11 撤退戦その2

≪攻撃命中! 4,800→4,180(-620)≫

≪攻撃命中! 4,800→4,356(-444)≫


≪被弾! 8,800→8,150(-650)≫

≪被弾! 8,150→7,938(-212)≫

≪被弾! 7,938→7,255(-683)≫

≪被弾! 7,255→6,656(-599)≫

≪被弾! 6,656→6,476(-180)≫


 砲弾の応酬。


 だがニムロッドの拳銃の薬室に残っていたのは最後の散弾。

 2機の雷電に損害を与えるものの、微々たるダメージ量といってもいい程度のものだ。


 対して3機の雷電が手にしたアサルトライフルの連射は次々とニムロッドに命中していき、あっという間に4分の1以上のHPを持っていかれてしまう。


 もちろん私もただ突っ立ってるわけではなく回避運動を取っているし、実際に半分以上の敵弾は避けているのだけど、それでも被弾は避けられない。

 むしろ2発は装甲で弾いた事でダメージを軽減できただけ幸運だったというべきだろう。


「突っ込むよッ! しっかり掴まってて!!」


 このままではジリ貧だと私はめいいっぱい左右のフットペダルを踏みこむ。

 力強くも1歩1歩と着実にというふうに走り始めたニムロッドだが、そこに全身のスラスターの推力を合わせる事で一気に加速して敵との距離を詰める。


「食らえッ! 新兵器だッ!!」


 加速しながら腰部装甲後部に取り付けていたビームソードを左手に持たせてビーム刃を発振させて敵の先頭機をすれ違い様に斬りつける。


≪攻撃命中! 4,180→2,130(-2,050)≫


 さらにニムロッドを駆け抜けさせて、右の雷電へと返す刀の斬撃を叩き込む。


「うん……? うわ、遅ぇ!?」


 私のイメージだと超高熱のビームソードはありとあらゆる物を一瞬で切り捨てるようなものだと思ったのだけど、さすがに私のビームソードは低ランクの物だけあってそこまでの性能はないようだ。


 切れるには切れている。

 いや、「切れる」というよりはビームで形成された刃が触れた箇所が「溶けて」いくといったほうが正しいのかもしれない。


 私の脳裏に思い浮かんできたのは熱したナイフを突き立てたバターの塊がゆっくりと溶けていく光景や、小学校の理科の時間にやった電熱線で発砲スチロールを溶断する実験という光景であった。


 そのようにゆっくりとビームソードは雷電の左腕を切り落とし、だが敵のパイロットは回避しようとする事はなく、逆に反撃の好機とばかりに片手で持ったライフルをもう殴り合うような距離のニムロッドへと向ける。


「危ないッ!!」


 メインディスプレー一杯に映し出されたライフルの砲口。

 思わず私はコントロールレバーから手を離して頭部を抱えるように身構えてしまう。


「馬鹿ッ! 操縦桿から手を離すヤツがいるかッ!!」


 マモル君の怒鳴り声とともに砲声が轟きコックピット内が振動で震える。


≪被弾! 6,476→5,777(-699)≫

≪頭部損傷! センサー性能低下! プロセッサ性能低下!≫


「あれ? 生きてる……? コックピットブロックの装甲は抜けなかったの……?」

「何を馬鹿な事を抜かしてんですか!? 撃たれたのは頭部です!!」

「あ、HuMoのコックピットは胸部だったわね……」


 HuMoのコックピットブロック内側壁面をメインディスプレーとして表示される視界は頭部のメインカメラから得られた映像である。

 つまり眼前に敵の砲口が突きつけられているように見えても、実際に自分たちがいるのはその下の胸部コックピット。

 HPさえ残っていれば十分に反撃は可能である。操縦桿から手を離していなければの話だが。


「クッソ!! 脅かしてくれちゃって!!」


 苛立ち紛れに私は再び操縦桿を握ってビームソードを振るう。

 敵機が跳ねあがったライフルの銃口を下ろそうとしている手首を切り裂き、胸部装甲に大穴を開ける。


 その大穴へ右手の拳銃をねじ込ませてトリガーを引いた。


≪雷電を撃破しました。TecPt:10を取得、SkillPt:1を取得≫


 ニムロッドが装備している拳銃は口径こそ120mmと大きいものの、砲身が短く砲弾を十分に加速させることができないために徹甲弾を使ったところでマトモな貫通力は得られない。


 だが私が交換した予備弾倉に用意しておいた弾はHESHである。


 High Explosive Squash Head、即ち粘着榴弾とは敵の装甲を貫通する事を意図したものではない。

 その弾頭の先端は敵に命中した際に張り付くように潰れ、爆発の衝撃波を装甲内部へとしっかりと伝える役割を果たす。

 そして装甲を伝わった衝撃波は、装甲内部を剥離させて飛び散らせ、装甲に守られている器材を破壊し、人員を殺傷する。


「ホントはこれをノーブルに使ってやりたかったのだけどね……」


 膝を付いて動かなくなった雷電を後目に残る2機へと機体の向きを変える。


「さっきみたいな反撃を貰わないように、敵を倒す事に固執しないでとっとと離脱するか、もしくは斬撃ではなくコックピットやジェネレーターを狙った刺突を意識してください!」

「なるほどね……」


 アドバイスが遅いよ、とも思うが実際のとこ私のビームソードがどの程度の性能があるのかマモル君も今まで知らなかったのだからしょうがないのだろう。


 たしかに最初に斬りつけた1機はそのまま駆け抜けていたために反撃を食らう事はなかったし、2機目の左腕を切断している時間があったら敵の胸部装甲とコックピットブロックを貫いて撃破する事もできていただろうし、マモル君の助言は正しいのだ。


 頭部のメインカメラが潰された事で機体各所のサブカメラから得られた映像にメインディスプレーは切り替わり、解像度は低く荒い物となって時折だがノイズが走るがもう戦えないという事はない。


 ライフルを構えたまま後ずさろうとする敵に対し、私は考える事もなく再びフットペダルを踏み込んだ。

………………

…………

……

≪雷電を撃破しました。TecPt:10を取得、SkillPt:1を取得≫

≪雷電を撃破しました。TecPt:10を取得、SkillPt:1を取得≫


 攻防にかかった時間はほんの僅か。

 崖下に落ちていった1機が再び丘の上へ姿を現した頃には彼の小隊メンバーは全滅していたし、その1機もすぐに仲間の後を追う事となる。


≪雷電を撃破しました。TecPt:10を取得、SkillPt:1を取得≫


 だが、まだ2個小隊がこちらへと向かってきている。

 ここで迎え撃つか、それともサブリナちゃんに合流するか。

 少しの間、私は悩むが結局、HPの残量も心元ないし合流する事を選択。


 ニムロッドをホバー状態にさせてサブリナちゃんの後を追う。

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