負けヒロインの王女様を連れ帰ることにした


 ルヴァン視点


 「ブモオッーーーーーー!」

「…うるせぇ」


 死ぬ間際の雄叫びの煩さに、俺は顔を顰めながら群れ最後のオークジェネラルにトドメを刺した。

 

「はぁ、ちょっと怠かったな」


剣に付いた血を払い鞘に納め後ろを向くと、そこには大量のオークジェネラルやメイジの死体が積み上げられている。ざっと、三十体くらいはいるだろう。

 何でこうなったかというと、オークキングを倒した後、すぐ俺は五匹程度の群れと遭遇した。その群れを全員討伐しかけたところで、たまたま近くにいた別の大きな群れが二つ同時に、血の匂いを嗅ぎつけて来たのだ。それを全て倒したらこんな有様になっていた。

 

 「『清浄カルタシスフロガ』」


また、同じことが起きないよう依頼分のオークジェネラルだけ残し魔法の白い炎で焼却する。


 この魔法は、魔物の死体を処分するのに特化した魔法で少ない魔力で魔物の死体を簡単に焼却することができ、死体のグール化を防ぐ効果を持っている。が、これはあまり迷宮では使われない。何故なら、迷宮は魔物の死体を数時間に取り込んでしまうからだ。

 今回は例外的にオークという鼻の良いモンスターだったため気づかれたが、迷宮にいるモンスター達は基本的に外にいるモンスターより五感が鈍い。そのため、血の匂いなどに引き寄せられることはほぼないのでこの魔法を使う場面はないというわけだ。

 さらに剥ぎ取って質量が減ると、取り込まれる速度は早まるのでと来れば、俺のような物好きくらいしか使わないというわけである。

 死体が燃えたのを確認した後、俺は残ったジェネラルの剥ぎ取りを始めた。


「いつも思うけど、コイツら見た目の割に食えるところ少ないんだよな」


ファンタジーの定番オーク肉だが、取れる部位は実はかなり少ない。腕や足の肉は硬すぎて食えないし、臓器系は迷宮の魔力のせいで汚染されている激毒化している。なので、食える部分は腹と背中くらいだ。しかも、腹は脂肪が多過ぎて物好きしか食わないので、必然的に残るのは背中肉だけ。というわけで、実質的に取れる部位は背中しかないのだ。

 俺はオークをうつ伏せにして肉をブロック状に剥ぎ取る。そうなれば、大量の血が出るわけで。最初はあまりのグロさに吐いたりもしたが、人間何事もやれば慣れてくるもので、一週間くらいすれば何とも思わなくなった。

 人を殺すことも…おっと、これは今話すことじゃないな。機会があればまた今度ということで。ラブコメで話す内容ではないからな。許してくれ。


 「よし、終わり。『清浄の炎』」


 剥ぎ取った肉を葉に包み、背負い袋に放ると死体を燃やした。

 これで今日の依頼は終わり。後は長い長い階段を登って帰るだけ。それが俺の日常。数年前から何一つ変わり映えしない日々。異世界に来たのに我ながら枯れているような気がする。


 「彼女が欲しい」


 元いた世界では顔は悪くなかったが、俺が努力しなかったせいで彼女は出来なかった。今もこの世界基準だとかなり良い部類に入るので、頑張れば出来ると思ったがあまり結果は芳しくない。冒険者という職業は早死にする職業のためどんなアプローチしても結局、付き合ってすぐ死ぬと嫌だからと断れてしまうのだ。

 ラノベだと大抵出てくる奴は彼女がいるから、モテると思ってたのに。ハズレ職業じゃねぇか。そりゃあ、受付嬢を偶像崇拝するのも仕方ねぇよな。うん、ユナさんは天使。さっさと帰って癒されよう。


 「よっこらせ…ん?近くで戦っている奴がいるみたいだな。人数は一人か?ってことは、俺の予想通りレベル上げ勢が居たんだな」


 近くで戦闘をしている気配を察知した俺は、いつもより遅く帰る原因になった奴のを顔を拝んでやろうと思い、寄り道を少しすることにした。上の階へと繋ぐ階段に背を向け、戦闘の気配のする方へ向かう。

暫くまっすぐ進んで二個目の曲がり角を曲がる。すると、戦闘が終わっていたのか広目の空間にオーク達の死骸が転がっていた。この状況を作り出した張本人は何処にいるのかと辺りを見渡すと、壁際に血塗れの少女が一人倒れていた。

 近づいてみると、死んではおらず目立った外傷はないが気を失っているようだ。恐らく治癒魔法を使ったところで、魔力が切れ気を失ってしまったのだろう。

 このまま放っておけば数分後には確実に死ぬ。

 初めて会う少女を助ける義理など全くない。普通ならこのまま放置して帰る。が、何故か俺はこの少女に対して謎の既視感を覚え足を止めていた。


 「何処かであったことがあったか?」


 銀髪の長い髪を持つ少女で、明らかに高価そうな鎧を持つということは貴族か上級冒険者のどちらか。

 だが、生憎知り合いに銀の髪なんて目立つ髪色をした奴は一人もいない。


 「…あっ!思い出した」


 記憶の海を漁っていると、何故この少女に既視感を覚えたのかが分かった。

 彼女を見たのはこの世界ではない。元いた世界で読んでいた小説のヒロインとして見たのだ。

 彼女の名はアリエス・ピルア・ノシュタルム。この国の第二王女でありながら、勇者である主人公と共に剣技と回復魔法を駆使し魔王軍との熾烈な戦いに身を投じた、『聖姫』と呼ばれたヒロインが一人。

 

 「王女様が何でこんな所にいるんだよ?」


そう疑問溢すが、彼女は気絶している。当然答えなど返ってくるはずもない。


 (厄介ごとに巻き込まれたな)


面倒くさいことになったと、俺は大きな溜息を吐く。

 

 「…まぁ、とりあえず放置するのもあれだし連れて帰るか」


 明らかにこの先面倒なことになるのは分かっている。

 が、しかし、一方的とはいえ知っている人間を見殺しにするほど、まだ落ちぶれていない。

 俺は王女様を背中に背負い、帰路に着いた。

 

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