情報収集と童貞の思考
ルヴァン視点
「騎士団長、この階層にもアリエス王女の姿はありません」
「そうか、ならば階段で暫し休憩した後、次の四十階層を捜索するぞ」
「「「はい!」」」
そう言って、騎士達は下の階層に繋がっている階段に向かって行く。
俺は騎士達の姿が見えなくなったのを見届け、マップには書かれていない隠し部屋から出た。
「もう、こんなところまで来てんのかよ。流石魔王軍と戦って生き残った騎士達だな」
今日の朝刊にはアリエス王女について何も書かれてなかったことから、彼女が迷宮に来たのはおそらく早朝。それに気付いたのが朝だとすると、たった数時間で四十階を踏破したことになる。一階層の広さは街と同じくらいでかなり広い。
しかも、迷宮の名に違わず中は入り組んでおり、いくら地図があり人数があるとはいえ、一階層を数分程度で捜索しきるのは驚異的だ。
それが出来るのは、彼らが魔王軍との戦いで生き延びた歴戦の猛者達だからだろう。あれは、生半可な力を持つ者では生き延びることなど出来ない。冒険者として、実際に参加したことがある俺はそういうものだと知っている。それを生き延びた奴らが弱い筈がないのだ。
ちなみに、騎士達の前に現れなかったのは面倒なことになるからだ。素直に王女様を助けたと言おうものなら、速攻身柄を拘束。王女様が目を覚ますまで牢屋に監禁だ。しかも、生憎王女様は俺に助けられたとまだ理解していない。目を覚まして、「そんな人知りません」と言おうものなら、王女誘拐の疑いをかけられ一生牢屋生活を送ることになるだろう。
そんなことは当然御免被るので、俺は騎士達の前に現れなかったのだ。引き渡すとしたら、王女様が目を覚まして俺を命の恩人だと理解してから。それまでは、取り敢えず誰にも知られず匿おうのがベストだ。
「まぁ、俺の予想だと引き渡しを素直にこの王女様が受け入れる筈がないから。騒動が収まるのは当分先になりそうだが」
無断で城を抜け出したということは、それなりの理由があるのだろう。そして、それを達成するまで王女様は決して帰らないはずだ。
何故そんなことが分かるのかって?
そりゃあ原作を読んで彼女がとてつもなく頑固だって知っているからだ。
一度決めたことは決して覆さない。
そんな彼女だから、周囲の静止を振り切り勇者と共に戦場を駆けることが出来たのだ。
「後、四十階をバレないよう帰んの怠いな」
今は人に見つからないよう、魔法で俺達の姿を消している。それの魔力消費がかなり激しく、早く帰られなければ俺も魔力切れで気絶してしまう。しかしながら、走ったり、何かにぶつかったりすると魔法の効果が切れてしまうので歩くしか道はない。
王女様を連れているだけで、こんなに色んなことを気にしながら帰らなければならないのか。今すぐ、置いて帰りてぇ。
「けど、やるって決めちまったからな。頑張るしかねぇか」
俺は記憶の中にある最短ルートを辿り、迷宮からの脱出を目指した。
◇
何とか、迷宮を脱出し家に辿り着いた俺は王女様の鎧を脱がせ魔法で綺麗にするとベッドに寝かせた後、一度冒険者ギルドを訪れた。
主な理由は素材の納品と、情報収集だ。受付の長い長い列に並び自分の順番になるのを待つ。
数十分後、目の前にいた冒険者達はいなくなり、ようやく俺の番になった。
「ルヴァンさん、おかえりなさい。少し遅かったですね」
柔らかな笑みを浮かべ迎え入れてくれるユナさん。相変わらず、天使。いや、この全てを包み込むような感じは女神か。今日一日の疲れが合っただけで、無くなった気ががする。
「ただいま、ユナさん。遅くなったのは三十九階層で少し騎士達に絡まれてな、王女を見なかったかと聞かれたからだ」
そう言って、俺は平静を装い素材の入った袋をカウンターに置く。
「あぁ、やっぱりルヴァンさんも騎士達に会ったんですね」
「やっぱりって、他の奴らも絡まれたのか?」
「はい。先程相手した方々は殆ど騎士達に王女を見なかったかと聞かれたそうです」
(なりふり構ってない感じか)
騎士という生き物はプライドが高い奴らばかりだ。だから基本的に自分達だけで、どうにかしようとする。が、今回は珍しく最初から他の奴らを頼っているようだ。何か王女が見つからないと困ることでもあるのだろうか?
「へぇ〜、そうなのか。それに関して依頼とかは出てたりする?」
「今のところはないですね。まだ、大々的に王女が行方不明になったと国側が発表してないですし。ですが、今日中に見つからなければ明日の昼頃に出ると思いますよ」
「なるほど。そしたら目撃情報が上がるだろうな」
「偽のものが殆どだと思いますけどね」
「楽に稼げるからな。そこは仕方ねぇよ」
「はぁ、明日は殆どその対応に追われると思うと気が重いです」
今から憂鬱だと、大きな溜息を吐くユナさん。俺はその姿が仕事に疲れた社畜のよう見え、思わず苦笑してしまう。
そりゃあ、目撃情報を言うだけでお金が貰えるのだ。真偽の程はさておき報告する奴は沢山出てくるだろう。
「明日終わったら飲みに行くか?奢るぞ」
「…ッツ!本当ですか!?行きます」
「おっ、おう。分かった。明日仕事が終わったら迎えに行くわ」
断れると思って冗談で誘ったのだが、まさか予想を裏切り誘いを受けるとは思わず俺はやや面食らう。
えっ、何?気でもあるの?勘違いするぞ、俺。全然余裕で偶像から恋人へと見ること出来るタイプだからな。
「約束ですよ」
「あぁ」
とても嬉しそうに顔を綻ばせるユナさん。その姿を見て、マジでワンチャンスあるのでは?と俺は思った。が、すぐに酒の話題を振ってきたことから単純にお酒が飲みたかっただけなのだと分かり、俺は絶望して報酬を受けとると真っ直ぐ家に帰るのだった。
そして、家に着きドアを開けた瞬間中に引きずり込まれ、首に剣を突きつけられる。
「私をここまで運んだのは貴方か?」
(やっぱりこうなるよなー)
予想していたことが起き、俺は思わず乾いた笑みを溢した。
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