第6話 君は誰?

「………朝陽はるき


 何故、彼を忘れていたのだろうか。

 私の、最愛の人。

 大好きだった人。

 寄り添ってこの先の未来も歩いていきたいと想っていた人。


「元気そうで良かった! 咲桜さくら


 彼はいつも、私に沢山のものを与えた。

 喜び。

 哀しみ。

 慈しみ。

 嫉妬。

 独占欲。

 焦り。

 不安。

 共感。

 幸せ。

 高揚感。

 二人の夜の暖かさ。

 独りじゃないと言うこと。


ーーー空が青いと言うことさえ、まるで貴方が教えてくれたようだ……。


 世界の眩しさ。

 誰かを、好きになると言うこと。ーーー全てがプラスのものではなかったが、それが、愛なんだと思った。



 私の、初恋の人。



「……………、せんぱい」


 後ろから声がかかり、振り返る。

 先程まで、『最愛の人』だと想っていたその人が二人分の傘を持ったまま立ち尽くしていた。



 ザーッ。



 音が戻ってくる。

 まだ、滝のように雨が降っていた。

 脳みそがまだ混乱している。

 そうだ私は……ずっと一途に、朝陽のことが好きだった。

 そして、私は……この『彼』の事を……よく、知らない……。

 蘇ってきた本当の記憶の何処にも、彼を見付けることが出来ないでいた。




「……………君は、誰なの…?」




 その朧気な瞳の奥に哀しみの色を携えた彼は、口許だけ緩やかな弧を描き、静かに、笑った。








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