初めての解体2


 「キシャァァァ………」

「よし、こんだけありゃ足りるだろ。おい、王女様。お待ちかねの解体の時間だぞ」


 俺は迷宮に入ってすぐ遭遇したフロガリザードの群れをさくっと一つ壊滅させ、アリエス王女を方を向く。


 「………もぐもぐ……もぐもぐ……もぐ」


 すると、まだアリエス王女はサンドイッチを食べ終えておらず、リスのようにもぐもぐとサンドイッチを食べていた。


「まだ食い終わってなかったのよ!?どんだけ噛み締めて食ってんだ」

「もぐもぐ…ゴクンっ。いや、ルヴァン殿。私の食べる速度は女性として普通だ。遅くなどないぞ。この場合は戦闘を数秒も掛からず終わらせたルヴァン殿が異常だ」

「そう言われると確かに。数秒でサンドイッチを完食するの難しいな」


 ムッとした表情で、何を言ってるんだおかしいのはお前だと抗議するアリエス王女。それに対して、俺は確かにそうだなと冷静に状況を振り返り、自分の戦闘スピードが王女様からすると早過ぎることに気付いた。

 俺より低レベルの奴と潜ることが最近めっきりなかったから、感覚が麻痺していたようだ。

 『あれ?俺なんかやっちゃいました?』みたいなことは、絶対にしないと思ってたのに。似たようなことをやっちまった。クッソ恥ずかしい。やはり、日本人転生者はこの道を必ず通るというのか?そういう運命さだめなのか!?

 俺は内心で頭を抱え悶えた。


「だろう?だから、もう少し待って欲しい。私はこの最後のサンドイッチを食べ終えていないのだ」


 まさかそんなことで内心悶えているとはアリエス王女はつゆ知らず、最後のサンドイッチを口に入れようとする。

 が、俺はそれを見た瞬間彼女からサンドイッチを取り上げた。


「最後の一つはまだ食うんじゃねぇよ。今日俺もう来ないから食べれるもんはそれだけだぞ。考えてから食え」

「ハッ!そうだった。それを食べてしまえば私の夕食が無くなるところだった。感謝するルヴァン殿」

「こんなことで感謝されても困るんだが…。ほら、この袋をやるよ。友人から貰った本人曰く失敗作だが、時空魔術が付与されてるから結構日持ちするはずだ」


 俺が背負い袋から取り出したこの体操服を入れるような袋は、友人の家に遊びに行ったら、テレッテテレーという効果音の後『し゛っ゛ぱ゛い゛さ゛く゛〜』とダミ声で渡されたものだ。

 何故、そいつがトラエモーンについて知ってるかはまた後日話そう。どうせ、近々遊びに行くしな。そん時話すってことで。

 

「時空魔術が付与されてるだと!?そんな貴重な物を預かっても良いのか!?」

「依頼出てないもんを持ってても買い取ってもらえねぇからな。腐らせるのも勿体ねぇし、仕方なくだ。もし、盗んで消えたら殺すからな、覚悟しとけよ」

「そんなことするわけないだろう!私が今生きるにはルヴァン殿の助けが必要なのだ。勝手に居なくなったりするものか。それに仮にも私は王族だぞ、民の物を盗むことなど出来るはずがない」


ブンブンと首を横に振り、全力で否定するアリエス王女。そのあまりの必死さから、首が取れそうだ。

 

 (まぁ、そんな疑ってはないけどな)


 物語の中では常に真っ直ぐで決して嘘をつかなかったことを俺は知っている。だから、あまり疑ってはいないが。一応この王女様、城を無断で逃亡し国をパニックに陥れている。万が一の可能性があるので軽く脅しただけだ。


「なくすなよ」

「勿論だ」


 俺はサンドイッチをその中に入れると、アリエス王女に渡す。


「てなわけで、休憩は終わりだ。コイツらささっと解体するぞ」

「分かった。で、初めはどうすれば良いのだ?何処に刃を入れればいいのか全く検討もつかないぞ」

「そりゃあ、当たり前だろう。王女様は解体について無知なんだから。先ず、言っておくが解体と言っても全部バラすわけじゃないぞ?欲しい部位だけを切り取るんだ。他の部位は捨てろ。そうしねえと何時間も時間が掛かって迷宮に取り込まれちまうからな」

「なるほど。で、このフロガリザードの何処が売れるのだ?」

「コイツらは鱗と爪。それと、火炎袋だ。だが、火炎袋は剥ぎ取るのが難しいからな。今回教えるのは鱗と爪だけだ」


そう言って、ナイフを外套から取り出すと、それを使って鱗を一枚一枚剥いでいく。勿論選ぶのは傷付いていない綺麗な物だけだ。それ以外は価値が落ち荷物がかさばるので、基本お金に余程困っていない限りはとらない。


 「こんな感じにナイフを隙間に入れて剥ぐ。簡単だろ?」

「あぁ、思っていたよりも簡単で驚いている。もっと肉を切ったりするのかと思っていた」

「迷宮のモンスターは外と違って死ぬと肉が柔らかくなるからな」

「そうなのか、知らなかった」


へぇ〜っと感心したように死体を眺めるアリエス王女。

 俺はそんな彼女にナイフを差し出すと、やってみるよう指示を出した。


 「確かこんな風にナイフを隙間に入れて、後は残った手で鱗を掴んで剥げば良いんだよな」


 どんな風に俺がしていたのかを確かめるように口に出し、アリエス王女恐る恐る解体していく。

 だが、鱗に付いている肉が切れないのか少々もたつき、焦ったくなったのかナイフを力強く押し込む。すると、思ったよりも刃が進み手を別の鱗にぶつけた。

 

「あっ、痛っぁぁ!柔らかくなりすぎだろう!この肉」

「力任せにしようとするからそうなんだよ。加減しろ。加減」

「ムゥっ、そう言われてもこの力加減は中々難しいぞ。さっきのでも軽く入れたつもりだったのだが」

「王女様の軽くは、軽くじゃねえんだよ。見た感じ、五割くらいの力が入ってる。三割くらいで良いんだよ。もっと力を抜け」

「もっと力を…あいたっ!あいたっ!!駄目だぞ。ルヴァン殿。また手を打ったぞ」

「さっきと全く力加減変わってねぇからな!?」

「…あいたっ!。私には無理だ。ルヴァン殿、私が仕留めたのを袋にしまいルヴァン殿が来たらそれを解体してもらうのはどうだ?」

「却下。面倒い。てか、諦めるのが早すぎるだろ。まだ一分も経ってねぇよ。ぶつけたところは魔法で治せるんだから。治して出来るまで続けろ。こんなのも出来ないんじゃ、あの話はなしだ」

「そんなぁ〜〜!」


 アリエス王女の悲痛な叫びが迷宮に響き、その後一定のタイミングで「イタッ」という声が流れるようになり、声が収まったのは数時間後のことだった。

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