第45話 デモン討伐の褒美をもらう僕
デモンを討伐してから十日ほどで、フレイス共和国首都オルレアンまでたどり着いた。バイコーンの全力走行ではメルビルとシエルに負担がかかるため、かなりのんびりとした行程になったが、その分余裕を持って魔獣を狩ることが出きた。ジフ山脈下りの道ではそれなりに魔獣も出たおかげで食生活はかなり豊かになり、ライスもどうにか赤字は免れそうとのことだ。
「うわー大きな町ですね。検問の人数もすごいですね……入るの夕方になっちゃうんじゃないですか?」
「オルレアン市民は別門からすぐに入れるのですよ。皆さんも護衛ということで手続きしますので一緒に入りましょう」
幸いなことに待たずに町に入れるようだ。
(本当に大きな町だな。城壁がどこまで続いているかここからじゃ見えんぞ。エイジア王国に比べてユールシア連邦は田舎と思っていたがそんなことはなさそうだな)
(僕たちは田舎しか見ていないから一層そう感じるんだろうね。それよりあっちに並んでいるのはエルフで、あっちはホビットじゃない!? )
(それっぽいな! 予想通りエルフはスタイルも良くて美形だな! ホビットも美形だが合法ロリって感じで人族に比べると一回り以上小さいな)
(王国では全然見なかったから新鮮だよね。ドワーフはいないのかな? )
辺りを見回してもエルフやホビットはそれなりにいるがドワーフは一人も見当たらなかった。
「ドワーフはオルレアンの町にはいないのですか?」
「少しはいますけど数は少ないですよ。ドワーフの一族はほとんど商業国家テイニーにいますからね」
メルビルの話ではエルフとホビットは近くの自治区から交易のためによくやって来るが、ドワーフは少数が町の中で生産活動を行っているだけらしい。
そもそもドワーフは他の種族と比べても特に頭が良く、手先も器用で力も強い。数こそ人間に比べて少ないもののドワーフ一族の力は強大である。
はるか昔は各地で分散していたドワーフであるが、数百年年ほど前の戦争の際にドワーフの一族が決起し、領土を獲得し建国したのが商業国家テイニーとのことだ。ほとんどのドワーフは建国の際に商業国家テイニーに移住してしまったらしく、各国には少数のドワーフしか残っていないらしい。
検問では荷の確認を少しされただけで問題なく通過できた。検問を抜けると綺麗に敷き詰められたどこまでも続くような石畳の道とその両脇に並ぶ店舗の数々、最奥には日の光を浴びて青く輝く城のような建物が見える。
「オルレアンの町並みはいかがですか? 中央にあるのがイリス教の総本山、ピニッシモ教会です。申し訳ありませんが今回の旅の報告と一緒にデモンの出現と討伐の報告もしなければなりませんのでご同行頂いてもよろしいですか? 今回のお礼についても一緒に相談させていただきますので」
「あれだけすげえ教会を建てられるんだからお礼は期待できそうだな!」
「山盛りの金貨が期待できるんじゃないかぁ? もしかしたら店が持てるかもなぁ」
二人ともお礼と聞いてウキウキしているようだ。
(お礼か……この国の市民権……いや、貴族位を要求してみるのもいいかもな。ユールシア連邦の貴族になればルタもそう簡単には手出しできないだろうしな)
(貴族位なんてそう簡単にもらえるの? チャンスがあれば言うだけ言ってみるけど……貴族にはあんまりなりたくないかも)
(まあ、ダメ元で言ってみてもいいんじゃないのか? デモン討伐は結構な功績だしな)
お礼に胸を膨らませながら皆でピニッシモ教会に向かった。遠くから見るピニッシモ教会も雄大な神秘さを感じたが近くで見るピニッシモ教会もとても美しい。外壁のいたるところにステンドグラスが散りばめられ、ステンドグラスに反射した日光が庭の池や花々を照らす光景は神々しささえ感じる。
ロックとライスも顔に似合わず建物と庭の美しさに見惚れてしまっているようだ。
「では、そろそろ入りましょうか。この時間なら教皇様もいらっしゃると思いますので急ぎましょう」
「教皇様と会うのですか!? こんな服装で大丈夫でしょうか?」
「気さくな方なので大丈夫ですよ。身なりを整えるより早く報告をしたいのでそこは私からも説明いたします」
「一国の王と話すのはさすがの俺でも緊張するな! チェイス、ライス! 失礼がないようにするんだぞ!」
一番失礼なことをしでかしそうなのはロックだと思ったがそれは言わないでおいた。
「教皇様がこの国の王様なんですか?」
「正確にはこの国の代表者、評議員ですね。評議員は各国から二名ずつ選出されますが、フレイス共和国では現在、元王家のフェルナンド・フレイス様とイリス教皇が評議員として選ばれています」
「王も評議員も似たようなもんだ、気にするな!」
教皇との面談の調整に行くということでメルビルは僕たちを待合室に置いて行ってしまった。メルビルは自分のことを司教と言っていたが、教皇との面談ができることを考えると結構身分が高いのかもしれない。
「ところでイリス教はどういった宗教なのですか? 僕の国ではユグド教信者ばかりで、イリス教については初めて聞きまして……教皇様に会う前に少しくらいは知っておかなければと思いまして」
「イリス教は創造神キリントスを信仰しています。キリントスはこの大陸やこの大陸に住むすべての生き物を作った神と言われています。ただ、私たちはキリントスの声を聴くことはできませんので、預言者イリスがキリントスから神託された聖典をもとにキリントスへの信仰をしているのです。代々教皇様がイリスの名を引き継いで教えを伝えています。」
澄んだ柔らかい声でシエルが答えてくれた。さすが宗教家というべきか、イリス教について説明しているシエルの目はいつにも増して輝いているように見える。
「ユールシア連邦ではイリス教が一番信仰されているのですか?」
「一部ユグド教信者もいますが、ほとんどがイリス教信者ですね。エイジア王国やソビールト帝国ではほとんどがユグド教信者ですので今はそちらへの布教活動に力を入れているところです」
(ユグド教の信者がほとんどいないなら色々と行動もしやすいし、ユールシア連邦に潜伏していることがルタにばれても簡単に手出しはできんだろうな。いっそのことイリス教に改宗してしまうか? )
(僕は宗教へのこだわりはないからどうでもいいけど……そもそもユグド教に入信した覚えもないしね)
「イリス教への改宗は簡単にできるのですか?」
「まあ! チェイス様はイリス教への入信を希望されるのですか!? チェイス様はまだ洗礼式前ですのでユグド教の洗礼は受けていませんよね? フレイス王国では十二才になりましたら教会で洗礼式を行いますのでそのときに洗礼を受けていただけましたら入信ができます」
「十二才未満は入信できないのですか?」
「十二才未満の子どもは親の所有化にありますので入信はできません。どの宗教に入信するかは十二才の洗礼式の際にそれぞれが選ぶのです。これはユグド教でも一緒ですよ」
(だから十二才の儀式を洗礼式って言うんだな。意外だが宗教の自由は確保されているんだな)
シエルによるイリス教の話が終わったころにメルビルが戻ってきた。
「教皇様の都合がつきましたので行きましょうか。本当に気さくな方なので緊張しないでくださいね」
メルビルに案内されるままに謁見の間に向かった。謁見の間は青と白を基調にした作りで、豪華さはないものの、教会のような神聖な雰囲気が漂う空間に見える。部屋には年老いたおじいさんが一人いるだけだ。
「よく来てくれたのう。ワシが教皇のイリス三十四世じゃ。楽にしてよいぞ」
(この爺さんが教皇かよ……執事かお手伝いの爺さんかと思ったぞ……普通は謁見の間で待たされてその後に出てくるんじゃないのか……)
イリス教皇は肩まである白髪で白い肌に深いしわがいくつも刻まれている。おそらくかなりの高齢であることが予想されるが、身長は高く体つきはとてもたくましい。
「お忙しいところお時間いただきましてありがとうございます。至急の報告があり参りました。早速ですが報告させていただきます。フレイス共和国とエイジア王国を結ぶジフ山脈の交易路にデモンが現れました」
「デモンとな!? よく無事に戻ってこれたのう……しかし早急に討伐隊を派遣せねばいかんがどのくらいの被害が出るか考えたくもないのう……」
「既に討伐は完了しております。私たちも危ない状況でしたが、こちらの三人に助けられまして、無事討伐ができました。ロック様にライス様、チェイス様です。チェイス様、デモンの魔石を見せていただいてもよろしいですか?」
メルビルに紹介されたため三人で頭を下げ、腰袋からデモンの魔石を取出し、教皇に差し出した。
「これがデモンの魔石か……こんな大きな魔石は初めて見るぞ……デモンを討伐したというのも真のことのようじゃな……たった三人で討伐したというのか?」
教皇は驚愕の目でこちらを見ている。ロックは冒険者に見えるが、僕はただの子ども、ライスはひ弱な青年にしか見えないので仕方ないが……
「教皇様! デモンの討伐はチェイス一人でやりました! 俺は馬車から二人を運び出しただけですし、ライスは自分の馬車を守っていただけです!」
「この少年が一人でだと!? それはにわかには信じられぬが……」
「教皇様、私も見ていましたので間違いありません。何度も再生するデモンを大規模な魔法で何度も焼き尽くしたのを確かに確認しました」
「メルビル司教が言うからには事実なのじゃろうな……色々と聞きたいこともあるがまずは我が国を脅威から守ったことに対して褒美をやらんといかんのう。何か希望はあるかのう? それぞれ申してよいぞ」
ロックとライスの顔を見たが二人とも褒美の話が出たとたん目が輝いたように見えた。
二人とも希望を出し、ロックには金貨百枚を、ライスには商売のできる店と土地が与えられることになった。
「チェイス殿は何か希望はあるかのう? メルビル司教の話では一番の功労者とのことなので多少の願いは聞きうけるぞ」
「もし可能でしたらこの国の爵位をいただきたく存じます」
「爵位か……功績を考えれば騎士爵程度であれば全く問題がないが洗礼式前の子どもは貴族にはできんからのう……デモンを討伐できるほどの優秀な魔法使いであればこちらからお願いしたいくらいじゃが……」
「そうですか……では、当面の間はフレイス共和国で活動したいと思っていますので今回の褒美については保留させていただいてもよろしいですか?」
「わしが評議員の間であれば保留しておいても構わんぞ。次回の改選は三年後じゃが、わしが死ぬ方が早いかもしれんからそのときは諦めるんじゃぞ」
教皇は笑いながら答えたが、年齢的にいつ死んでもおかしくなさそうなので笑えない冗談だ。
デモン討伐の状況を説明し教皇との話は終わり謁見の間を後にした。
「本当に気さくな人だったな! 大臣とかが傍に仕えていると思ったがそんなこともなかったし、褒美は沢山くれたしな!」
「おらぁも特に何もしてないのに店まで貰って運が良かっただぁ。チェイスと会ってから馬車は手に入るは、店を経営できるようになるは、良いことづくめだよぉ。おらぁ早速店舗の開店準備に当たるから、チェイスたちとの旅はここまでだがぁ、何か困ったことがあったらぁいつでも相談してくれぇ」
「俺もしばらくはこっちで依頼を受けて活動するから何か面白い話があったら誘ってくれ! ライスも仕入れの護衛が必要ならいつでも相談にのるぞ!」
「是非お願いするだぁ。ただぁ今は仕入れのための資金がほとんどないからぁ、ある程度資金が溜まったら改めて相談するだよぉ」
「ああ、そういえばまだ今回倒した魔獣の素材を分けていませんでしたね。このまま商業ギルドに売りに行きましょうよ」
「そういえばそうだったなぁ。全部で金貨数枚にはなるだろうしぃ、早速売りに行くかぁ」
「私たちは旅の報告もありますので一旦失礼させていただきますね。よろしければ改めてお礼をしたいので、今晩わが家で食事でもいかがですか?」
「おう! 悪いな! よろしく頼むぞ! 終わったらここの前に来ればいいか!?」
「ええ、お待ちしています」
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