第67話 騎士団の演習に参加する僕

(食料は持ってこなくてよかったのにちょっと気合い入れすぎじゃないか? ほぼ徹夜の作業だったぞ……)


(仲良くなるには食べ物が一番だからね! この日のために魔獣肉に卵に果物に、気合を入れて集めたよ!)


(今日の弁当だけで金貨何枚になるか分からないな……リュックの中はほぼ弁当だろ? その荷物を持って何時間も歩くのは辛そうだな……)


(ちょっと重いけど大丈夫! 頑張って歩くよ!)


 ほぼ徹夜で作業したためか妙にテンションが高いのが自分でもわかる。シエルとクリス以外のクラスメイトと一緒に演習に出かけられるのがうれしくてたまらないためかもしれない。


 まだ集合時間前であるが、西門には既に多くの騎士と生徒が集まっていた。僕の班も既に集まっているようだ。騎士団は一班あたり五人の構成で班ごとに一台の馬車が割り当てられているようだ。もっとも荷車の大きさは小さく、馬車を引く馬は普通の馬である。


「おはようございます。遅くなりました。チェイスといいます。今日はよろしくお願いします」


「ああ、君が噂の……まあ、よろしく頼む」


 騎士団の班長らしき人が返事をくれた。どんな噂があるのか知らないが、あまり僕に対する印象はよくなさそうだ。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 クラスメイトのモニカとビリーはなぜか敬語で挨拶をしてきた。無視されないだけマシであるがどうしても距離感を感じてしまう。


「うちの班はそろったようだな。班長のワルターだ。今日は授業でなく実践だ。くれぐれも私たちの指示に従うように。命令違反については単位を上げられないだけでなく、最悪退学や罰則の可能性もあるからな。荷物があるなら荷馬車に乗せてもらってもかまわん。では出発する、質問等あれば歩きながら聞いてくれ」


 ワルター班長はなぜか僕の方を見て話している。言われたことはきちんと守る優等生のつもりなのだが……とにかく荷物を持ち歩かなくて済むのはありがたい。背中のリュックを馬車に詰め込んだ。


 西門を出た僕らは少し早歩きくらいの速度で草原を西に向かって進んでいく。魔獣の討伐は騎士団の実践演習も込めているとのことで、実際の戦争を想定して、班ごとに行動しているようだ。実際の戦争では五人編成の班ごとに動き、十班集まった小隊単位で命令を受けるのが通常の流れのようだ。


「今日の演習は首都オルレンスの西方十キロ圏内の魔獣の撲滅が目標だ。今年はエリック樹海から溢れてくる魔獣の数が例年より多いみたいだから気を引き締めていくぞ。あと分かっているとは思うがオーガには絶対手を出すなよ」


「オーガですか? エリック樹海にいる魔獣ですか?」


 僕の質問に対し、心底あきれたような顔でワルター班長は僕を見てくる。心なしかクラスメイトの二人もあきれ顔をしている気がする。


「学園ではそんなことも教え……るわけないか、一般常識の世界だからな。確かお前は他の国出身だったな。オーガは首都オルレンスの西方リューガ草原に住む魔獣だ。ちなみに今いるのがリューガ草原でさらに西方に進むとエリック樹海がある。オーガは魔獣だが高い知能と魔力、力を持っている種族でフレイス共和国とは互いに不可侵条約を結んでいる。オーガに手を出すとかなり面倒なことになるから特にチェイスは気をつけろ」


 なぜかワルター班長から鋭い目でにらまれる。


「誰彼かまわず手を出したりしませんよ。その……万が一オーガを間違って攻撃しちゃった場合どうなるんですか?」


「ほぼ間違いなく争いになり、下手をすれば戦争になる。オーガの絆はとても強く交戦的でもあるからな。昔はオーガと何度も争いを繰り返して国力を無駄に浪費したらしい。とにかく、我が国としても無駄に国力を浪費する余裕はないから慎重に行動するように」


「分かりました。ちなみになんで不可侵条約なのですか? 自治領とはまた違うのですかね?」


「エルフやホビットは人族だし自治領設置にそれほど反対する勢力は多くないが、オーガはいくら知能が高くても魔獣だからな。当時、自治領設置の話もあったようだが反対派が多く実現はしなかったようだ。もっとも誇り高いオーガが自治領の話を受入れるとも思わんがな。とにかく今も人族と魔獣の間には互いに分かり合えない大きな壁があるため、お互いになるべく干渉しないように暮らしているんだ」


(確か、体内に魔石を持ち人族と交配できるのが魔族、体内に魔石を持つが人族と交配できないのが魔獣、体内に魔石がなく人族と交配できないのが獣だったよね? )


(そうだったと思うぞ。知能の高さや能力は、種族は関係ないようだからな。以前会ったことのあるハイオークも魔獣だが言葉は喋れるし知能は高かったもんな)


 この大陸は魔の森が境界となり、人族領と魔族領が分かれている。もっとも、人族領には魔族も数は少ないながらも普通に生活しているし、魔族領にも人族はいる。大昔は人族と魔族の大戦もあったようだが、現在はお互いに付かず離れずのところで付き合っている。


 僕たちの班は北西の方角に進み途中に出てくる魔獣を討伐していく。道が舗装されておらず、めったに人が通らない草原のためか結構な頻度で魔獣が出現する。


 だいたいはEランク程度の魔獣でたまにDランクの魔獣が出る程度であるが、とにかく数が多いのだ。


 まだオルレアンを出発してから三時間程なのに既に二十匹程の魔獣を始末している。


 僕たちはただ付いて行くだけなので楽なものだが、騎士たちは少し苦しそうだ。騎士は四人で魔法騎士が一人であるが、魔法使いはそろそろ魔力切れを起こしそうな雰囲気がある。


(魔獣の数が普段より多いな。しかし、騎士たちのレベルはかなりのものだが魔法騎士のレベルは低いな。魔法騎士が百人束になってかかってきてもチェイス一人で勝てそうだ)


(魔法使いのレベルが低いのはどこの国でも一緒みたいだね。それより魔獣の数が多すぎるのが気になるね)


「普段からリューガ草原の魔獣の数は多いと思っていましたけど、今日は特段に多い気がするんですが、この時期は魔獣の数がこんなに増えるのですか?」


「秋から冬に入るまではエリック樹海から多くの魔獣がリューガ草原にあふれ出てくる。だが、今年は例年よりかなり数が多い、いや多すぎるな。エリック樹海で何か起こっているのかもしれん。安全を考えてそろそろ撤退しようと思うが……魔法騎士のクロックの魔力がほぼ無くなりかけている……申し訳ないが、帰り道の援護をお願いできないか? 活躍によってはいくらかの単位もやれると思うから頼んだ」


 もともと命令さえあればいくらでも戦闘に参加するつもりであったし、単位が貰えるのであれば悪い話ではない。


「命令さえいただければいくらでも協力しますのでいつでも言ってください。それよりそろそろ休憩を兼ねて食事にしませんか? 食事の間は僕が周囲の警戒もしておきますので」


「そうだな。まだ昼前だが、かなりの疲労感もある……少し休むか」


 周囲の警戒はオッ・サンに任せて準備してきた弁当を広げた。皆の目が輝いているのが分かる。


「とりあえず周囲に魔獣はいないようなので今のうちに食べましょう。沢山持ってきたので皆さんで食べられてください」


 班には僕たち学生三人を含めても八人しかいないが弁当は優に十人分以上はある。食べてくれと言った瞬間、皆、広げた弁当に群がった。

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