想させた。
「あ、アイドラ乙女の
決して部屋から出てこようとはせず、あくまでも顔だけを扉の隙間から出している様子の女性。彼女は、どこかで見たことのあるような奇抜な格好をしている女性のほうを見て、ただぽつりと呟いた。そんな彼女の楽屋の扉には【
「あー、私のファン発見しましたぁぁぁぁ! この桃山凛ちゃんを知ってるなんて、お主なかなかお目が高い。ねぇ、握手しますぅ? 握手」
おそらく、伊良部柚木という名前であろう女性のところへと向かうと、扉の向こう側に手を突っ込み、戸惑う柚木の手を引っ張り出す凛。両手で柚木の手を握ると、オーバーに握手をした。その動作の過程で、部屋を出ざるを得なかったのであろう。自然と柚木が部屋から引っ張り出される形になった。
「アイドラ乙女――って、確か男関係がスキャンダルされて脱退したメンバーがいたグループだよな」
そのやり取りを見ていた大男がぽつりと呟く。なんとなく、彼が出てきた楽屋の扉のほうに視線をやると、みんなと同様に名前が書いてあった。彼の名前は【
「……凛、空気読まねぇ男とか、マジ無理なんだけど」
露骨なまでのぶりっ子は、やはり本性ではないのだろう。それが分かっていても、長谷川の言葉を受けての変わりようには驚いた。凛は典型的な裏表のある人間なのだろう。
「あ、そうだ。私は木戸アカリって言います。えっと――」
凛が態度を急変させたことで重たくなった空気を払拭するかのごとく、アカリが声を上げながら長谷川のほうへと視線をやった。まだ出会ったばかりであるが、アカリは周囲への気遣いができるタイプなのかもしれない。
「長谷川大だ。こんな図体をしてると、スポーツのひとつでもやっているのか――って聞かれるんだが、筋トレが趣味なだけで、仕事は公務員をやってる」
長谷川はそう言ってアカリに握手を求める。アカリは「改めて、木戸アカリです」と握手を返すと、そのまま視線を柚木のほうへと流した。
「わ、私っ? 私は伊良部柚木っていいます。これでも、一応高校の教師です」
言われてみると、グレーのジャケットにグレーのパンツスーツと、良く言えば小綺麗な――悪く言えば飾り気のない格好をしている。それでも、化粧はアカリよりやや濃いめに見えた。もちろん、それ以上にキャラクターの強い人物がいるため、アカリも柚木も地味に見えてしまうのだが。
とにかく、自発的に楽屋を出てきたのは司馬達を含めて5人。
司馬自身はIT会社を自ら立ち上げ、今現在も社長として経営に携わっている。社会人――という括りがあまり得意ではなく、型にはまりたくなかったということもあり、髪の毛は肩くらいまで伸ばしているし、あごヒゲも手入れしながら伸ばしていた。どれだけ髪の毛が伸びていようとも、ヒゲを伸ばそうとも、清潔感があればいい。脂でギトギトした七三分けや、夕方あたりに青ヒゲが出てくる状態なんかよりは、よっぽどいいと思っている。20代前半で会社を立ち上げ、まだ30代手前なのだから、若くして成功したほうではないかと自身では思っている。
木戸アカリと名乗った彼女は、見た目はかなり地味であるが、もっと化粧をしっかりとすれば、結構化粧映えする顔立ちではある。おそらく勤めている会社の制服姿なのだろうが、足元がサンダルという詰めの甘さから察するに、大企業のOLではないだろう。申しわけないが、会社の気品というものは自然と社員の身だしなみにも反映する。ただ、1人の人間としては、しっかりと周囲に気を配れるような印象が強い。多分、歳は同い年くらいだ。
もっともキャラクターが濃いのは、やはり奇抜な格好をした桃山凛であろう。言われてみればなるほど、彼女の格好はアイドルの格好のようにも見える。アイドルというくらいだから、やはり顔立ちは抜群であるが、それを自覚している上での立ち回り――あざとさが滲み出ている。先ほど、態度を急に一変させてこともあり、表裏の激しさはもちろんのこと、一癖も二癖もありそうな人物である。言動もそうだが、姿格好からして、まだ20代になったばかりくらいだろう。
思わず見上げてしまいそうなほどの身長の長谷川大は、その見た目とは違ってスポーツ選手などではなく公務員らしい。ぱっと見た感じでは若く見えるが、雰囲気的には司馬より歳上だ。まず間違いなく40代後半くらいであろう。短髪に強面の顔がしっくりときている。
誰よりも警戒心が強いのは、きっと彼女であろう。高校の教師をしているという伊良部柚木だ。切れ長の眉と細い目、猫の額――なんて表現があったりするが、猫のような顔立ちをしている彼女のおでこは広い。それを強調するかのように、頭のてっぺんから左右に横分けしている辺り、きっと彼女自身もおでこの広さはチャームポイントになっているのだろう。事実、司馬もおでこの広い女性は嫌いではない。
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