負けヒロインと初めての会話、そして別れ


 ルヴァン視点


 「そうだ」


 俺はアリエス王女の問いに素直に答えた。


「ここは何処だ?」

「俺の家だ。王女様がここに居るのを知っているのは今のところ俺だけだな」

「何?知っているのが貴方だけだと?あり得ない。迷宮から脱出する際に誰かしらに目につく筈だ」


 王女の顔が怪訝そうなものになり、首の皮が軽く切れるほど近づけられる。


「ソロで潜ると隠れるのが上手くなってね。こんな風に姿を消せるんだよ『蜃気楼アポリズムトス』」

「ッツ!」


 王女が反射的に剣を振るうが、そこに俺はおらず空を切る。


 「何処だ!」

「目の前だよ」

「何!?目の前には居ないぞ」


 キョロキョロと辺りを見回すアリエス王女。


「魔法で姿を消してるからな。『解除アナティス』ほら、ちゃんと居るだろう」

「なっ!?」


 魔法を解除して再び姿を表すと、アリエス王女は分かりやすく驚愕の表情を浮かべる。俺はその表情が間抜けで思わず笑ってしまった。


「ぷっ、あはははドッキリ大成功だな。どうだ?信じてくれたか?」

「貴方が姿を消せることは理解したが、貴方の言葉をこの程度で信じるわけないだろう」

「そりゃそうだ。こんな短いやりとりで信用できる筈がない。これで信用する奴は頭の中身をスライムにでも食われてる」

「貴方は何処の手のものだ?」

「俺は王女が予想していない第四勢力くらいの男。純粋にアンタを心配して助けた一般人のB級冒険者だ」

「………」


王女は俺の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「嘘は言っていないようだな。分かった。取り敢えず今までの無礼を謝罪しよう。すまなかった」


 そう言って、剣を納め謝るアリエス王女。

 俺はそんな彼女を本気で心配した。


「…スライムに頭を食われたのか?すまない。俺がもう少し早く気付いていれば治せたかもしれないのに」

「私を可哀想なの者を見るような目で見るな!ただ、単純にある程度信用しなければ話が進まないと判断しただけだ!」

「なるほどね、これで裏切られたら自分の見る目がなかったと割り切ったわけか。まぁ、こっちとしてもそっちの方が助かる。ずっと剣を持ってる奴が目の前にいるのは気が休まらなかったからな。ほら、座れよ。今の状況を教えてやる」

 

 俺はアリエス王女の横を通り抜け、椅子に座り反対側に座るよう促す。

アリエス王女はそんな俺に少し呆れたような顔を浮かべ、反対側の席に座った。


「王女を前にして貴方はよくそんな態度がとれるな」

「あぁ、これは癖だ。冒険者は基本的に舐められないよう口調を強くするのは知ってるだろ。それのせいだ。不快なら敬語を使いましょうかアリエス王女殿下?」

「いい。貴方に敬語を使われると背筋がムズムズする。そのままで構わない」

「じゃあ、遠慮なく。で、さっそく現在の状況を説明させてもらおう。取り敢えず、今騎士達がアンタを探して王都内を捜索している。街も迷宮の中全てだ。俺が確認してる限りだと、数時間で迷宮の四十階層に行くぐらいとてつもない速度で捜索していた」

「そうか…それは助かった。感謝する。貴方に見つけてもらわなければ私は終わっていた」

「どういたしまして。で、興味本位なんだが王女が城から逃亡したのは何故だ?」

「それは…」


俺の質問にアリエス王女は言葉を詰まらせ、黙り込む。その際に自責の念に駆られるような苦い表情をしていることから、あまり深い理由ではなさそうだ。


 「言いたくないなら別にいい。この質問は忘れてくれ」

 

 国が滅亡の危機とかなら見逃せないがそうでないなら、変に深入りすることもない。

 さっさと質問を打ち切り、話題を元に戻すことにした。


「明日には冒険者ギルドの方にも依頼が出るそうだ。見つかるのもそう長くはないだろうな」

「そうか…」

「で、何故迷宮内で騎士にアリエス王女を引き渡さなかった理由を話す。単純に言うと、騎士に見つかった時証明して欲しいんだ。俺がアリエス王女を救った命の恩人だと。アイツら、人の話をまともに聞かず、牢屋にぶち込んでくるからな。そうならないようにして欲しい」

「それくらいなら容易い頼みだ。決して、貴方には迷惑を掛けないようにしよう」

「頼むぞ。マジで」


  牢屋生活とか絶対俺は体験したくねぇからな。

 アリエス王女に恩人であることの証明をする約束を取り付けると、話題は変わり迷宮の話になった。


「ルヴァン殿は、単独で何処まで行かれたのだろうか?」

「俺か?八十一階層までだな。あそこから物理的に一人じゃ無理だ」

「それは、モンスターが多過ぎてという意味での無理ということか?」

「そうだ、群れじゃなくて集団でアイツらモンスターが襲って来る。しかも、ご丁寧に前衛、中衛、後衛まで役割分担されてな。一人じゃほぼ崩すことなんて出来ねぇ、しかも、仮に何とか倒せてもその時には既に別の集団が来てるから無限に戦う羽目になるんだよ。だから、あそこから先は一人で行くもんじゃない。あの時は、運良く隠し部屋があって助かったぜ」


 彼女が冒険者に憧れていたことを俺は知っているので、色んな話をした。モンスターの弱点戦う時の注意点や、隠し部屋の話なんかを買ってきた飯をつまみながら話した。

 そして、今日疲れてるだろうから一泊し明日の朝にアリエス王女が城に戻るという流れになり、彼女に客室を使わせた。

 そして、深夜。

 アリエス王女が寝ているはずの客室を開けてみると、彼女の姿はなかった。



 






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