第3章 騎士王討伐に備えよ!

1 次の敵は……

 私とマモル君は中立都市内の回転寿司屋へとやってきていた。


 昨日の難民キャンプでの戦闘の終盤、私がニムロッドでドラゴンスクリューなんて繰り出したものだから後部座席に乗っていたマモル君はエラい目にあっていて、そのせいで1日たった今でも私の補助AIはゴキゲン斜めなのだ。


 現実世界では昨日の出来事だが、ゲーム内世界なら1週間以上も昔の事である。

 いい加減に機嫌を直していても良さそうなものだが、まあクラスメイトから聞く弟の話を鑑みるにこの年頃の男の子は気難しいものなのだろう。


 とはいえ子供相手に回転寿司の効果は絶大。


 タッチパネル式のディスプレーを使って数皿の寿司を注文する事数回、すでにマモル君は機嫌を直してニッコニコ。


「……ねえ、マモル君? 貴方、ネットの掲示板で寿司安価スレでもやっているの?」

「寿司あんか? なんですか、それ?」

「違うのならいいのだけど……」


 上機嫌な事もあってマモル君の毒舌が顔を出す事はない。

 私の疑問が分かっていないようでマモル君はクスリと笑って首を傾げるとハンバーグ寿司を口の中に放り込んで味噌ラーメンのスープで口の中の物を流し込むと次は炙り豚カルビ寿司に取り掛かる。


「そもそも僕のタブレットはお姉さんに貸してるじゃないですか?」

「それは、そうなんだけど……。マモル君、もしかしてトワイライト人って生魚とか苦手だったりする?」

「はあ? そんな事はないと思いますけど」


 私がそう思うのは無理もない。

 これまでマモル君が食べていたものは味噌ラーメンの他に唐揚げ、フライドポテト。寿司はというと牛カルビ寿司に焙り豚カルビとハンバーグ寿司ときたもんだから生魚が駄目なのかと思ってしまったのだ。


「そういうお姉さんだってウナ丼2杯目じゃないですか?」

「ん~、現実だとニホンウナギ絶滅しちゃったからね~。VR空間とはいえウナギなんて3年振りなのよ……」

「え……、絶滅しそうな動物を3年前まで食べてたんですか? 現実の世界には頭がイカれてる連中しかいないんですか?」

「馬鹿ね、マモル君。私が食べなくたって中国人やロシア人に食われて絶滅するわよ。だったら自分の腹に入れて供養してやったほうがいいじゃない?」


 いつも馬鹿、馬鹿と言ってくるマモル君に返してやって私はほくそ笑むが、どうやらマモル君には上手く伝わっていないようだ。

 口には出さないものの、明らかに頭の可哀想な人を見る少年の目がいたたまれなくなって私は視線をテーブルの上のタブレットへと落とす。


「そう言えば、さっきから何を見ているんです?」

「ああ、カスタムパーツのおかげで私のニムロッドはランク4.5になったでしょ? その次の機体は何がいいかなって」


 確かにニムロッドは改修キットを3つ使う事によって別物のような性能になった。


 だが、足りない。


 ニムロッド・カスタムⅢではホワイトナイト・ノーブルには勝てない。間違いなく。


 おまけに改修キットの最大使用可能数は3回まで。

 つまり、もうニムロッドは大幅な性能向上は見込めないという事だ。


 そういうわけで食事の途中ながら私はニムロッドの次の機体の候補を探していたというわけだ。


「マモル君はどう思う?」

「僕は次は『マートレット・キャノン』を買うのが良いと思いますよ!」

「……却下だけど、一応、理由は聞いておこうかしら?」

「言わなきゃ分かりませんか?」


 マートレット・キャノンは難民キャンプでの戦闘でも使っているプレイヤーがいたランク2の機体だ。


 背部バックパックに取り付けられ、右肩に担ぐ形の105mm砲はいかにも頼もし気で、実際に当たり所さえ良ければランク1か2の機体ならワンパンで撃破できる威力を持っている。


 だが所詮はランク2の機体。

 取り回しに不便な大砲を担いでホワイトナイト・ノーブルとマトモに戦えるわけがない。


 マモル君もそれは分かっていように、ランク4.5の機体を持っているのにランク2の機体を買えというのはつまり、マモル君がマートレット・キャノンに乗ると言っているのだ。


 ようするに私の後ろには乗りたくないと言われているのも同じだが、意外にも私はマモル君の事を可愛い奴だと感じていた。


 攻略wikiによればマモル君は狙撃ならそれなりに役に立ってくれるらしい。

 だが現在、正式サービス版ではβ版にあったスナイパーライフルという武装カテゴリーが実装されていないのだとか。

 マモル君は実装されていないスナイパーライフルの代わりにマートレットキャノンの長砲身砲を使おうというのだろう。


「ふふ……」

「なんですか、急に笑い出して気持ち悪い」

「心配しないでもいいわよ。貴方にはニムロッドに乗ってもらうから。スナイパーライフルは無くてもバトルライフルを強化でヘビーバレルにして照準器も良いものにしたらそれっぽくなるんじゃない?」


 元々、アサルトライフルやアサルトカービンではなく、私のプレイスタイルにはいささか合わないバトルライフルを購入したのは、いずれマモル君にニムロッドを乗り継いでもらう事を考えての事。


「はあ……。ようするに僕は新機体に加えて、新機体の武装の購入資金が貯まるまで洗濯機のドラムの中に入れられたような目に合わなきゃいけないんですね……」

「ハハッ、そんなこと言わないで、ほら! ここってデザート類も充実してるわよ?」

「……頂きます」


 がっくりと項垂れたマモル君はタブレットでティラミス、アイスクリーム乗せベルギーワッフル、栗入り善哉を注文。ヤケ食いで鬱憤を晴らす所存なのか。


 デザートが来るまでに残ったポテトを口の中へと片付けていくマモル君を後目に私は再びタブレットへと向き合う。


 次の機体は……、ランク5じゃ物足りないか?


 ニムロッド・カスタムがランク4.5なのだから、ランク5の機体を買っても性能差は微々たるものだろう。

 もちろんランク5の、たとえばトクシカ氏の私兵が使っていたジャギュアも回収キットを使えばランク6.5まで底上げする事も可能なのだが、改修キットはイベント報酬などでしか手に入らない入手方が限られた物らしく、もっと高位の機体に使うために取っておきたい気もする。


 ならばランク6の機体はというと、こちらは購入資金が一気に跳ね上がる。


 例えばニムロッドの上位機種とも言えるランク6機体は「セントリー」になるのだが、代金は42,000,000クレジット。

 4千2百万だ。


 対して私の現在の所有クレジットは5百万に満たない。

 おまけに武装も購入となると一体、どれほどの資金が必要になることやら……。


 ……いや、新機体の武装代が貯まるまでニムロッドはお休みにして、それまで今持ってるバトルライフルを使うという手もあるか。


 思案に暮れていると、タブレットからメールの着信を示す通知音が鳴る。


「うん? 姉さんから……?」

「虎代さんからですか」


 現実世界での現在の時刻は18時を過ぎた頃、姉はまだゲームの正式サービスが始まったばかりとあってか残業続きと聞いていたがどうしたのだろうか。


 タブレットを操作してメールの文面を表示させると私は言葉を失って固まってしまう。


 その様子を見てマモル君も怪訝な顔をしながら何が書いてあったのかと問うてきた。


「ど、どうしたんです?」

「…………姉さんとこのマサムネさんが機体をパクって逃げたって……」




(後書き)

僕はウナギは大好きです。

漁師の皆さん、ウナギが絶滅するまで頑張ってください!

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