第47話 恋が実った僕

 冒険者ギルドを後にして再び教会の前に戻った。既にメルビルとシエルの用事は終わったようで門の前で待っている。ライスも既に到着しているようだ。


「皆揃いましたし参りましょうか。歩いて三十分程かかりますが、街中を案内させていただきますね」


 メルビルの家に着くまでの間街の中を案内してもらった。教会があるのが中央区で教会の他には貴族やお偉いさんの屋敷などが並んでいる地域とのことだ。


 中央区の南側が商業区で冒険者ギルドや商業者ギルド、他にも店舗や宿屋などがこの商業区に並んでいる。中央区の西側が工業区で鍛冶屋や工房、研究所などがある。


 今僕たちが向かっているのは東側にある居住区だ。北側と東側が主に居住区になっているとのことだが、北側の治安は東側に比べてあまり良くないので近寄らない方がいいとのことだ。


 メルビルの説明を聞いているうちにあっという間に東側の居住区に到着した。


「居住区と言っても結構お店も多いのですね」


「住宅が多いのは確かですが、生活用品や食料品を買うお店はありますからね。商業区や工業区にも住宅はそれなりにありますよ。さあ、着きましたよ。ここがわが家です」


 メルビルの家は周りの住居と変わらない普通の木造二階建の建物だ。実は高い身分なのではと思っていたがメルビルはごく平凡な一般市民のようだ。


 メルビルが玄関を開けるとシエルそっくりのとても美人な女性が出迎えてくれた。髪色も顔立ちもシエルそのものであるが、シエルとは違うのは腰まで伸びた長い髪と、その体つきくらいだろうか。


(メルビルにはもったいないくらいの美人だな。ケツも胸もでかいし色気が半端ないな……シエルも成長したらこうなるのか……)


「あなた、シエルおかえりなさい。はじめましてメルビルの妻、メリッサと申します。こちらがデモンから助けていただいた冒険者の方かしら?」


「ああ、ロック様にライス様、チェイス様だ」


「メルビルとシエルの命を救っていただきましてありがとうございました。手紙でデモンに襲われたことを知った時は心臓が止まりかけました……なんとお礼を申して良いか……」


 メリッサが頭を下げてお礼を述べてくれた。顔だけでなく立ち振る舞いにも気品を感じる美しさがある。


「メリッサ、ここではなんだから中に案内してくれ。私とシエルは着替えてくるからその間のお相手も頼む」


 メリッサに案内された。食堂は狭くもないが広くもないほどの大きさで既にテーブルの上にはいくつの料理が並べられていた。


「メルビルとシエルの着替えに少し時間がかかりますのでお酒でも飲みながらお待ち下さい。エールでよろしいですか?」


 メリッサがそれぞれのコップにエールを注いでくれた。


「こんな美人に酒を注がれるとはうれしいな! メルビルにはもったいないほどの奥さんだな!」


 美人にお酌してもらえるのがよっぽどうれしいのかロックは上機嫌だ。


「ありがとうございます。メルビルは地味に見えますけど、とてもまじめで優しいですし、良いところもあるんですよ」


 一杯目のエールを飲みきるころにメルビルとシエルがやってきた。二人とも旅着から客を迎える服に着替えたようだ。メルビルは堅苦しい司祭服のような格好で、シエルは青を基調としたドレスのようなものを着ている。メルビルはどうでもいいが、シエルは旅着のときの何倍もかわいく見える。


「お待たせしました。本当にこの度は命を救っていただきありがとうございました。お礼としては足りませんが食事とお酒を準備していますので今日はお楽しみ下さい」


 メリッサとシエルが再びコップにエールを注いでくれた。


「では、此度の旅が無事に終わったことと御三方へのお礼を込めて乾杯!」


 みんなで木のコップを合せて乾杯を行った。既にテーブルに並んでいた食事とは別にメリッサとシエルがどんどん食事を持って来てテーブルは料理でいっぱいになった。


「こんなにごちそうしてもらって悪いな! しかしこの黄色の食べ物はうまい! なんていう食べ物なんだ? 肉によく合うな!」


「これはジャガイモをゆでて潰したものですマッシュポテトと言います。じゃがいもは安いですし、ゆでたり焼いたりするだけで簡単に食べられるのでユールシアでは人気があるんですよ」


 (ジャガイモがあるのか! フライドポテトにコロッケに肉じゃがに夢が広がるな!)


 お酒の入ったコップを置くとメリッサかシエルがお酒を注いでくれるため、いつもより早いペースでお酒が進んでいる。皆だいぶ酔いも回ってきたようで話も盛り上がっている。


「チェイス君、メルビルとシエルを助けてくれてありがとう。シエルと変わらないくらいの年齢だから最初見た時はびっくりしちゃった」


「チェイス様一人でデモンを倒したからな。本当に将来が楽しみだ」


「メルビルさんもシエルさんもそろそろ様付けと敬語はやめてくださいよ。シエルさんと同い年なんですから」


「じゃあ私はチェイス君って呼ぶから、私のこともシエルって呼んで欲しいな」


 シエルも今日は飲んでいるようで少し頬が赤くなっている。


「それにしてもシエルはチェイス君のことがお気に入りのようね。チェイス君さえよければシエルと結婚してオルレアンで暮らしたら?」


 冗談だと分かっていても自分の顔が赤くなるのを感じる。シエルの頬もさらに赤くなったような気がする。


「うれしい話ですけど洗礼式前でも結婚できるのですか?」


「結婚は十五才にならないと無理だけど婚約は何才からでもできるわよ。じゃあ決定ね! 正式な婚約は洗礼式後でいいかしら? 男の子も欲しかったからチェイス君がシエルと結婚してくれるのはうれしいわ」


「おう! めでたいな! じゃあ二人の婚約を記念してもう一度乾杯といくか! 乾杯!!」


「「乾杯!」」


(乾杯!)


 僕とシエル以外のみんながカップを合わせて乾杯を行った。オッ・サンもしっかり乾杯と心の中で言っている。


 一気に話が進んでしまって平静を。シエルはうつむいたまま赤くなっているようだ。


「えっと……シエルさんと結婚ですか?」


「ええ、チェイス君はシエルのこと嫌いじゃないでしょ? シエルもチェイス君のことを好きみたいだからいいじゃない。ねえ、シエル?」


「はい……チェイス様……チェイス君さえよければ、よろしくお願いします」


 さっきまでとは違い消え入りそうな声で恥ずかしそうに返事をした。


(いやーめでたいな! チェイスも恋が実ってよかったじゃないか!)


(本当に決定なの!? 結婚ってこんなにあっさり決まっちゃうものなの!?)


(詳しくは俺も知らんが恐らく親の決定で結婚が決まってしまう世界なんだろう? まあ、政略結婚じゃなくて相思相愛で結婚できてよかったじゃないか!)


 よく分からないが……悪い話ではないどころか、僕にとってもうれしい話だ。


「こちらこそよろしくお願いします」


「よし! じゃあもう一度乾杯だ! 二人の未来を祝して乾杯!」


『乾杯』


 再びロックが音頭を取って、今度は僕とシエルも参加して乾杯を行った。

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