空腹と再会


 アリエス視点


 「はぁはぁ、なんとか逃げ切ったな」


 後ろを振り向いても、あの変態の姿は見えない。

そのことに、ホッと安堵の息を溢すと私は壁に寄りかかり休憩をすることにした。

 かなり長い時間逃げ回っていたのだが、流石に二十階層まで来ると他の匂いが入り混じり過ぎて、私を見つけることは不可能だったようだ。時期に騎士達に連れ戻されることだろう。


「何なのだ…あの男は。あれが賢者様の言っていた『においふぇち』という者なのか」


 あの男の嗅覚は、野生のオーク並みの嗅覚だったぞ。においふぇちは、皆そうだとすると恐ろしい者達だ。以降気を付けなければ。

 

「しかし、魔法はきちんと発動しているようだ。迷宮に入る時、騎士達は私の方に気付いていなかったからな」


姿をきちんと消せていることが分かったのは収穫だ。これで、修行に専念することが出来る。


「私は早く強くならなければならないのだ」


 お世辞にも魔王との戦いで私は活躍したとは言えない。むしろ、勇者様達の弱点になったことの方が多いだろう。そんな私だが、魔王軍掃討戦に志願しようと思っていた。その理由はこのままだと近い将来、私はあの腹黒豚野郎と婚約しなければならなくなるから。

 それだけは嫌だ。たとえ、振られていたとしても私の身体は想いは勇者様に捧げている。私は生涯この身を誰にも委ねるつもりはない。だから、私は最前線に居座り婚約を先延ばしにするこおを決めたのだ。

 それが…現実から目を逸らしているだけの、何の意味もないことだと分かっていても。


 …今は、これしか思いつかないのだ。


 未だに呼吸が少し荒いが、壁に寄り掛かるのをやめ下の階層を目指す。

 何かをしてなければ。また、嫌なことを考えてしまう。

 雑念を振り払うように早足で迷宮の奥へと入っていった。


 ルヴァン視点


 「謝礼にしては、多過ぎるだろ」


  アリエス王女が居なくなった部屋には白金貨が三枚。それをこともなさげに、ポンと置いて行けるのは流石王女と言ったところか。

 白金貨一枚、日本円にしてなんと一千万。平民が少し贅沢をして十年くらいは暮らせる額だ。それが何と三枚。これはもう、この金を使って彼女を作れという神の思し召しだろう。


 やはり、人助けをするのはいいことだな。今後は出来る限りしていこう。


 「まずは明日、ユナさんに豪華な料理を振る舞って好感度アップや!」


 三枚の白金貨を金庫にしまい、明日のデートプランについて考えるのだった。


◇次の日


 「どうしたんですか?ルヴァンさんもの凄いクマですよ」

「…おはようユナさん。いやぁ〜、ユナさんと食事に行くのが楽しみで寝付けなくて」


 俺はユナさんに対して力のない笑みを返す。

 昨日デートプランについて考えていたら暴走してしまい、変な方向に行きまくったせいで全然寝付けなかったのだ。これが思春期。完全にエロ猿である。

 いや、だって仕方ないじゃん。ユナさんの身体の刺激が強過ぎるんだよ。飯食ってたら急に、ワインが胸にこぼれて「飲みます?」って誘われるとかされるんじゃないかと考えるに決まってるだろ。


 「ふふっ、そうですか。でも、女性と食事に行くのにそんな状態は頂けませんね。今日は早めに帰って来て昼寝してから向かいに来てください」

「分かりやした。いつも通り早めに終わる依頼を頼んます」

「はい、本日は五十八階層にあるルーメル草の採取がオススメです」

「それなら確かに簡単そうだ。じゃあ、それ受けます。買取は上限なしな感じ?」

「そうですね。あればあるだけ買取ります」

「分かった。出来るだけ取ってくる」

「今日はいつもより、気をつけてくださいね」

「美人受付嬢と食事に行けるんだ。言われるまでもない、橋を叩いてぶっ壊すくらいの慎重さで行くよ」

「それ、慎重なんですかね?」

「最高に慎重だ。行ってきます」


 俺はそう言って冒険者ギルドを出た。 

 すると、朝飯を食っていなかったことを思い出し、露店でステーキサンドを四つほど買った。一つだけ残して背負い袋に三つ放る。そして、残った一つを食べながら迷宮へと向かった。



 数時間後


「何でまた倒れてるんだ?」


薬草を取り帰っていると、階段の側でぐったりとしているアリエス王女を見つけた。


「お腹が…空いた。何か…食べ物を持っていないだろうか?」

「腹ペコ属性あったな。そういや」


  一度助けた上で見て見ぬふりをするのも気が引け、俺は朝買ったサンドイッチを一つアリエス王女へと差し出すのだった。



 



 


 




 




 

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