踏み出せない一歩

 ルヴァン視点



  家に帰ってすぐ、俺は防具を脱ぎ捨てるとベッドに倒れ込む。

 

「はぁ、疲れた」


 いつもの口癖で思わずそう言葉にしたが、実際はそこまで疲れていない。今日受けたのは簡単な依頼だけだったし、姫様にも会っていないのだ。疲れる理由なんてない。


 …いや、嘘だ。俺は疲れている。姫様が近くにいるのを気づいていながら、見て見ぬフリをしてしまったことをずっと後悔して。精神的にかなり疲れている。


「……後悔するくらいなら、動けよ馬鹿」


 そう毒突くも、きっと俺は次もまた同じことをするだろうことが予想できる。そんな自分に嫌気が刺し顔を顰めた。


 彼女が苦しんでいるのは分かっているのに。


 救いを求めていることも。


 だけど、その方法が分からない。

 

 だから、俺は踏み込みたくても踏み込めない。


 無責任に彼女をまた苦しめたくないから。


「モンスターから助けるだけなら簡単なんだけどな」


 ただ助けることを考えて剣を振る。そんな単純なことならいくら良かったか。人間関係は複雑過ぎて不器用な俺には手に余る。


「けど……どうにかしたいんだよなぁ」


 モブには過ぎた願いだとしても。


 あんな痛ましい顔をする女の子を放っておくなんてことは、俺には出来ない。


 救いたいという気持ちと傷つけたくないという気持ち。その相反し合う気持ちが俺の中が混在していて、中途半端なことしか出来ないでいる。


「早くケリつけてないとな」


中途半端が一番彼女を無意味に苦しめてしまうと分かっているから。早く覚悟を決める必要がある。そう決意して、手を強く握り締めた。


 が、そう決意を固めた俺だったが中々決めることが出来ず、姫様と顔を合わせることもなく一週間が無意味に過ぎていくのだった。




 アリエス視点


「はぁ、はぁ。……戻ってこれたか」


 私は今日も傷ついた身体を引き摺り、一週間と少し住み慣れた隠し部屋に入ると安心感から力が抜け、その場で倒れ込む。

 その際に、解体した素材を入れている袋も床に転がり、隙間から綺麗に解体できるようになったモンスターの肉が顔を覗かせた。

 一週間前のあの日から私は解体が出来るようになった。鱗や牙、肉だって何もかも。自分でも上出来だと思うほどに。だけど、それを伝える相手にはここにはいない。

 食べ物と交換する話だったのに、今日もマジックバッグの中身は減ることもなく、食料だけが置かれている。

 明らかに避けられている。………いや、嘘だ。この場合は私が避けていると言った方が正しい。

 何回も顔を合わす機会はあったのに、怖いから私はいつも彼が帰るまで隠れてしまう。

 最初は、バレていないと思ったがルヴァン殿程の実力者があの程度の隠密を見破れないはずがない。

 きっと、私が隠れているにも気付いているはずだ。

 それでも、気づかないフリをしている彼には感謝していると同時に、彼の優しさに甘えている自分がとても情けなくなる。


「……ルヴァン殿」


本当は彼に話したいことが沢山ある。


 ありがとう。


 ごめんなさい。


 凄いだろう。


 強くなったぞ。


 あれは美味しかった。

 

 大事なことから口に出すのもしょうもないことまで、たくさんたくさんある。


 でも、そうしたいのに私の身体はすくんでしまう。


 ごめんね。


 君の気持ちは嬉しいんだけど。


 僕は帰られないといけないから。


 ごめん。本当にごめん。


 頭でルヴァン殿は勇者様と違うことは分かっているのに。つい、どうしても重ねてしまって胸が苦しくなって仕方ないのだ。


 私は膝を抱え身体を縮こめる。そして、暫くして落ち着くと、ぐうッとお腹が泣いた。

 起きてから、すぐに朝食を取らず何時間も狩りをしていたのだ。仕方ないだろう。

 私はルヴァン殿が置いていった紙袋から、パイを取り出すと少しだけ食べる。


それは、時間がかなり経っているのにも関わらず何故か温かった。


 

 


 

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負けヒロインがダンジョンに落ちてたので連れ帰ってみることにした 睡眠が足りない人 @mainstume

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