弱さ

 ルヴァン視点


 「はぁ、憂鬱だ」


太陽の日差しによって目を覚ました朝。俺はこれからのことを考えて、思わず溜息を吐く。

 昨日の夜、リュディに相談して返ってきた答えは単純であったがそれ故に難しかった。

 

『…何事もないように振る舞うのが一番……気にされてると申し訳なくるから』

「……何事にもないように振る舞うね」


俺には無理だ。姫様と顔を合わせれば、演技が下手な俺は絶対何かしらのところでボロが出てしまうだろう。

 だが、しかし姫様のところに行かないわけにもいかない。解体が出来る様になったとはいえ、彼女は火を起こす魔法を使えないため食べることは出来ないのだ。食料を持っていかなければ姫様は死んでしまう。


「どうしたもんか」


そう言って、とりあえず俺はベッドから起き上がり顔を洗いに洗面台へ向かう。顔を洗い、鏡を見るとそこには陰鬱な顔した自分がいた。



 「おっちゃん。串肉十本くれ」

「はいよ。銀貨一枚な」

「ほい、あざっす」

 

 串肉を売っている店主に銀貨を渡すと、紙袋に入った肉を受け取る。鞄ににしまおうとしたところで、腹が空腹を訴え一本だけ抜き取り齧り付く。

  齧り付いた肉はオーク肉で肉汁が溢れ、朝食うには重過ぎたと食べてから反省した。

 串肉を片手に、ギルドへ向かっていると何人かの騎士達が町人に何かを聞き込んでいるのが目に入った。

 どんなことを聞いているかある程度予想できるが、興味を惹かれた俺は騎士達の声が聴こえるところまで近づく。


「……銀髪の髪を持った少女を見なかったか?」

「んや、見てないね」

「今まで一度もか?」

「ないねー。そんな派手な髪をしている子が居たら、絶対記憶に残ってると思うし」

「そうか、協力感謝する」

「いえいえ、こちらこそ力になれてなくてごめんね」


 騎士は頭を下げると、すぐにまた別の町人に声を掛けに行った。


 (今のところまだ、姫様がある場所に目星は付いてないっぽいな)


 あの騎士の反応を見るに、ここにいるとは思っていないのだろう。とりあえず、しらみつぶしに聞き込んでいる。そんな感じだ。

 

「まだ……三日しか経ってないんだよな」


姫様と出会ってからの日々は色濃くて、かなりの時間が流れているような気がしていた。

 けど、実際はまだ出会って三日の付き合い。そんなに時間が経っていないことに今更気が付いた。

 

「もっと早く出会ってれば、何か変わったんだろうか?」


 空を見上げながら、もう少し前から出会っていた世界線を想像してみる。だか、それでもこの現状は変わっていないような気がして、すぐに考えるのを止めた。


「……本当俺ってダメな奴だな」


 そう小さく呟くと、俺は再びギルドに入り依頼を受けた。そして、それを一時間程度で終わらせ、姫様と顔合わせる前に食料を置いてすぐに迷宮から帰還した。




◇アリエス視点


 「はぁ、はぁ」


 大量のモンスター達の群れを倒し、一段落ついた私を壁を背に座り込んだ。


 (どれ程時間が経っただろうか?)

 

 目の前に転がる屍達を何となしに眺めながら、止めていた思考を私はここに来てようやく動かし始める。

 ルヴァン殿と別れて、私は自分の弱さから目を逸らすために戦いに明け暮れた。何も考えず、我武者羅に。

 迷宮で何も考えず、戦い続けるのはハッキリ言って馬鹿のすることだが、迷宮に篭ってレベルが幾つか上がったおかげで何とか生きれている。神の加護に感謝せねばならない。


「はぁ…どうしようもないな。私は」


 震え出した手を見つめ私は独りごちる。

 頭を動かし始めた途端に、ルヴァン殿のことを思い出してこれだ。自分に本当嫌気が差す。


「うわっ!」


 私はまたモンスター達と戦おうと立ち上がろうとして、足がもつれたたらを踏む。どうやら、身体は現実から逃げることを許してくれないらしい。

 魔力はある。けど、それを使ってまだ戦うという簡単なことも思い付かないくらい私は疲れていた。


「仕方ない…帰るか」


 きちんと両足で地面を踏み締め、私が寝床にしている隠し部屋へ向かう。が、その足取りは重くゆっくりとしか景色は動かない。

 けれど、休息を求め一歩ずつ着実に前へ進んでいく。隠し部屋付近に着くと誰かが近くにいる気配を察知した。

 私は気配を殺し、ゆっくりと相手を確認するため壁から顔を覗かせる。


「……ルヴァン殿」


 そこに居たのは荷物を持ったルヴァン殿。

 私は慌てて壁に隠れた。

 ルヴァン殿はおそらく食料を持って来てくれたのだろう。昨日あんなことをしたのに優しい人だ。

 礼を言わなければならない。

 そう頭で分かっているのに、身体がすくんで動かない。

 

「……弱いなぁ。私はどうしようもなく」


 ルヴァン殿が居なくなるまで、私は自分の弱さを嘆いた。


 


 


 


 

 




 


 


 


 


 


 

 




 

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