第七話 魔法の情報交換
町や村を避けながらオルス伯爵領を進んでいく。
意外と中央部にリィニン・ディアの拠点があるらしい。
リオは山脈を見上げて息を吐いた。
「高低差が激しいね」
「どこもかしこも山だらけ」
リオに同意して、シラハが白い息を吐く。
中央部でも山ばかりで、リィニン・ディアの拠点が人目に付くこともないのだろう。
リオはラーカンルに声をかける。
「拠点はもう見つかってるんですよね?」
「この五人が追跡調査をして見つけてくれたよ」
ラーカンルが手で示した五名の騎士が黙礼する。
リオはいくつかの気がかりを質問する。
「ミュゼっていう異伝エンロー流の使い手がリィニン・ディアにいるんですけど、情報はありませんか?」
リオが背格好などを伝えると、五名の騎士は顔を見合わせて確認し合ってから一斉に首を横に振る。
「ミュゼについては分からない」
「そうですか」
元々、秘密組織の傾向が強いため構成員であるミュゼについてもリオ達が持ってきた情報以外にない。
フーラウが横から口を挟んだ。
「リィニン・ディアの拠点ってのは、結局どんな場所にあるんだ?」
「廃鉱山に巣食っている。入り口から少し離れた場所に山小屋兼駐屯所があって、オックス流の正規騎士が警備を名目に守っている」
「見張っていれば、リィニン・ディアとその正規騎士が一緒にいるところを押さえられないか?」
「しばらく張っていたが、接触はなかった。リィニン・ディアも正規騎士の眼を避けて出入りしていたから、最初は無関係だと思っていたほどだ」
「徹底してんねぇ。しかし、どう攻めるんだ? 下手を打つと挟み撃ちだぞ」
フーラウが攻め方を聞くと、カリルがリオの頭に手を置いた。
「リオが神剣オボフスを使って廃鉱山の側面から突入する。俺たちはその後ろから続けばいい」
「予想だにしない方向からの襲撃か。奇襲らしいといえばらしいが……」
フーラウはリオを見て言葉を濁しかけたが、ここではっきり言っておくべきと判断したのか続ける。
「その作戦、リオが先頭を切るんだろ? 剣術の才能がないリオが敵陣真っただ中に突っ込むことになる。大丈夫か?」
「シラハが邪剣ナイトストーカーを使って姿を消すから、即座に戦闘にはならない」
「うわぁ……。リオもシラハもヤバイモノ持ってるな」
「いろいろあったんだよ」
「リオは何度か死にかけてる。いい加減、大人しくしてほしい」
「彼女ちゃんに心配かけるのは良くねぇよ?」
「義妹だよ」
「シラハちゃん、ちょっとお姉さんと魔法関連の打ち合わせしとこ。騎士組は魔法での援護担当いる?」
「一応の担当は自分です。正エンロー流に合わせて魔法を使うので癖がありますから、先に説明させてもらっても?」
「それって、俺やフーラウさん達も聞いた方がいい話ですか?」
「そちらの援護はできないから聞かなくても問題はありません。ただ、リオは聞いておいた方が勉強になるかもしれません。魔法斬りができるわけですから」
「なら、聞かせてもらいます」
後学のために、とリオも加わって、使える魔法の開示とどんな場面で使用するかの情報共有が始まった。
使用できる魔法の数ではシラハが圧倒的に多く、オッガン監修の魔法剣による即時発動などで即応性も高い。
奇襲作戦は夜間に行う。つまり、シラハは邪剣ナイトストーカーで姿を隠したままこれらの魔法を使用できることになる。
「一番若いのに頼りになるなぁ」
「私一歳」
「いやそこまで若くないでしょー」
シラハが真実を語っていることなど知る由もないソレインがツッコミを入れる。
そんなソレインが使用する魔法は詠唱を必要とするものだ。
「リオには村でイタチの邪獣と戦った時に見せたわね。鳴窟っていう土のドームを作り出して中に閉じ込める魔法。あれが一番規模が大きい魔法よ」
「詳しく聞きたい」
即座に食いついたシラハにソレインが当然だと説明を始める。
「当然、話すわ。そういう趣旨の情報交換会だもの。詠唱文は『――籠る王者の大言木霊する、鳴窟(めいくつ)』で、ヘッドボイスで発声する」
ソレインは冒険者という職業柄、追跡、捕獲、隠蔽、逃走の補助となる魔法を覚えているものの詠唱に時間がかかりがちで即応性に欠けるのが難点らしい。
特に戦闘となると魔法を詠唱するよりも短剣で斬ってしまった方が早いため、戦闘補助の魔法は覚えていない。
ソレインの魔法の説明が終わり、リオは正エンロー流の騎士を見る。
騎士が魔法をどのように剣術に組み込んで戦うのかには興味があった。それも、少人数での戦闘であれば最強格の流派とされるエンロー流である。
「お二人の後ではかなり地味ですけどね……」
リオの視線に気後れした様子ながら、正エンロー流の騎士が魔法を説明してくれる。
正エンロー流の騎士による魔法は地味だが実用的なものが多いらしい。
シラハも使う地面を陥没、または隆起させる魔法や手で握り込める程度の細かい砂を発生させる魔法、一時的な止血を行う魔法など剣を振りながら片手間で使用できる効果を持つ。
地味ではあったが、リオにとってはかなり興味をそそられる魔法だった。
「俺でも覚えられますか?」
「魔力の質の問題で多分無理ですね。詠唱や魔法陣を省略して発動するので、変質させる前の魔力の質が魔法に適していないと発動できません」
「そうですか……」
「リオが考えるべき立場は、魔法を使う方ではなく使われる方です。例えば――」
不意に騎士が片手を持ち上げてリオの眼の前で手を開く。
視界が砂で覆われた瞬間、リオは身体強化を一気に限界にまで引き上げ、肺活量に任せて砂を吹き飛ばした。
完全に不意を打ったつもりでいた騎士が目を丸くし、遅れて拍手する。
「お見事です。最適解ですよ。いや、でも、えぇ……」
「なんでドン引きしてるんですか? 素直に褒めてくださいよ」
「身体強化を限界まで引き上げる早さがミロト流の熟練剣士並だったのでつい……。しかも無駄な魔力放出すらないなんて。何回か体を壊してないと身に付かない技術なのに、その年齢で出来るって苦労したんですね……」
「なんか納得いかない……」
呆れと同情が混ざった目で見つめられ、リオはため息をついた。
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