4 ダブルデート

 荒野を征くは2機の鋼の巨人。


 私が乗るのは整備の終わったばかりのケーニヒス。その後ろにぴったりと付いたニムロッドにはマモル君。


 整備ついでに手持ちの改修キットを1つ使用してケーニヒスのランクは6.5となっている。


「改修キットで性能上がったのは分かるんですけどね。何ですか、その馬鹿みたいな塗装は?」

「恰好良いでしょ?」


 先ほどはシズさん相手にたじたじになっていたマモル君もいつもの調子を取り戻して毒を吐く。


 ほぼ単色、スカイグレーのニムロッドは現実世界の戦闘機のようなリアリティーのある塗装だが、私のケーニヒスはフレームは白、装甲は黒、そして所々の差し色に赤といったこれ見よがしに目立つ塗装に変更していた。


「カッコイイってそんなアホみたいな……」

「あら、大事だと思うけど? それに私の方が目立ってれば、少しでもマモル君の方には弾が飛んでこないんじゃないかって」

「なるほど。最初からそう言ってくれたら納得できたんですけどね。それにヘイトがお姉さんの方にいくのと、目立ってすぐに見つかるのと差し引きしたらプラスマイナスどっちが大きいんでしょうかね?」


 まあ、たしかに私が目立つ塗装のせいで見つかりやすくなって、そのせいで敵に先制攻撃を受けた場合、流れ球や連射火器の弾幕に巻き込まれる危険はあるだろう。


 だが、それはすぐ近くにいるマモル君の方にも責任があるのではないだろうか?

 とはいえ、それを責めるつもりは私にはない。格下の機体に乗るマモル君を守るにはすぐ近くにいてくれた方が都合が良いという事だってあるだろう。


「って言ったってHuMoにはレーダーやらセンサー類があるんだから塗装が派手なくらいでそこまで深刻な問題があるのかしら? ところで……」

「ええ。分かってます。向こうの虎瞻月光の事ですよね」


 私たちは今回、傭兵組合の演習場を借りて2対2の模擬戦を行っている。


 こちらは私とマモル君の2人。

 相手はだいじんさんとシズさんの2人である。


 両チームの初期配置位置はこちらは中山さんが、向こうはヨーコちゃんが決めたために索敵から行わなければならないのだが、ここで問題になってくるのがヨーコちゃんママことシズさんの乗る虎瞻月光だ。


「虎瞻月光、機体ランクは『無し』か……」

「攻略WIKIにも情報は無いみたいですけど、少なくとも原型機の月光にあったステルス能力は持っていると思っておいた方がいいでしょうね」

「そらそうよねぇ……」


 難民キャンプでの戦闘でも苦しめられた月光は実の所、火力自体はそう恐ろしいものではない。

 シズさんの月光も武装は同じく専用のサブマシンガンに2本のナイフだけ。他にも原型機には隠し武装として両脚の爪先にもそれぞれナイフが仕込まれていたがシズさんの機体にはあるのだろうか?


「ホント、面倒な相手よねぇ。こうやって移動している時だって索敵をレーダーに任せられないだなんて」

「とりあえず前はお姉さんが、後ろは僕が、両側面は2人で索敵しながら行きましょう」


 レーダーに映らない特性を持つ月光を警戒するだけならば待ち伏せに適した地点で敵が来るのを待っていればいいのだろうが、そうは問屋が卸さない。


 だいじんさんが乗る建御名方のランクは10。

 こちらは攻略WIKIに情報が乗っていたので演習場への移動の際に輸送機に揺られながらちらりと見てみたが、ランク10の中でも性能は控えめな代わりに特殊な装備を持つトリッキータイプの機体のようだ。


 先ほど戦った震電に比べればその性能は低いが、特殊な武装を有しているが故にハマれば強いという機体なのだろう。


 だが、いずれにせよランク6.5のケーニヒス・カスタムや4.5のニムロッド・カスタムよりもセンサー性能が低いとは考えにくい。


 つまりこちらからは見えなくとも、建御名方からは見られているという状況も十分にありえるのだ。


 そんな状態で待ち伏せのために一ヵ所に留まっていたら、挟み撃ちなりなんなり不利な状況で戦わざるをえなくなってしまうのかもしれない。


 故に私たちは索敵のために動き回る事を選んでいた。


「それにしてもシズさん。随分とマモル君に御執心だったみたいだけど、マモル君はどうなのよ?」

「アレがそういうふうに見えるんですか……?」


 視線をあちこちに動かしながらの索敵をしながらの移動に精神を削られ、つい無駄口が多くなってしまう。


 マモル君を茶化すつもりでシズさんの態度を話題に上げてみたが、当のマモル君は辟易している様子。


「なんなんですかね、あの人。顔を合わすなり、すんごいメンチ切ってきましたけど」

「そういう趣味の人なんじゃないかしら? 保護欲と性欲とごっちゃになったような……」

「ちょっと、止めてくださいよ!?」

「所帯持ちになっても私の事、忘れないでね?」


 脳内で思い描いていたシズさんとマモル君、そしてヨーコちゃんがどうしても夫婦と子供には見えず、母と子供2人にしか思えなかったので脳内マモル君にチョビ髭を生やしてみるも逆効果。

 思わず胸の奥から笑いがこみ上げてくる。


「もう、少しは真剣になってくださいよ!?」

「はいはい……」


 その理由までは知られずとも通信機越しに今の笑い声が聞こえていたのかマモル君は非難がましく声を上げ、ちょうど私たちはなだらかな丘にさしかかっていたので私も気を取り直して操縦と索敵に集中する。


 直進する電波の都合上、丘の向こう側の状況は分からない。

 私はマモル君に合図してから前進する速度を落としてゆっくりと少しずつ丘を登っていき、やがて頭部メインカメラが丘の稜線を越えて向こう側の映像をメインディスプレーへと映し出す。


「……いない、か」

「それならっと……」


 そのまま機体を前進させて稜線を越えても敵の姿はない。

 草や低木の緑と剥き出しの赤茶けた大地が幾つも層を作る、この惑星のいつもの光景である。


 これまで私のすぐ後ろを歩いていたニムロッドがスラスターを併用したジャンプで丘を跳び越えてケーニヒスに並び立ったのは、少しの時間でも丘の向こうとこちらで分断されているのが嫌だったからだろうか?


「それじゃ、さっさと先に行きましょう」

「待って! 足跡、私たちのじゃない!」

「あっ……」


 それは数十トンの鋼の巨人が大地へ刻み込んだ深い足跡であった。


 メインカメラの映像を拡大して見てみると、深く大地へ穿たれた足跡の中は地中の水分で湿っていて、周囲の大地のように渇いてはいない。


 つまり演習場の前の利用者が付けた足跡ではなく、つい先ほど付けられたものだという事。


「これはどちらのものでしょう?」

「さあ。いずれにせよ、月光か建御名方か、この丘から頭だけ出して私たちを見ていたのかもしれないわね……」


 足跡は私たちの左手側へと伸びていって、その先は見えないが、反対側は丘の中ほどまで続いていた。


 あの辺りに立てば頭出しには十分であろう。


 見られていたとして、それはいつだ?


 少なくとも敵は姿を隠すだけの時間的猶予はあったという事だが、何故この丘へと向かってくる私たちに攻撃を仕掛けずに動いていったのだろうか?


 この先にここよりも更に待ち伏せに向いた場所があるという事だろうか?


 マモル君のニムロッドは足跡の主が消えていった方向へとライフルを向けて何かを探っているようであったが、敵機の姿はおろか、その痕跡すら見つけられないでいる。


 戦わないという選択肢が無い以上は私たちに取れる選択肢は2つ。


 足跡を辿って最短距離で敵機を追うか、待ち伏せを警戒して大回りで敵がいるのではないかと思われるポイントを探るか。


 さて、どうしたものかと思案していると突如として丘が爆ぜた。


「なっ!?」

「う、腕!? 腕だけ!?」


 ちょうど丘の中ほど、足跡の終点付近から不意に何かが飛び出してきて私たちに襲いかかってきたのだ。


 だが、そのスラスターの青白い噴炎の尾を引いて飛び出してきたものは腕だけ。

 HuMoの肘から先だけが独りでに動いて飛び込んでくるのだ。


 さらにその腕とタイミングを合わせるようにして遠くから火球のように赤くなった砲弾が幾つも飛来して私たちは被弾。


「先に仕掛けてきたのは建御名方の方かッ!?」

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