第12話 魔法の講義を受ける僕

 昼食の後はルアンナの座学となった。意外と言えば失礼だが、ルアンナの講義は理論的で非常に分かりやすいものだった。


「まず一番勘違いしているやつが多いから耐性について説明しておこう。早速だが問題だ。今、目の前に火を噴く熊、レッドグリズリーがいるとする。水魔法と土魔法を使えるとしたらどちらを使う?」


(火を噴く熊なら火属性か? 普通に考えれば水が弱点だから水魔法かな。火属性には土魔法も聞きそうな気もするが……)


(確かに火は水で消えるから水魔法な気がするね)


「水に弱そうなので水魔法を使います」


「多くの者はそう答えるが間違いだ。生物である以上、水に弱い魔獣もいるのは確かだが、今回のレッドグリズリーについては水を浴びることによって弱る魔獣ではない。では、解説に行く前にもう一つ問題を出そう」


「同じ魔力を使った場合、水魔法と土魔法はどちらの威力が高い?」


 これは簡単だ。同じ魔力を使った場合、土魔法の方が硬い岩を飛ばす分、威力が段違いに高い。


「土魔法の方が威力は高いです」


「今度は正解だ。そもそも水魔法と土魔法の違いなどほとんどない。水と土どちらを飛ばすかの違いだ。つまり最初の問題は水をかけただけで弱るような生き物でない限りは、土魔法で攻撃することが正解というわけだ。もちろん現実では水魔法の方が得意で威力が高い者もいるから、そんな単純ではないがな」


(そうなのか? 火を噴く熊なら火属性で水に弱そうなもんだがな)


「でも火を噴く熊なら火属性な気もしますけどね……」


「属性について触れている物語が多いから仕方ないが……それがよくある間違いだ。例えばドラゴンは火に対する強い耐性を持っているが、水属性を持っているわけではない。ドラゴンの鱗が熱を通しにくい性質なので火に強いだけだ。魔獣の皮膚や毛皮の性質で物理的な衝撃に強い、斬撃に強い、熱に強いといった違いはあるが、魔獣自体が属性を持っているわけではない」


(物語とは違うわけか……さすが俺の見込んだ女だ。勉強になる)


(お話の中ではよく属性って出てくるもんね。勇者ギルバードは光属性だし、魔神は闇属性だったよね。僕も属性ってのがあると思っていたけどそういうわけじゃないんだね)


「では、水魔法は覚える意味はないんですか?」


「覚える意味がないとは言わん。水と土では操作のコツが違うから、水中での戦いなどを想定するなら覚えておいて損はないだろう。ただ一般的な陸上での戦闘に限定すれば覚える意味は薄いな。まあ、世の中戦いだけではないからな。水魔法は空気中の水分を集めて水を作り出せるし、光魔法が使えれば松明などなくても暗がりを探索できる。まあ、使いどころってやつだ」


 確かにその通りだ。光魔法の威力は低く直接攻撃には使いづらいが、目くらましなどには使えるし、工夫次第でいくらでも活用はできるのだろう。


「属性といえば氷魔法や雷魔法などはないのですか?」


「氷魔法は、私は使えないが使える者はいる。私にはどうしても物を冷やすイメージができなくてな。一時期は覚えようと思って氷の張った海に潜ったりもしたが、習得はできなかった。呪文書も見たことがないから門外不出の魔法なのかもしれない。雷魔法というのは聞いたこともないな。雷であれば光魔法と火魔法で再現はできそうだがあまり意味はないと思うぞ?」


 氷魔法事態はあるのか。オッ・サン曰く、物を冷やすには分子の動きを小さくすればいいから使えそうなきがする。今度実験してみよう。


(雷魔法、電気魔法はないのか。電気自体この世界では発見されていないかもしれないからな。そのあたりの実験は今度まとめてやってみるぞ)


「あと何か質問があれば聞くが、無ければ昼寝の時間にしようと思う。魔力回復のためにも寝ることは大事だからな。」


 そういえば魔力量についても疑問があった。


「先生、昼寝の前に質問が……魔力量を増やすにはどうすればいいのですか?」


 限界まで使いこめば魔力は増えるということは分かっているが、どの程度まで増やすことができるのかがよく分からない。


「基本は筋肉と一緒だ。毎日限界まで使い込めば増える。もっとも細胞が成長しきる二十才くらいまでしか魔力限界量は増えない。私の年になるととっくに限界を向かえているから必要ないが、若いうちは毎日魔力が空になるまで使い切ることをおすすめするよ」


 知りたいことを的確に答えてくれるし、意外に頼りなる人だ。そういえばこの人は何才なのだろうか。ウィリアムの師匠であればかなりの年齢の気もするが……あどけない子どものふりをして聞いてみることにした。


「そういえば先生は何歳なのですか?」


「アル君、女性に年を聞くものではないよ。まあ、支障はないから教えるが、今年で八十三才だったと思う」


 びっくりしてルアンナの方を見ていると続けて答えてくれた。


「人間だったらもうおばあちゃんの年だが、私は魔族だからな。種族の寿命は平均で三百才程度だからまだまだ若いほうだ」


(魔族とかいるのか……もしかしたら魔王とかもいるのか? なんてファンタジーな世界だ)


その後、魔族についての説明があったが、要約すると魔族というのは体内に魔石を持つ人間の総称らしい。種族によっては角があったり尻尾があったりするらしく、人間に近い種族から魔獣に近い種族まで様々な種族がいるとのことだ。


「もしかしたらエルフなどもいるんですか?」


 魔族がいるならエルフもいるかもしれない。ドワーフなどにはあまり興味はないがエルフがいるのならば是非見てみたい。


「エルフは人族だな。エイジア王国ではほとんど見ることはないが他国には結構いるぞ。ちなみに人族は人間族、エルフ族、ドワーフ族、ホビット族の四種がいる。魔族は多すぎてよく分からんがかなりの種族がいる」


(思っていたより様々な種族がいるな。定番の猫耳やウサギ耳の獣人や人魚などもいるのかもしれんし、なんて夢のある世界だ)


 その後もくだらない質問をいくつも続けた結果、ルアンナは疲れたみたいで、「もう寝る」と言って僕のベッドに入り込んだ。


 ちなみに庭木を二本燃やしたことは、すぐにクロエにばれたようで、クロエが憤怒の表情でルアンナを叱っていたが、ルアンナはどこ吹く風というか、全く聞いていなかった。

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