第113話 後始末をする僕とジギスマンド

「な……どこに消えた……探査魔法にも反応しないぞ」


「僕の探査魔法にも反応しません」


「消える魔法なのか? そんな魔法聞いたことがないぞ……透明化しただけでは探査魔法には反応するはずだが……」


「常識外の魔法を使ったとしてもおかしくないやつですからね……最初から使っていなかったところを見ると何らかの制限がある魔法でしょうが……恐らく今から探すのは難しいでしょうね」


「そうだな……まだゴブリンどもの残党処理も必要だし戻るとするか」


 ゴブリンの残党は騎士たちがほとんど片づけていたためやることはほぼなかった。


「死体の処理は侯軍に依頼するか……せめて食える魔獣なら良かったんだがゴブリンはな……」


「せっかくだから少し持って帰って食べましょうよ。ゴブリンキングはあれだけ強かったんですから多分美味しいですよ」


「ゴブリンを食うのか? 止めはしないが……俺は食いたくないぞ……」


「ゴブリンキングの解体と運搬だけ手伝ってくださいよ。調理は僕がやりますから」


「……好きにしてくれ。俺は疲れたから戻って寝る」


 騎士たちは嫌そうな顔をしながらもゴブリンの解体と運搬を手伝ってくれ、荷車一杯のゴブリンキングの肉と骨をベースキャンプまで運び込んだ。


(じゃあ早速料理しようか。どんな料理がいいかな?)


(とりあえず骨から出汁を取ってラーメンを作るか。肉は……チャーシューとゴブリンカツでも作るか。ゴブリンキングは結構脂肪も蓄えていたし、油は大量に準備できそうだしな)


 調理も騎士たちに手伝ってもらいながら進めた。最初は嫌そうな顔をしていた騎士たちも料理が完成に近づくにつれ、その匂いに涎を垂らしているように見える。


「良い匂いがしてきたな。今日の飯はなんだ?」


「ラーメンと言う麺料理とカツという肉に衣を付けて油で揚げた料理ですよ。両方とも材料にゴブリンキングを使っていますけどね」


「本当にゴブリンを料理したのかよ……だが良い匂いはするしうまそうではあるな……」


 そう言いながらジギスマンドがラーメンに手を付けた。他の騎士たちも同じようにラーメンを食べ始める。一口食べ始めると皆止まらないようで一気にスープまで飲み干してしまった。ゴブリンカツもあっという間に無くなってしまった。


「どうです? 魔獣の旨みが溶け込んだスープはとってもおいしいでしょ?」


「ああ、予想外にうまかった。上に乗っていた肉も柔らかくて最高だし、このゴブリンカツも最高に酒に合うな! もっとないのか?」


「まだたくさんありますのでいくらでも食べてください。ゴブリン肉も悪いものではないでしょ?」


「ああ、侯軍が死体を処理する前に肉を取りに行くことにする。調理の方法を騎士団の料理係に教えておいてくれ」


 ジギスマンドも他の騎士たちもゴブリン料理にご満悦のようだ。かなりの分量を用意したと思ったがあっという間に食べつくされてしまった。






 片づけも終え、隅の方でゴブリンチャーシューをつまみに飲んでいるとジギスマンドが近づいてきた。


「依頼の達成書だ。エドモンドがよこした冒険者だからどんなやつかと思ったが正直助かったぞ」


「侯爵とは仲が悪いんでしたよね?」


「まあな。顔を合せれば殺し合いになるくらいには仲が悪いな。それよりもう国に帰ってしまうのか?」


「そうですね。援軍としての依頼は達成したので戻ろうと思います」


「そうか……それは残念だな。一つ聞きたいが、俺の後を継いで騎士団長になる気はないか?」


「全くないですね。昔は騎士団に入るのに憧れたこともありましたけど、今となってはそんな面倒くさいこと誰がするかって感じですね」


「確かにチェイスの言うとおりだ。お前になら後任を任せられると思ったんだがな」


「騎士団長を辞めて何かしたいことがあるんですか?」


「侯爵の首でも取りに行こうと思っている。さすがに今回の戦争ではいろいろと思うことがあってな。面倒だが俺が侯爵になってお前が騎士団長、悪くない話だろ?」


 侯爵の首を取るなど冗談だとしても口に出した時点で処刑されてもおかしくないようなことだ。それを口にするということは恐らく本気なのだろう。


「協力したいのはやまやまですけど、さすがに他の国の問題にまでは口は出せませんからね。もしジギスマンドさんが侯爵になったら僕の領地と交流しましょうよ。ユートピアからは金属や武器が輸出できますし、グレンヴィル領からはチーズを輸入したいですし、対ユグド教国の包囲網も構築したいですしね」


「そうだな。侯爵の首を取ったら手紙を出そう。首を取った後も仲間は必要だからな。他国とはいえ協力してくれるのはありがたい。そうと決まれば早速動くか。まずは邪魔な虫を排除しよう」


 ジギスマンドは立ち上がると手を出し二発魔法を放った。魔法が放たれた先からは何かが破裂するような音だけが聞こえた。


「虫って侯爵の隠密のことですか? 僕のことを監視していただけだと思っていましたけど」


 侯都リメルタを出た時から二人の隠密に付けられていたことは気が付いていたが……


「ああ、侯爵の命令でチェイスを監視していたんだろうな。チェイスの弱みの一つでも握るのが目的だったんだろう。エドモンドの考えそうなことだ。隠密が死んだことはすぐにエドモンドの耳に入るだろう。もう後には引けんからすぐに決めてしまうつもりだ。明日には騎士団を率いて侯都に戻る。すぐに候都を掌握して帝国との戦争にも終止符を打とう」


「なら僕は明日の朝一でエイジア王国を立ちましょう。変な噂が立つといけませんからね。健闘を祈ります」


「ああ。以来の達成報告は西のエセックス侯爵領でも出来る。そこで依頼達成を報告してすぐにエイジア王国を出ればいい。そうすれば俺との関与を疑われる可能性も低いだろう」






 侯爵領でのクーデターが成功したことと、帝国と休戦になったことが伝わったのは僕がユートピアに戻った後だった。

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