負けヒロインと昼飯
ルヴァン視点
「よう、生きてるか〜って、姫様が居ないな」
ユナさんとのデートが終わった次の日。今日は本来俺は迷宮に潜らない休日でいつもなら休みを満喫しているのだが、姫様に飯を届けないと行けないので迷宮にやって来ていた。
が、集合場所である隠し部屋に着いても姫様の姿はない。
「くたばったか」
姫様の実力はこの五十階層付近でも十分通用するものだが、それはバランスの良いパーティの一員として見た場合の話。ソロだとまだまだ厳しい。運悪く連戦になったり、罠を踏んだりすれば対処出来ずあっさり死んでしまうだろう。
迷宮内の出来事までは、俺の管轄外。モンスターに喰われて死ぬのは自己責任だ。
(もし、死んだとすれば食べて良いよな。これ)
腹ペコ属性のある姫様のことだ。沢山食べると思って朝昼夜分の食料を二日分を俺は用意していた。
が、それを食べる人が居ないので有れば食べてもいいだろう。ここに来て、日本人の勿体ない精神を思い出した俺は鞄から串焼きを取り出し、齧りつこうとしたところで後ろから声を掛けられた。
「人を勝手に殺さないでくれないでもらえるか、ルヴァン殿」
「うぉお、ビビった。生きてたのかよ」
後ろを振り向くとそこには、初めて会った時と同じように返り血で全身の殆どを紅く染めている姫様がいた。
「何度か危ない場面はあったが、そういう時は、ルヴァン殿に聞いていた隠し部屋に逃げ込んでたからな。無事生きている」
「そうか、役立ったのならなりよりだ。ほら、持ってきた食料だ。食えよ。お腹空いてるだろ?」
(やべっ!聞かれてたのかよ)
俺は内心で取り乱しながらも、実はそんなこと思いませんでしたよと平静を装い、姫様に手に持っていた串焼きを差し出す。
「それルヴァン殿が食べようとしていた物じゃないか。他のものがあるならそれが欲しい」
まぁ、そんな見え透いた誤魔化しに引っかかるはずもなく、当然姫様が嫌そうな顔して拒否。姫様は動揺を隠しきれていない俺に呆れため息を吐くと、俺の反対側に座った。どうやら、姫様の様子から先ほどの発言に対するお咎めはないようだ。
助かったぜ。
「意外と神経質だな。言っとくがこれはさっき出したばっかだから綺麗だぞ」
「だとしてもだ。人が食べようとしていた物を欲しがるなんてみっともないだろう」
「あぁ、そういう感じか。…やっぱそこは温室育ちのお姫さまってところだな」
賢者とかが変な知識を教えているから、姫様は知っていると思っていたが何故かその辺りの普通の知識は無いようだ。
知ってて当然だと思って教えてなかったのか?分からん。
「?何か言ったか。ルヴァン殿」
「いんや、何も。ほら、ムービングバードの香草焼きだ。美味いぞ」
「おぉ、これは良い匂いで美味しそうだな。おっと、汚れを落とすのを忘れていた『浄化』。これでよし。いただきます」
姫様は魔法で身体中に付いていた血を落とし、俺から串を受け取ると豪快に齧り付いた。
お姫様なんだから齧り付くなんてはしたないことするなよと思うだろうが、姫様は最前線で長い間戦っていた軍人だ。
マトモな食事なんて取れない戦地にいた姫様は、その場で動物を狩り串焼きにして食べるなんて経験は何度もしている。だから、串焼きを齧り付いて食べるのは彼女にとっては当たり前だ。
「これは美味しいぞ。ルヴァン殿。肉の臭みを香草で消していてとてもさっぱりしている。これなら何本でも食べられそうだ」
「そうか。なら良かった。それと後、三本あるから食べ終わったら取り出してやるよ」
「そんなに持ってきてくれたのか!有り難い」
「まぁ、姫様がちゃんと解体出来てたらの話だがな」
「安心してくれ、ルヴァン殿。そこは大丈夫だ。ルヴァン殿に教えてもらったことを忠実にやったからな。上手く出来てるはずだ。何でか解体中に沢山血が出たが、まぁ、大丈夫だろう」
自信満々に胸を張る姫様。だが、それは全然大丈夫ではない。
「大丈夫じゃねぇよ!それ臓器に傷つけてんじゃねぇか!毒で素材ダメになってるぞ」
「何だと!だが、私は毒の症状が出てないぞ」
「毒耐性があるからだ!馬鹿」
「そんな、これじゃあご飯と交換できないではないか!ルヴァン殿お願いだ。新たに狩ってくるから、解体を教えてくれ」
そう言って俺に泣きついてくる姫様。
昨日あれだけ教えても失敗するということは相当姫様は不器用だ。
そんな奴にちゃんとした解体を出来るようにするとなると、確実に数時間程度では無理だろう。
こりゃ、休日全部潰れそうだなと俺は姫様を尻目に溜息を吐くのだった。
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