29 ヘッドショット
マップ画面のヒロミチさんの烈風を示す光点が移動を開始する。
サンタモニカ機、クリス機はそのまま。
「……こちらに連絡は無い。ということはどうすべきか考えろって事ね」
敵は4機。
1機が2発、1機が1発だけ命中弾を食らっただけでほぼフルヘルスといってもいい状態。
牽制射撃を繰り返していたニムロッドのライフルは弾切れとなり、私は機体を巨岩を盾にして屈ませて弾倉を交換しながら考える。
私と交戦していた3機の後方を突く形となったヒロミチさんたちのさらに後方から現れた4機の新手。
距離はおよそ2.4kmほど。
向こうの機種はいずれも見知ったランク3のもの。そして武装はサブマシンガンやアサルトライフル。
今も私が隠れている大岩を穿つ音が聞こえてきているように敵は数を頼みに私とやり合うつもりのようだ。
敵が前へと詰めてこないのは路地に隠れて姿を消した味方3機の事を警戒してだろう。
ならば私はどうするべきか?
「……ったく! 男の察してちゃんは嫌われるわよ!?」
「ハハ、生憎ともう
私は再び大岩から半身を出して牽制射撃を再開していた。
勢いが大人しくなっていた敵からの射撃も私が姿を現した事で再び活発化。
無数の砲弾が火球となってこちらに飛んでくる光景がメインディスプレーいっぱいに広がって思わず悪態を付くが、返ってきたヒロミチさんの声は我が意を得たりとばかりに陽気なものであった。
ひとまずは正解か。
ヒロミチさんが2機の味方機を残して単独で移動を開始したのは機動力に優れた構成の烈風で敵の側面か背面を突こうということなのだろうという判断は当たっていたようだ。
つまりヒロミチさんが移動しているのならば、敵を現在地に拘束し続けなければならない。
痛撃を加えて敵を後退させては駄目。
私が大岩に隠れたままでも敵は埒があかないと考えて移動してしまうかもしれないのだからそれも悪手。
ならば多少の被弾を覚悟で敵と撃ち合うまで。
「わっ、わぁっ!? お姉さん、とっとと遮蔽物に隠れて!!」
「大丈夫、跳弾でHPの減少は抑えてるし、仮に装甲を抜かれても大した事にはならないわよ!」
被弾の衝撃と煙が出るほどに熱したフライパンに水滴を落としたようなヂュイン!という音にマモル君が慌てたような声を上げるが、私はそのまま敵と撃ち合う。
傾斜を組み合わせて形作られたニムロッドの装甲は改修キットを3つ使用した事によってその傾斜がさらに鋭角となっている。
2.4kmも離れてだいぶ弾速が衰えてしまった敵の弾では十分に跳弾が狙えるようだ。
だが、後席の少年に安心するように言った私の言葉のその直後、先ほどよりは軽い衝撃とともにメインディスプレーの映像がノイズ混じりとなってすぐに復旧する。
被弾の衝撃でニムロッドのライフルの照準も乱れて見当外れとなって飛んでいった84mm砲弾が廃墟を砕いて大通りへその破片を四散させた。
「と、頭部に被弾! お姉さん!?」
「だ、大丈夫! カメラもメインプロセッサ、FCSも無事よ!!」
さすがに頭部への直撃は無傷とはいかないし、マモル君には無事と伝えるがステータスインジケーターはカメラが
HPはまだ12,400もあるとサブディスプレーを確認していたところで聞きなれた機関砲の連射音が響き渡って私は慌ててメインディスプレーへと視線を戻すと、携行対HuMoランチャーから放たれたロケットがこちらへ飛んできていた。
そのロケットはCIWSによってすぐに撃ち落とされてホッとしていると、やっと待ち望んだヒロミチさんからの通信が入ってくる。
「そうそう。無駄な被弾は抑えなきゃいけないけど、弾受けしてでも敵を抑えつけておかなきゃいけない時ってあるよね。で、誰が弾受けするかって……」
「一番安全な位置にいる私ってことですよね!?」
「それができるのがニムロッドだろ? ガチの砲戦機とは違う支援機の形があるってことだよ」
確かに前線でバチバチに敵と殴り合う前衛のHPはあるにこしたことはない。
それに数発の被弾を跳弾で耐え、先ほどの頭部への直撃があったとしてもこの場でもっともHPが多い機体は私のニムロッドだ。
さらに言えば私は岩に下半身を隠している都合、いくら被弾しても脚部や背部のスラスターは破壊されない。つまりはいざという時は高速で脱出する手が取れるということ。
おまけに敵は姿を出している私が弾を受けている事に気を良くしていたのか、こちらの思惑どおりに大通りのド真ん中で固まったまま。
「よし! 俺の攻撃をもって全機攻撃開始!」
「おっし、お嬢ちゃん、私の背中は撃つなよ!」
「了解でござぇますわ!」
「了解!」
「5、4……」
私は敵の意識を自分に集中させるためにまだ弾が十分に残っている弾倉を交換してみせる。
今度は岩に隠れず、上半身を出したまま。
「3、2、1。今だッ!!」
敵の後方から背後に土煙を撒き散らした烈風が飛び出してきてガンポッドの連射を浴びせる。
高レートの機関砲弾は黒く焦げた廃墟も硬い大地も一緒くたに敵機を撃ち抜いていき、4機の敵機はみるみる内に2割から3割のHPを削られていた。
2機の敵機が振り返った時には再び烈風は消しており、代わりにニムロッドのライフルの射撃と路地から飛び出した紫電改とカリーニンが敵目掛けて飛び込んでいた。
さきほどまでは敵を牽制するために連射モードを使っていたが、今はしっかりとダメージを取るべき時、単発射撃でしっかりと命中弾を狙っていく。
私を警戒してこちらを向いたままの敵機へ最初の1発を、その機体にはすぐにカリーニンが被ったために次は別の敵を。
その機体には紫電改が被ったためにまた別の機体を、という具合に撃てる敵を次から次へと狙い撃つ。
「1機撃破でごぜぇますわ!」
「こっちもだ!」
トヨトミ系の機体の中でもひときわ小柄な紫電改がサブマシンガンを両手で構えて反動を抑え込みながら敵を撃破。
続いてカリーニンもアサルトカービンの連射で敵を撃破。
そしてカリーニンが手にした銃から手を離すとバックパックに取り付けられたウィンチが火花を散らしながら巻き上げを開始してカービン銃を胸元に固定する。
両手が自由になったクリス機は腰部サイドアーマーに固定していた2丁拳銃を取って、残る敵へと向けた。
2丁の拳銃から大きな砲火が煌めいて、杭打機のような思い切りのいい速射が2機の敵機の頭部へ次々と叩き込まれていく。
「へ、こんなもんでどうだい?」
「な、なにしてんのクリスさん!? 早く仕留めて!!」
「へっ!?」
残る2機の敵の間で機体を停止させてドヤ顔が目に浮かぶような声を上げるクリスさん。
敵はそのままライフルをクリスさんのカリーニンへと向け……。
「ほぁっ!?」
だが、クリス機の奇行に気付いた中山さんと私がそれぞれ敵に速射を浴びせてやっと敵は沈黙。
そしてすぐにミッション完了を告げる通信が入ってくる。
「……あのなぁ、クリス。人間とかゾンビ相手ならともかく、人が乗り込んでるロボット相手にヘッドショット、キメてドヤるってお前……」
「あ、ヘッショじゃ倒せないのか……」
バツが悪そうな声で撃破された敵機を撃つクリスさんをヒロミチさんは「弾代がもったいないからやめろ」と言うと、なんでかクリスさんはその場で屈伸を始め、すぐに「気持ち悪くなってきた……」と言って口数が少なくなる。
ミッションクリア!!
基本報酬 2,800,000(プレミアムアカウント割増済み)
修理・補給 245,000
合計 2,555,000
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