第155話 講義について悩む僕

 学園長としての仕事が新たに加わったことで大幅に忙しくなると思ったが、エイブラムが気を利かせてか建設工事の仕事を減らしてくれたおかげで、むしろ以前より余裕のある生活を送れるようになっている。


 同年代の生徒たちに囲まれ、時には一緒に狩りに出て充実した学園生活を送れているが、一つだけ不満がある。


「なんで僕の講義の参加者が四人でクリスの講義参加者が三十五人なのかな?」


 最初は百人近くいた僕の講義の参加者は結局四人だけになってしまった。それに比べてクリスの講義は大人気である。


「チェイスの講義は僕も受講したけど難しすぎるよね。最初の理論説明のベクトルだったっけ? 僕もほとんど理解できなかったし、正直よく四人も残ったなって思ったけど……」


「僕も難しいとは思ったけどベクトルの説明から始めないとその後の説明が更に難しくなるから理論説明から始めたんだけど……」


 クリスは苦笑いを浮かべた。


「チェイスの講義は受講者が多すぎたし人数を減らすためには理論説明から入るのは正解だったと思うけど、魔法に興味を持ってもらうためには逆効果だったよね」


「そうかな? 理論が一番大切だと思うけどな……クリスはどんな風に教えているの?」


「僕は全く魔道具に触ったことがない生徒にも興味を持って欲しいと思っているから、生徒のレベルに合わせてそれぞれ魔道具を作らせているんだ。初回の講義では熱理論について教えたけど、難しい話はとりあえず後回しにしてまずはそれぞれに魔導コンロを作ってもらったんだ」


「魔導コンロってそんなに簡単に作れるの?」


「簡単なものなら魔石と鉄線をつなぐだけでできるから誰でもできるよ。材料同士を溶接する必要があるから少し技術は必要だけど必要なのはそのくらいかな? 初めて魔道具を作る生徒は設計図どおりにつなぐだけでもかなり時間がかかるけど、慣れた生徒は一瞬で終わるからね。できる生徒には魔導コンロの火力調整の仕組みを組み込ませたり、魔法陣を使って魔道コンロを作らせたりレベルに合わせて進めてるんだ」


「そのやり方で三十五人も教えるのはすごく大変そうだね……」


「僕の工房から講義の手伝いに一人来てもらっているし、できた生徒にはできない生徒のフォローをお願いしたりしているからね。人に教えるのも結構勉強になるんだよ」


「すっごく気合入れて講義しているよね。僕にはそのやり方は無理そうだ……」


「やっぱり魔道具に興味を持ってくれる人が増えると嬉しいからね。魔道具作りは魔法と違って才能が無くても誰でもできるし、学園を卒業した後も趣味として続けてくれると嬉しいしね。簡単な故障の修理だけでもできるようになれば何の仕事についても役に立つはずだから」


(本当にクリスは魔道具のことが好きだよな。チェイスも教えてもらったらどうだ? 俺も興味あるし)


(全く興味がないわけじゃないけど、これ以上やること増やすのは無理だよ)


「クリスの魔道具にかける情熱はすごいよね。僕は魔法が得意だけど、あくまで生きていくための手段の一つでそこまで好きってわけじゃないもん」


「確かにチェイスが好きなのは魔法より狩りって感じだもんね。魔獣狩り講座でもやれば受講生が集まるんじゃない?」


「最初は冒険者講座をやろうと思ったんだけど、エイブラム様から却下されたんだよね。お前のやり方は一般的な魔獣の狩り方とは違うからだって。その他にもお酒や料理の作り方についても講義で教えようと思ったのに、学園でやることじゃないって却下されて、結局、無詠唱魔法の講座になったんだよ」


「エイブラム様の言うことももっともな気がするけど……その内容なら冒険者ギルドや商業ギルドで外部講座をやってみたら? 引退後の生活を考えている冒険者や儲けの種を探している商人は多いだろうから、人気出ると思うけどな」


 外部講座は学園の教師が学校外で学園の生徒以外を対象として行う講義で学園の宣伝や人材発掘のために国立学園で行われていた制度だ。


「いいかもね! 美味しい飲食店が増えるとうれしいし、お酒の開発製造も時間がかかるから商人に投げてしまいたかったんだよね。学園の宣伝になりそうだからエイブラム様も文句言わないだろうし。これで念願のゴブリンラーメンの店もできるかも!」


「うーん……オリジンの町中にゴブリンラーメンの店ができるのも嫌だけど……」


 あんなに美味しいのになかなかゴブリン料理は受け入れられないのが残念である。


 外部講座はすぐにエイブラムの決裁が下りたため、早速、冒険者ギルドや商業ギルドでの外部講義を始めることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る