ルヴァンさんとデート


 ユナ視点


 (はうぅぅっ!これは、一体全体どういうことですか!?)


 私は今とても動揺しています。人生で一番と言えるくらいに。

 その理由は、ルヴァンさんと手を繋いでいるから。『たかだか、男と手を繋いだ程度で動揺しているんじゃないわよ』と思う方は大勢いらっしゃるのは分かっています。

 私だって今年で十九歳の成人。異性と手を繋ぐ機会は何回かありました。しかも、その内の何人かはルヴァンさんよりも顔の良い方がいらっしゃいました。そして、その方達と手を繋いだ時心が少しばかり心が踊っていたのを覚えています。

 ですが、今その全てをかき集めても足りないくらい鼓動が高鳴り、心が踊っているのです。

 そんな私自身に私は動揺しています。こんなこと今までだって一度もなかったから。私は初めての体験に困惑しているのです。


 (この年になってみっともない)


 まるで穢れを知らない生娘のようだと、自分を叱咤し平静を取り戻そうとしますが、それは五月蝿いくらいなっている心臓の音によって掻き消されていく。


 これが恋。


 生まれて初めての私の恋。

 夢のような気分だとか、世界が一層鮮やかに見えるとか、本で恋がどんなものなのか知識として知ってはいましたが、それは誇張された過大表現だと私は今まで思っていました。けど、実際に体験してみるとあれは誇張でも何でもなく事実だと身をもって思い知りました。

 いつも見ていたつまらない景色が、特別なものに思えて。手に伝わるルヴァンさんの温もりが、優しくて心地よくてなんとも言えない安心感があります。

 

 手を離して一度、落ち着きたい。けど、まだこのままでいたい。


 そんな矛盾した考えが私の頭の中をグルグルと回り、気の利いた言葉すら出すことが出来ず、ただ二人で黙々と歩き続けている状況。そんな中、突然ルヴァンさんの足が止まりました。


 「…あっ」


 視線を上げるとそこは、ルヴァンさんが初めて私の担当になってランクアップのお祝いをした酒場。

 そして、今までたった一度しかしていないルヴァンさんと食事をした思い出の場所です。

 店に入り、二人席に座ると店員さんからメニューを渡されます。


 「何を頼む?」


ここで、ようやくデートが始まってから無言だったルヴァンさんが口を開きました。

 せっかくのデートなんですから、出来るならもっと早く話しかけて欲しかったと思います。けど、ルヴァンさんの頬が少しだけほんのり染まっているのを見て、私と同じように緊張していたんだと分かり責めようなんて気持ちは湧いて来ませんでした。

 それどころか、彼と同じだったという事実が私の心をより激しく踊らさせます。

 ですが、私の方が二つ歳上のお姉さん。彼にそのことを気取らせたくないというちっぽけなプライドから、いつもの私を演じます。


 「そうですね。前来た時に食べたスープが食べたいです。後はこのスープパスタとカルア領産のワインに興味があります」

「そうか、じゃあそれとこのアローバードの香草焼きにサラダ、白パンを頼もう」

「あれ?前みたいにステーキとか食べないんですか?」

「寝起きにステーキは流石に胃がキツイからな。あっさりとしものを食いたいんだよ」

「ふふっ、そうですか。それは良かったです。前みたいに食べ過ぎて動けないみたいなのは困りますから」

「うっ…その話は止めろよ。忘れてくれって。黒歴史なんだ」

「嫌です」


本当に嫌そうな顔をしているルヴァンさんに私は笑顔でバッサリ切り捨てます。

 あの日、ルヴァンさんはBランクに昇格した興奮から大量のステーキを食べて動けなくなったのです。それを私が背負って家まで運ぶという珍事件がありました。普通送るのは男性なのに、何故か女性の私が送るという奇妙な体験でしたね。

 思い返せば、まだあの時私はルヴァンさんのことを今のように意識していませんでした。ルヴァンもんは冒険者とよく喧嘩して、その度に仲裁して本当に手のかかる弟のような子だと思っていました。

 そして、ルヴァンさんが、私に少なからず好意を持っていることを知っていました。ですが、私はこの子とは無理だなと彼を異性として見ず、距離を保つのがベストだと思っていました。

 けど、ある時命を救ってもらった時からその認識は変わり、今は一人の男性として異性として見るようになりました。だから、今は彼に好意を向けられるのがとてつもなく嬉しいのです。

 たった一度の出来事でこんなにも変わるなんて、人生何があるかなんて分かりませんね。


 「ルヴァンさんはいつも後先考えずに動いて、本当に後処理をする私の身になってくださいよ。大変なんですから」

「それには感謝してる。けどさ、あれはいつも相手が悪いだろ?」

「だとしてもです。成人してるんですから多少の我慢はして下さい」


  緊張が解れいつものような調子でお互いに話せるようになった私達は、冒険者と受付嬢の話で大いに盛り上がり食事を楽しむのでした。

 

 

 

 

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