11 対装甲兵器

≪戦闘ヘリを撃破しました。TecPt:3を取得≫


 低空で爆散したヘリの残骸がゆっくりと大地へと落ちていく。


 あまりにもあっけない。

 前回、あんなにも苦戦したのが嘘のようだ。


「対空炸裂弾、使えるわね……」


 私たちのニムロッドは前回と同様に輸送機に乗って戦闘区域へと運ばれてきていた。

 前回と違うのは街道の警戒任務のため当該区域の中心付近へと送り届けてくれたのに対して、今回は敵の対空砲火を避けるために輸送機はエリアの西の端で着陸し、そこから東へ逃走する目標を追うという形だ。


 街道の平坦な地形とは異なり、いくつも連なる丘陵は敵が身を隠すのに適した地形。

 逆にこちらは丘に遮られてレーダーの探知範囲が限定される。丘の麓に位置する時はなおさらだ。


 とりあえず前回のミッションでだいぶ推進剤の残量に余裕があった事からスラスターの微力運転で増速しながらニムロッドを走らせはじめるとすぐに奥の丘から戦闘ヘリが垂直に飛び上がって姿を現したのでレーダー画面に赤点、敵として表示されているのを確認してコントロールレバーのトリガーを引く。


 彼我の距離は2kmもなかった。

 ライフルの銃口から発射された火球はあっという間に駆けていき、機体を走らせながらの射撃であるので直撃弾にはならない軌道のものではあったが、突如として火球は炸裂して黒煙とともに周囲へと破片を撒き散らして戦闘ヘリを撃墜していたのだ。


「確かにこれは『難易度☆ホシイチ』ねぇ……」


 前回のミッションでは随分と苦労させられた分、倒しても取得できる技術ポイントが3では割に合わないと思っていたのだけれどもなんてことはない。適切な砲弾を使えばこんなにも容易く倒せる相手であったのだ。

 むしろ装甲車やら武装装甲トラックを倒してもらえるポイントが2であったことをおもえば、1.5倍の報酬は美味しい相手だといってもいいのではないだろうか。


 そのままニムロッドを駆けさせて一気に丘の頂上へと辿りつく。


「見えた……! それにヘリが3に装甲車が1……!」


 頂上へとたどり着いた事でレーダーの走査範囲が一気に広がって目標であるキロを捉える事ができた。

 頭部ツインアイカメラを指向させるとディスプレーにその姿が拡大されて表示される。


 こちらに背を向けて駆けていく機体の頭部は深皿をひっくり返したようで、飽きずに戦争やってるアフリカや中東の連中が使っている骨董品の戦車の砲塔のようにも見えた。

 手にはライフルを持っているようで、さらに背中のバックパックの側面には棍棒のようなものを取り付けているようだ。


 さらに私たちが頂上へと出たのに気付いてすぐに他の丘の陰に隠れたようだが、キロの他にも複数の敵影が確認された。


「さすがにこれで全部という事は無いだろうけど、……行くか!!」


 航空戦力用の対空炸裂弾も、装甲車用の榴弾も余裕がある。


 私はスラスターを全開にしてニムロッドを空へと飛び立たせた。


 丘を2つ飛び越えて、3つ目の丘の頂上付近へと着陸。


「あっ! 馬鹿ッ! 敵が近くにいるって分かってるでしょ!? こういう時は頂上のちょっと手前に降りて敵からは頭だけとか上半身だけが見えるようにすれば敵の攻撃を躱しやすくなるでしょうが!!」

「あ~、なるほど、なるほど……」


 後席からまた馬鹿という言葉が飛んでくるけど、言われてみれば確かにそのとおりなので腹は立たない。


 まあ、だったら最初から教えて欲しいとは思うけれど……。


 マモル君曰く、斜面から機体の一部だけを出して被弾面積を抑えながら索敵と攻撃を行う戦法を「ハルダウン」とか言うらしい。


 下半身を隠せば機動力の要である脚部を守りながら戦う事ができるし、頭部だけを出せば敵に銃を向ける事はできないけど胸部のコックピットを隠しながらセンサー類の集中している頭部で索敵をする事はできるしミサイルは使う事ができるという。


「なるほどねぇ……、ま、関係無いわね」

「ちょっ!?」


 丘の頂上でミサイルを全弾発射し、再び私はニムロッドを飛び立たせた。


 2発の小型ミサイルはキロの殿を務めるように後方を進む2輌の装輪装甲車へ。

 2発は左右に装甲車たちのさらに左右に広がる2機のヘリコプターへ。

 残る2発はこのミッションのターゲットであるキロへだ。


≪警告! ミサイル接近!≫


 コックピット内に警報が鳴り響き、私は空中で身を翻してCIWSを起動させる。

 直後、2つの爆炎の華が低空で咲き、爆風で機体を煽られながらも私はなんとか着地させる事ができた。


 飛び越えた丘の左手側の陰から戦闘ヘリが飛び上がって対HuMoミサイルを発射したのだ。


 すかさず私はライフルを向けてトリガーを引く。


≪戦闘ヘリを撃破しました。TecPt:3を取得≫

≪戦闘ヘリを撃破しました。TecPt:3を取得≫

≪AFVを撃破しました。TecPt:2を取得≫

≪AFVを撃破しました。TecPt:2を取得≫

≪戦闘ヘリを撃破しました。TecPt:3を取得≫


 発射していたミサイルが着弾するのと、対空炸裂弾が伏兵を撃破したのはほぼ同時だったのだろう。

 次々とサブディスプレーに流れてくる撃破ログを確認している暇はない。


「ジャッカル……。さすがに本職の傭兵は早いな」


 撃破目標であるHuMo、作業用キロは逃走を止めてこちらへ向きかえっていた。


 メインディスプレーの敵機に表示されているHPは「5000/5000」。

 戦車の砲塔のような頭部に取り付けられている機関砲から陽炎が立ち昇っているのを見るに、私がそうしたように敵もミサイルをCIWSで迎撃したのだろう。


「貴方、武装犯罪者集団ハイエナとお友達なんでしょう? 個人傭兵ジャッカルとも遊ぶ気にはならない?」

「抜かせッ!!」


 オープンチャンネルで音声だけの通信を交わしながら私がライフルをキロに向けると敵も手にしたライフルを発砲した。

 ニムロッドにしっかりと照準を定めてからというよりは乱射に近い敵の射撃に対し、私は機体をホバー状態にさせて回避運動を取る。


 そのまま丘の斜面が急に盛り上がった箇所に足が乗り上げたのをこれ幸いとフットペダルを踏みこんで地面を蹴り上げさせてジャンプ。


≪弾種変更 対空炸裂弾→徹甲弾≫


 ガコンという鈍い音がしてライフルの薬室に装填されていた砲弾が排莢され、次弾が装填されるとともに私もトリガーを引く。


≪命中! 敵HP 5,000→4,133(-867)≫


 トリガーを短く切った3連射は1発が直撃。


「チィっ!!」


 敵の舌打ちする声が聞こえてきたかと思うと、敵はライフルを腰の後ろのマウントラッチへと固定して代わりに背中の棍棒を取り出してくる。


「接近戦でカタを付けようって!? 近づいてくる前に……」


 彼我の距離はまだ500mはある。

 全高16mほどの巨人といえるHuMoの戦闘距離としては近距離と言えるのだろうが、かといってすぐさま格闘戦に移行できる距離かと言われれば、それは否だ。


 とくにニムロッドはキロに対して機動力で大きく水を開けている。

 向こうが距離をつめてこようが、こちらは後退する事で自分の間合いを保ったまま戦う事ができるのだ。


 しかも敵のキロは採石場で使われていた作業用の機体という事もあり、左手は人型を模した物ではなく、手首から先にゴツゴツとした突起が付いた球形の削岩機のような形になっている。


 つまり右手にライフルを持ったまま左手で棍棒を使うという事ができない。


 ……うん?


 なんで?


 なんでわざわざ敵はライフルをしまって棍棒に持ち替えたのだろう?


 ニムロッドの頭部ほどのサイズの削岩機が左手にあるのなら、それで殴りつけたってそれなりの威力があるだろう。


 つまり、採石場仕様のキロは最初から左手に格闘戦用の武器を持っているのと同じ。

 なら、なんで右手にも格闘戦用の棍棒を持つ?


 射撃戦と格闘戦の両方に対応できる武装パターンを捨てて、わざわざ格闘戦特化仕様に?


「馬鹿ッ!? 避けろ!!」

「……えっ?」


 後席でマモル君が怒鳴るのと、敵機の棍棒が火を吹くのはほぼ同時だった。


 こちらに向けられた棍棒。

 その先端の球状の物体が火を吹いて発射されたのだ。


 マモル君のあまりの剣幕に反射的にスラスターを吹かして機体を右へ地を這うように低空飛行させて迫る謎の飛翔体を回避する。


 直前まで私たちがいた場所を通りすぎた飛翔体はそのまま飛び去っていき、やがて推進力を失って赤茶けた大地へと落下して爆発した。


「……は? な、なにアレ……?」

「パンツァーファウスト! 現実世界そっちの第二次大戦中にドイツ軍で使われた対戦車兵器のHuMo版です。ロボットアニメなんかでも定番でしょう!?」


 後ろから飛んでくる声は「何を当たり前の事を……」とでも言いたげなものであり、彼の常識知らずを見るかのような表情がありありと脳裏に浮かぶけど、生憎と私はそんな物など初耳だ。


 それよりも私の心を支配していたのは着弾したパンツァーファウストが作り出した爆炎のほうだった。


 全高16mほどのHuMoの4倍か5倍ほどはありそうな火炎は大地よりも真っ赤で、墨のように真っ黒な煙をもくもくと盛大に上げている。


「あ、あんなん食らってたら……」

「でも良かったじゃないですか」

「何がよ!? これホントにホシイチのミッション!?」


 パンツァーファウストの着弾による爆発は私が撃ったミサイルや墜落したヘリが起こした爆発とは桁違いのものであり、いくらニムロッドのHPが8,800もあろうと1発の被弾で状況をひっくり返されてしまうであろう事は必然といえるだろう。

 なんなら1発で撃破されてしまう可能性だってあるのかもしれない。


 なのにマモル君は先ほどとは違って随分と暢気な声である。


「アレ、1発しかないみたいですよ?」

「うん……? あっ!!」


 棍棒の柄の部分に見えていた発射機を放り捨て、腰のライフルを取り出すキロの姿はむしろ哀愁すら感じさせるものだった。

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