負けヒロインと勇者の影
アリエス視点
「……これで出来ているだろうか?ルヴァン殿」
ナイフバードを何とか解体し終えた私は、ルヴァン殿に恐る恐る尋ねた。
何故、私がこんなにも低姿勢なのかというと、それは一重に私の自業自得である。
お昼ご飯を恵んでもらった後、私はルヴァン殿に解体の仕方を指導してもらっていた。前に教えてもらったナイフの持ち方や刃の入れ方など、一からもう一度。だが、ここまで丁寧に教えてもらったのにも関わらず、私は一度も解体が出来なかった。毎回臓器を傷つけ駄目にしてしまうのだ。そのせいで、呆れながらも教えてくれたルヴァン殿の表情は、感情を失い私が失敗すると、無言で新たなモンスターの死体を差し出してくるようになった。
正直に言うと、お母様に怒られた時以上に怖い。
人は怒ると感情を失うというのは、こういうことなのかと身に染みて思い知った。だから、私はルヴァン殿に怯えながら解体したお肉を差し出す。
ルヴァン殿は、お肉を受け取ると丁寧に色んな方向から鑑定する。
「「……………」」
この無言の鑑定時間が、今回は出来ているのだろうか?と私をどうしようもなく緊張させる。
ルヴァン殿の顔色を伺い、鑑定の結果を待つ。
「……はぁ」
やがて、お肉を見るのを鑑定するのを止め、ルヴァン殿は小さな溜息を吐いた。
(また駄目だったか。そして、溜息を吐いたということは……遂に、見捨てられるのだろうな)
体感だが、私が解体を教えてもらったから五、六時間は経っている。それ程までに、時間を掛けてもらったのにも関わらず出来ていないとなれば、誰だって見切りをつける。しかも、何も見返りももらっていなければ尚のことだ。
『ごめん、君の気持ちは受け入れられない』
ルヴァン殿が私から離れていく。そう考えた時、勇者様に振られた時のことが脳裏を過った。
関係も何もかもが違うのに、勇者様とルヴァン殿の姿が重なり胸が苦しくなる。
「……ッ」
私は耐え切れなくなって、ルヴァン殿から顔を逸らす。
ゴソゴソとルヴァン殿が動く音だけが暫しの間聞こえ、数秒後こちらに近づいてきた。
(これで終わりだな)
「合格だ」
私は瞼をゆっくりと閉じ─
「えっ?」
─ 予想外の言葉を掛けられ直ぐに瞼を開けた。
(どういうことだ?)
今までの反応を見るに、絶対に投げかけられないであろう言葉を投げ掛けられ、私は唖然としルヴァン殿の方を見る。
「予想外って感じだな。まぁ、俺の反応を見てる限り合格なんて出すと思わないか」
「あぁ、全く分からないぞルヴァン殿。あの溜息は失望から出たものではないのか?私はてっきりこのまま見捨てられるのかと」
「はぁ〜?流石にここまで面倒見て、放り出す程人間って腐ってねぇよ。それに、今回の食料分素材を貰ってねぇし、出来るようになるまで面倒見るに決まってるだろ。後、姫様が俺の溜息を聞いて失望してると思ったのは正しいぞ。ここまで出来ないと思ってなかったからな」
「俺の貴重な休みの時間を奪いやがって」と、げんなりとした顔をするルヴァン殿。
私は、ルヴァン殿の話を聞いて身体に入っていた力が抜けその場に座り込んだ。
「ハハッ、そうか、そうなのか。そういうことだったのか」
どうやら、私は勇者様達と別れたせいで人との別れに対して敏感になっていたようだ。それで、私は勘違いして勝手に暴走し自爆していただけ。何て馬鹿馬鹿しい女だ、私は。
あまりの馬鹿さ加減に私は思わず、卑屈に笑った。
「すまないルヴァン殿。私のせいで大切な休日を潰してしまって、この埋め合わせは大量の素材でさせてくれ」
「じゃあ、明日までにナイフバード百匹分頼む」
「それは、流石に無理だぞ!ルヴァン殿。無茶振りが過ぎる」
「五月蝿い!人間そんくらいやりゃあ出来るんだよ!つべこべ言わずやって来い!」
ルヴァン殿はそう言って私の手を取り強引に立ち上がらせようとする。
それが、冗談であることを私は分かっていて嫌だと思っていなかった。それより、久々にする親しい人とする軽い戯れに心を踊らさせていたはずなのに。
「やっ!?」
私は悲鳴を上げ、ルヴァン殿の手を振り解いていた。
「…ッ!……悪い。少し調子に乗った」
私がルヴァン殿に触られることを本気で嫌がってると勘違いしたのだろう。彼は申し訳なさそうに謝る。
「いや!これはちがっ……違うんだ。ルヴァン殿のことが嫌というわけじゃ。本当に。……違うんだ」
必死にそう弁明するも、ルヴァン殿に触られた手は何故か震えており何の説得力もない。
「「……………………………………………」」
気まずい雰囲気の中、私は震える自分の手を見つめながら、どうしてだ?と自問するのだった。
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