19 強襲機
重機でゆっくりと生木を砕いて割るようなバリバリという音が後方から響いてくる。
不意に響き渡ったその轟音に慌ててフットペダルを踏み込んでニムロッドを旋回させるといつの間にか私の背後にウライコフ系の機体がいたのだ。
だが、その敵機はバランスを崩したかのようにゆっくりと倒れ、その背部には複数発の被弾痕があってそこから黒い煙を上げていた。
後ろから撃たれたのは明白。
だが、敵機を後ろから撃った射手の姿はすでにない。
「後はヨロシクぅ!」
「りょ、了解!」
姿を見せるかわりにニムロッドの通信機に飛び込んできたのは端的なヒロミチさんの言葉だった。
私は彼の技量に舌を巻きながらも立ち上がろうとしてくる敵機に対して腰だめにしたバトルライフルの3点バースト射撃を浴びせて撃破。
≪キロbisを撃破しました。TecPt:11を取得、SkillPt:1を取得≫
今回、私たちが受領したミッションは廃棄された食料生産プラント群を根城としたハイエナたちの殲滅。
巨大な工場群に侵入した私とヒロミチさんだったが、ハイエナたちは迷路のように入り組んだ道路を使って接近戦を仕掛けて来たり、あるいは地下通路を活用して私たちの背後を突こうとしてくるのだ。
「注意してください。二人の中間付近で新たに土煙が上がったのを確認しました」
ヒロミチさんの烈風とはまた別の味方機から通信が入ってくる。
「アシモフ! 機種と数は?」
「申し訳ございません。建築物の陰を動いているようで直接視認はできませんでした。ですが土煙の量からして多数という事はないと思われます」
「了解、ヒロミチさん、挟み撃ちにしましょう!」
上空にいるのはヒロミチさんの担当AIであるロボットが乗る飛燕だ。
もっとも今回のミッションは週末のイベントに向けて私とヒロミチさんが互いの力量を確認するという目的であるためにアシモフさんの飛燕は上空からの偵察がメインだ。
その証拠に飛燕は対地ミサイルと誘導爆弾こそ翼下のパイロンに懸架しているものの、固定武装であるガンポッドは取り外されて烈風に持たされているし、言外に「手を出すつもりは無い」と言うかのようにサブシートにはウチのマモル君を乗せている。
時折、上空にチラリと見える紺に近いくらいに濃い青色と水色のいわゆる洋上迷彩に塗られた飛燕は昔、航空自衛隊に配備されていたF-2改支援戦闘機を思わせた。
その戦闘機にも似たシルエットの機体が上空を悠然と飛んでいるのだから後ろに乗っているお客様へのサービスの遊覧飛行といったつもりなのだろう。
「ったく、良い気なものね!」
私はマイクがOFFになっているのを確認してから悪態をついた。
実の所、ミッションの進行自体は悪くない。むしろ順調といってもいいだろう。
だが、それはあくまでヒロミチさんの活躍によるもの。
敵味方合わせて、この場の戦闘のイニシアチブを握っているのは彼1人といってもいい。
私の口から悪態が出ていたのは、どうやってヒロミチさんに自分の力量を認めさせればいいのだろうと悩んでいたから。
「互いの技量を確認する」という名目で共にミッションを受領していたものの別に2人で撃ち合って戦っているというわけではない。
共に小隊を組んで戦いながら自分に十分な技量があると認めさせなければならないのだ。
いや、別に私に十分な力量な無ければ次のイベントで小隊を組んでくれないという話ではないのだが、これはあくまで私の自尊心の問題である。
アシモフさんがマップ上にマーキングした地点に向かいながらもどうしたものかと考える。
何故にヒロミチさんに主導権を握られているのかというと、ランク4.5のニムロッド・カスタムを遥かに凌駕する彼の烈風の機動力によるところが大きい。
傭兵NPCのローディーが駆る烈風とは違い、ヒロミチさんの烈風の武装は飛燕から取り外したガンポッドのみ。
本来は手持ち武装ではないガンポッドに適当に持ち手を付けて両手持ちできるようにして、バックパックのさらに後ろに大容量マガジンを背負わせているのだ。
さらに彼の烈風は脚部と腰部両サイドに増加スラスターを装備して機動力を底上げ、腰の後ろには推進剤の増槽を取り付けて燃費問題をクリアして、胸部や脹脛の後ろなどには小型の冷却器を装備することで長時間のスラスターの使用を可能にするという徹底ぶり。
高機動型にセッティングした烈風で迷路のような廃プラント内を駆け回って敵に先制攻撃を仕掛けているがために敵はもう1人の私への警戒がおざなりとなっているのだ。
「よし、来たかい。こちらから仕掛ける!!」
「あっ……」
マップ画面上では2機の敵機を私とヒロミチさんが挟んでいるという形。
どう仕掛けようかと一瞬の逡巡の間にすでに烈風は飛び出していた。
敵機の後方から飛び出した烈風がガンポッドを連射を浴びせ、敵機は被弾しながらも後ろを振り向いた頃にはすでに建造物の陰へと姿を消しているというこれまで何度みたか分からないような展開。
「ほら! 敵機がこっちを向いたよ!」
「りょ、了解!」
その言葉で私は反射的に遮蔽物から飛び出してライフルを連射していた。
とはいえ私のニムロッドはヒロミチさんの烈風ほどの機動力があるわけではない。おまけにただでさえ反動の制御が難しいバトルライフルは駆け回りながらの連射ではマトモな命中精度は期待できないだろう。
そういうわけで私は遮蔽物から機体を半分だけ出すような形で足を止めてライフルを撃つ。
「こういう時は先に弾倉を交換しておくんだ!」
「ご、ゴメン!」
5、6発撃った所で弾切れとなり、慌てて機体を遮蔽物の陰に引っ込めて弾倉交換してから再び半身を出すと、すでに敵機は被弾を厭わずに再び転進してこちらへと向かってきていた。
だが、そこをヒロミチさんが見逃すわけがない。
敵はすでに彼が通り過ぎていったと思って背後を晒したのかもしれないが、そこに再びガンポッドの高レートの連射が叩き込まれる。
彼の叱責はそこまで強いものではなかった。
むしろ初心者に戦闘のセオリーを教えるような感じでそこまで委縮するようなものではなかったが、それでも私は顔を赤くしながら失敗を挽回しようと連射で跳ね上がるライフルの反動を抑え込むのに必死になっていた。
結局、ヒロミチさんは私からのフレンドリーファイアを避けられるような位置から射線を作ってくれていたために2人は足を止めたまま連射を浴びせ続ける事ができたため、あっという間に2機の敵は撃破される。
≪オデッサを撃破しました。TecPt:5を取得、SkillPt:1を取得≫
≪小隊メンバーがオデッサを撃破しました。TecPt:6を取得≫
私がチラリと撃破ログに目を通している内にすでに烈風の姿は無くなり、ただそこに残っていたのは猛烈なスラスターの噴射の名残である土煙だけ。
「はぁ。確かに言うだけはあるわねぇ。それにしても高機動型機というのは止まっちゃいけないのかしら?」
「そら自分の長所を捨てる事なんてせずに、自分から有利ポジを探して動き回る方が得策でしょうよ」
独り事のつもりであったが、緊張が弛緩していたせいかマイクを切り忘れていたようだ。
遥か上空からマモル君が暢気な声でツッコミを入れてくる。
今回は対空砲火も上がってこないような高度にいるせいか、今日のマモル君はいつもよりものんびりとした声のように思えた。
さらに私たちに対して飛燕を操縦するアシモフが声をかける。
「ハハ、お二人さん、アレは高機動型というよりは強襲型といったタイプの構成ですよ!」
「きょ~しゅ~き?」
「ええ。あの烈風は確かに速度性能は素晴らしいものがありますが、色々と装備を盛り過ぎたせいで小回りは効かないんです」
つまりはヒロミチさんの烈風はマサムネさんがパチモン・ノーブルで見せたような機敏で繊細な回避運動ができないから、その速度性能で動き回って側面や背面を突くようなスタイルだという事だろうか?
なるほど、自分の強みを敵に押し付ける戦闘スタイル。
β版の経験者らしい優れた力量を持っているという事か。
「つまり高機動型機がルチャドールがマットの上を縦横無人に飛び回ってヒール軍団をバッタバッタ薙ぎ倒していくようなスタイルなのに対して、強襲機ってのは花道をゆったりと歩いて入場してくる対戦相手にいきなり襲いかかってアドバンテージを取るようなスタイルって事?」
「…………」
「…………」
私なりの解釈を披露すると、何故かマモル君もアシモフも無言になる。
やっとの事で口を開いてくれたのは私の相棒である少年だった。
「お姉さん、なんでその例えで僕たちが理解できると思ったんですか?」
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