第142話 盗賊団を討伐したい僕
冒険者ギルドは人族領のほとんどの国に設置されている。ユグド教国にも当然設置はされてはいるものの、ユグド教国において冒険者の活動はあまり活発ではない。首都周辺に魔獣が少ないことも理由の一つだが、国内の魔獣や盗賊などは騎士団が討伐してしまうことも理由の一つだ。
ユグド教国は周辺国に比べて決して広くはないが、各国の教会から入ってくる収入で財政は潤っており、他国より多くの兵や騎士を配置できているのだ。
「盗賊団の討伐依頼は一件だけですね……しかもこの依頼書かなり古いですよ」
「教国の騎士団でも捕まえられない盗賊団ということだろうな。よほど強いか見つけるのが難しいのか、他の理由があるのか……よし! この盗賊団を狙うぞ! 適当な馬車を買って街道をうろついてみるか。あわよくば捕まってアジトまで連れていってもらうぞ」
怖いもの知らずのルアンナらしい発想であるが思い通りに盗賊が現れるのだろうか……念のため冒険者ギルドの受付に依頼の内容を確認した。この国の冒険者ギルド受付は男性のようだ……
「今日町を出て国に帰る予定なのですか、この辺りに盗賊はでませんよね? 一枚だけ盗賊討伐の依頼が出ているのが気になったのですが……」
「盗賊は騎士団が全部片づけてしまうからこの辺りにはでないぞ。依頼が出ている分は騎士団でも居場所がつかめなかった盗賊団だが、活発に活動しているわけでもないし大丈夫だ。兄妹二人での旅とは大変だな。地元にでも帰るのかい?」
「ええ、家族は兄妹二人しかいませんので。僕たちは商人をしていまして今から自由国家テイニーまで向かうところです」
「商人だったのか。その年で大変だな。何を売買しているんだ?」
ちょっと確認程度のつもりで話しかけたが、色々と気にかけてくれるおじさんだ。
「ユグド教国からはミスリルなどの金属材料を運んでドワールフ王国からは塩や金属製品を仕入れて販売しています」
「じゃあ、だいぶ儲かっているだろう! 冒険者の護衛はつけなくてもいいのか?」
色々聞きたがるとは思ったが、営業が目的なのか……
「僕たちの規模では護衛を付けると儲けが無くなってしまいますので……商隊を持てるようになったら依頼します」
「そうか、じゃあ期待して待っているぞ。そうだ、今の時期ドワールフ王国へ行くなら少し遠回りになるが北の大きな道ではなく、西から迂回して行った方がいい。聖都周辺に魔獣はいないが北の道をさらに進むと今の時期魔獣が出ることが多いんだ」
「ありがとうございます。西の道を通らせてもらいます」
あまり盗賊も多くないとのことなので僕は諦めたかったがルアンナがどうしても盗賊を狩ると言ってきかなかったため、冒険者ギルドを出て馬と馬車、積み荷の金属インゴットを購入して町を出た。
「後ろの馬車……気にならないか?」
冒険者ギルドの職員に言われた通り、西周りの道を通って北方に向かっているところだが、町をでたところからずっと僕たちの後ろを一台の馬車が付いてきている。
「バイコーン馬車ですね。商人の馬車ですかね? 操舵している男が顔を隠しているのが気になりますが……」
「そこも確かに気になるが、バイコーン馬車を使っているのにのんびりと進んでいるのが気になってな。護衛もついていないところを見るとそんなに高価なものを運んでいるわけでもなさそうだしな」
バイコーンは普通の馬の何十倍もの値段がするため、そのあたりの商人が簡単に買えるものではない。
「言われてみればおかしいですね。僕たちを抜こうと思えば簡単に抜けるはずですし……」
「これはうまく誘い出せたかもしれんな。奴らが動き出すまでこのまま進むか」
そのまま道を進み続けるが一時間たっても二時間たっても襲い掛かってくる気配はなかったので馬車を停め休憩することにした。後ろの馬車も僕たちの近くに馬車を停めたようだ。
馬車に乗っていたのは一人だけだと思っていたが、荷馬車のホロの中から三人の男が次々と降りて来る。馬車の操舵をしていた男の身なりは整っているが、荷台から降りてきた男たちはいかにも盗賊と言った風貌をしている。
「やはり盗賊のようだな。作戦通り捕まえてもらってアジトに案内してもらうぞ。ちゃんと演技しろよ」
ルアンナが小声でつぶやいた。
「ガキ二人で商人の真似事とは立派だな。抵抗しなければ命だけは助けてやるぞ」
荷台から出てきた男の一人がそう言って剣をこちらに向ける。
「ど、どうか命だけはお助けを……に、に、荷物は差し上げます! それで足りなければ……そうだ! 僕は奴隷として働きますし、い、妹はどこへなりとも売って貰っても構いません!」
地面にひざまづいて許しを請うようにお願いした。自分でもなかなかの演技だと思う。
(やりすぎのような気もするが……演技とはいえみじめだな)
(ちゃんと演技しないとルアンナに後で怒られるし、そっちの方が嫌だよ)
「はっ! どんな立派な兄貴かと思ったらとんだくず野郎だな。頭領、どうします?」
頭領と呼ばれる馬車を操舵していた男以外、僕をあざけるように大笑いしている。
「女は確かに売れそうだな……男も売れないこともないだろう。よし、二人とも連れていけ」
「頭領、男の方は俺に下さいよ。俺好みの顔だからかわいがってやりたいんだ」
盗賊の一人がにやけながらお願いしている。思わず身震いしてしまった……
「好きにしろ。女の方は売値が下がるから手を出すなよ」
僕とルアンナは剣を取り上げら、後ろ手で縛られてバイコーン馬車の後ろに放り込まれた。頭領がバイコーン馬車を操舵し、他の盗賊たちが僕たちの馬車に乗ってアジトに向かうようだ。
「うまくいったな。なかなかの演技だったぞ。妹を犠牲にしてまで助かろうなど、そんな下種な考えはなかなか思い浮かばないものだ。しかしこの荷馬車は臭いな」
ルアンナが小声で話しかけてくる。
「先生がやれって言ったんでしょ! それよりアジトに着いたらすぐ逃げますよ! もたもたしてたら僕のお尻の貞操が盗賊たちに奪われてしまいます」
「動くときは私が合図するからそれまで待っていろ。盗賊の頭領は何としても生け捕りにしたいからな」
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