第143話 盗賊団の一員になった僕
馬車は一時間ほど走ったところで停止し、外に運び出された。辺りには枯れた木々が無造作立ち並び、その間には朽ちた木がいくつも横たわっている。全く手入れのされていない荒廃した山奥であろうか、周囲には人や魔獣の気配は全く感じられない。
「なかなか良い場所だろ? そこの洞穴がアジトだ。聖都からは距離があるし、騎士や冒険者が来ることはないから安心しろ。荷物を運ぶからお前も手伝え。女は牢の中に入れておけ」
ルアンナは洞穴の奥に連れていかれたが、僕は後ろ手を縛っていた縄を切られ手伝いをさせられることになった。必死に演技したかいもあってか、ただの子供だと油断してくれているようだ。
盗賊の一人がねっとりとした視線でずっと僕のことを見ているのが気になるが……
洞穴の中は少しジメジメとした感じはあるものの暖かく天井も高いためそれなりに過ごしやすそうだ。馬車に積んでいた荷物は一番奥の部屋へ運んで行った。奥まで数十メートルはありそうな洞穴で途中でいくつも枝分かれしていてかなりの広さがある。
「貧弱な野郎だと思っていたがなかなか力はあるじゃないか。鍛えれば盗賊としても生きていけるかもしれんな。下種な性格も盗賊らしいしな」
「仲間にしてもらえるならば喜んでお手伝いします。盗みでも殺しでも何でもしますよ」
「こりゃあいいや。あとで頭領にお願いしてみるぞ。ボッチもうれしいだろ?」
「ああ、若い男がアジトにいるのは素晴らしいことだ。今夜からのことが楽しみで仕方ない」
僕のことを狙っている盗賊の名前はボッチというらしい。ボッチに舐めるように体を見られると身震いがしてくる。
僕の盗賊団加入はすぐに認められたようで新入りと呼ばれることとなった……
「新入り、そろそろ晩飯の時間だ。調理場はそっちだから適当に作ってくれ。作ったら奴隷の女たちにも忘れずに持って行けよ。お前の妹も奴隷たちと牢に入っているからな」
調理場には一通りの調理器具はそろっていたものの、食材はほとんどなく、硬くなったパンや干した肉や野菜が少しある程度であった。
(こいつらは食に対するこだわりがないのか……それなりに儲けていると思ったのだがな……)
(この材料なら黒パンと野菜スープだね。イースフィルを思い出して気が滅入るよ……僕たちの荷物の中に食料もあったからそれを使わせてもらおうか)
(ついでに俺の本体の魔剣にも魔力を注いでおいてくれ)
つい忘れそうになるが、いつも持っている魔剣がオッ・サンの本体である。魔剣がある程度近くにあればオッ・サンは自由に動けるが、定期的に魔力を注がないとオッ・サンは本体を維持できなくなってしまうらしい。
僕たちの荷物の中から食材をいくつか取り、少し具沢山のスープを作り牢にいる奴隷に持って行った。
牢の中にはルアンナとは別に二人の女性が入れられていた。二人とも十代後半くらいの年齢で少しやせ細っているが綺麗な顔立ちをしている。
「晩御飯持ってきましたよ。食器はまた後で獲りに来ますので」
二人はうつむいたままでこちらを見ることもなく返事もなかった。ルアンナは食事を受け取るや否や貪り食べ、「不味い」と文句を言っていた。
「夜にアジト内を少し散策するからもう少し待て」
「できれば夜中までに決着をつけたかったのですが……僕の貞操を守るためにも……」
「それは自分でどうにかしてくれ」
「……」
食堂に戻ると盗賊たちが料理を食べ始めていた。料理ができたことを伝えてもいなかったのに鼻が利くことだ。
「先に食っているぞ。具沢山でなかなかうまいじゃないか」
「僕の馬車に乗っていた食材を少し使いましたので。もし町に行くことがあれば少し食材を買ってきてくださいよ、肉とか野菜とか」
「頭領いいですか? どうせならもっとうまいものを食べましょうよ」
「好きにしろ」
頭領はそう言うと部屋に出て行った。
「頭領は食べ物にあまり関心がなさそうですね」
「あの人は仕事以外には関心がないからな。仕事さえすれば何をしても文句を言わねえから、下っ端としてはやりやすいがな。おっと、一つだけ言っておくことがあった。頭領の部屋には何があっても入るなよ。ドアに手をかけただけでも切り刻まれちまうからな」
「気をつけます。そういえば奴隷の牢の掃除などはしなくてもいいのですか?」
「どうせすぐに売られるから飯だけやっとけばいいぞ。そうだ、これも言っておかないとな、奴隷に手を出すんじゃないぞ。奴隷のいる牢には鍵がかかっているから無理だとは思うが……頭領は仕事に関しては本当にうるさい人だからな。商品価値を落とすようなことをしたら間違いなく殺されるぞ」
「怖いですね……他に気を付けることはありますか?」
「仕事さえきっちりやって商品に手を出さなければ大丈夫だ。あとは適当にやってくれ。さあ頭領もいなくなったし酒でも飲むか。新入りも飲むか?」
「いえ、まだ片付けや掃除がありますので……」
今夜は一晩中働き続けなければ……下手に寝てしまえば間違いなくボッジに襲われてしまう……
「適当なところで俺の部屋に来い。かわいがってやるからな」
ボッジがニヤニヤと笑いながら僕を誘ってくるが聞こえないふりをして仕事に戻った。
牢の檻は地面や壁に深く埋め込まれているようだが大した強度ではない。やろうと思えば魔法で壁や地面に穴を掘り、その後埋め戻すことも可能だ。問題となるのは牢の中に一緒にいる女二人だが、私が脱走しても騒ぐとも思えないし気にすることはないだろう。
魔法で壁に私一人が通るくらいの穴をあけ牢から脱出し、穴を再び魔法で埋め戻す。
牢のある部屋を出て周囲を見渡すが人の気配はない。夜も遅い時間なので盗賊たちは皆寝てしまっているのだろう。
しかし、この洞穴かなりの広さでとても自然にできたものとは思えない。魔獣が巣として掘ったか、人が掘ったかのどちらかだろう。
洞穴を奥への進むと宝物庫を見つけた。金貨や銀貨をはじめ、宝石に美術品、よくぞこれだけ貯めこんだものだと感心するくらいの量の宝物が置かれている。
宝物の中にチェイス君の魔剣を見つけたのでしばらく借りることにした。持っているだけでどんどん魔力が吸い取られていくのを感じる。この魔剣を肌身はださず持っているチェイス君の魔力量はどのくらいあるのだろうか……
さらに奥へと進むと鉄の扉が付いた部屋を見つけた。恐らく頭領の部屋であろうが、あれはまともにやり合うと面倒くさそうなので後回しだ。まずは下っ端から情報を得ることにしよう。
通路を戻りながら盗賊を探していると、豪快ないびきが聞こえてきた。いびきのする穴をのぞいてみるとチェイス君の尻を追いかけていた盗賊が寝ているのを発見した。チェイス君がこの部屋にいないところを見ると、無事に貞操は守り切ったのだろう。
部屋に入り、部屋全体を魔障壁で覆った。完全ではないにしろ魔障壁で部屋を覆うことで防音対策になる。
男は地面のうえで毛布だけを掛けて寝ているが私が部屋に入っても男は起きる気配を見せない。ぐっすりと熟睡しているようだ。
土魔法で枷を作り男の手足を地面に拘束した。
「おい、起きろ」
男の顔を思いっきり蹴飛ばした。
「くそっ! 誰だ!?」
男は起きたようだが手足を拘束している枷のせいで起き上がることができずに地面のうえで足掻いている。部屋が暗くて私のことが良く見えないようだ。部屋の隅にあった灯りの魔道具を点灯させた。
「お前は……新入りの妹……どうやって牢を抜け出した!? 新入りが逃がしたのか!?」
「うるさいからとりあえず黙れ」
男の右手を持ち、肘の関節を反対方向にへし曲げた。骨の砕ける鈍い音がしたあと男が悲鳴を上げた。
「があっ!! くそっ! てめえ! こんなことをしてただで済むと思うなよ……すぐに仲間が……頭領も来るからな!」
「部屋全体を魔障壁で覆っている。外に音は聞こえないから安心しろ。それより、そうだな……まずは名前を教えろ」
男の顔を踏みながら命令する。
「誰がお前の言う通りにするか! 死ね!」
男は私に向けて唾を吐いたが、私までは届かなかった。
「その威勢がいつまで続くかな。とりあえずそのうるさい声が気に入らんな。何かしゃべる気になったら首を縦に振れ」
男の口に布を詰め込んだ。男はフガフガと何かを言っているが何を言っているかは分からない。
さて、何から始めるか……
まずは男の指を一つ一つ折っていく。まずは人差し指の一番上、次はその下、さらにその下の関節……続いて中指、薬指……全て折ったら次は手首の関節……
一つ折るごとに男は悲鳴のような声を上げるが、口に詰めた布のおかげでそこまでうるさくはない。
「まだまだ続くぞ。首を縦に振ればとりあえずは止めてやろう」
男はまだ首を縦に振らない。なかなか意思の強い男だ。まあ、大の大人がこんな幼女に従うなど屈辱以外にないであろうから仕方ないかもしれない。
手足の指を全部折っても男は首を縦に振らなかったため、拷問の方法を変えることにした。
右手に火球を作り、男の右ふくらはぎに押し当てる。男は今まで以上の悲鳴のような声を上げた。あたりに肉が焼ける臭いが広がる。
ふくらはぎを焼き、膝を焼き、脛を焼き、次はふくらはぎを焼こうかと男の左側に移動したところで、男は首を大きく縦に何度も降った。
「やっと話す気になったか。意外に持ちこたえたな」
男の口から布を取った。
「まだ幼いのに何て奴だ……なんでも話すからもう止めてくれ」
男は息を荒げながらも答える。
「ではまずお前の名前を教えろ。あと盗賊団についても知っていることを答えろ」
「俺はボッジだ。この盗賊団は聖都を出た商人や旅人を狙って略奪している。略奪は積荷が主だが、女がいれば女もさらう。男は邪魔だから基本的に殺してしまうがな」
「捕まえた女はどうするのだ?」
「女は頭領がどこかで売りさばいてくる。どこに売っているかは知らない。」
ボッジの左足に剣を突き刺す。ボッジは再び悲鳴を上げた。
「正直に話せよ。私が嘘だと判断すれば……どうなるかは分かるよな?」
「嘘なんて言わねえ! 本当に俺は知らないんだ!」
どうやら本当のことを言っているようだ。恐らくもう嘘を付く余裕もないだろう。
「じゃあ次の質問だ。聖都周辺は騎士団が盗賊狩りをしているはずだが、なぜお前らは捕まらない? 騎士団とつながっているのか?」
「頭領は貴族の息子だと聞いたことがある。もしかしたら何かつながりがあるのかもしれない。頭領はほとんど俺たちと話をしないからそれ以外のことは分からないんだ」
「貴族の息子がわざわざ盗賊団の頭領に……理由がよく分からんが何か理由があるのだろうな……」
「本当にこれ以上のことは知らないんだ。もう許してくれ!」
「そうだな。あとは頭領に聞いてみることにするよ」
ボッジは安堵の表情を見せたが私が剣を構えたことで再び表情を硬直させた。
ボッジが何か悲鳴のような声を上げたが構うことなく首を跳ね飛ばした。
夜明けの時間に近づいてきたため、ボッジの死体を片付け、牢へと戻った。
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