第10話 家庭教師ルアンナ・ドラゴニア
ウィリアムが帰ってからしばらくたったとき、それはやってきた。
夕食を食べ終わりお茶を飲んでいると玄関の鐘がなる音が鳴る音が聞こえ、しばらくした後に一人の女性が入ってきたのだ。
リリーが必死で部屋に入るのを止めているが全く聞くそぶりを見せない。突然の来客者に皆身構え、モーリスは剣に手をかけた。
女性は二十代後半ぐらいの年齢だろうか、身体つきの大きいモーリスと変わらないぐらいの長身に、褐色の健康的な肌、我が家の女性陣にはない豊満な肉体、燃えるような赤髪の美人な女性だ。
「ウィリアムから紹介のあったルアンナ・ドラゴニアだ。魔法を教えろと依頼があったから来た。お前がアルヴィンか?」
(Gカップはあるな。ケツはでかいが引き締まっているし……素晴らしい身体だ。あの気の強そうな顔つきもたまらねえ! 思いっきり踏まれてみてえ! いや、先生なら放課後の居残りプレーもいいな……)
(オッ・サンの趣味はどうでもいいよ! それより僕のことばれているし! 近づいてくるし!)
部屋に入れまいと立ちふさがるリリーを振り切り、ルアンナは僕に向かって歩み寄ってくる。
「確かにウィリアムに依頼はしましたが、まだ来られるという連絡は受けていません、申し訳ありませんが今日はお引き取り下さい」
モーリスは腰の剣に手をかけたまま僕の前にかばうように立ちふさがる。ウィリアムの紹介だとは言っているが、連絡もなしに日が暮れてから貴族の家を訪れるのはかなり無礼なことであり、切り捨てられても文句は言えない。
「これがウィリアムから来た手紙だ。連絡するのが面倒で直接来たが許せ」
ルアンナからリリーが手紙を受け取りモーリスに渡すと、モーリスは警戒しながらも手紙に目を通す。
「確かにウィリアムの手紙のようですが……分かりました、応接室にどうぞ。リリー案内を頼む」
モーリスは諦めたようにルアンナを応接室に通すことに決めたようだ。事前にウィリアムからルアンナの性格を聞いていたのかもしれない。
「アルヴィンの話も聞きたいから一緒に連れてきてくれ。あと茶はいらないから酒を頼む」
初対面とは思えないほど図々しい人だ。クロエがキーキー声で文句を言っているが今日ばかりはクロエに味方してしまう。モーリスはリリーに酒を持っていくように指示をすると着替えのために席を外した。
モーリスが来客用の服装に着替えるのを待ち二人で応接室に向かった。応接室のドアを開けると、ルアンナは酒盛りを始めている。酒瓶は既に半分近く減っているがルアンナは全く酔った様子はない。モーリス秘蔵の蒸留酒でかなり度数も高いと思うのだが……
「酒まで準備してもらって悪いな。改めてだが、ルアンナ・ドラゴニアだ。よろしく頼む」
ルアンナは一応立ち上がり挨拶をした。
「こちらこそ、大したおもてなしもお迎えもできずに申し訳ありません。イースフィル領主の準男爵モーリス・イースフィルです。こちらが長男のアルヴィンです」
「アルヴィン・イースフィルです。よろしくお願いします」
モーリスの挨拶には事前に連絡がなかったことに対する嫌味が込められているような気がするがルアンナは全く気付いている様子はない。
「ああ、よろしく頼む。私もそんなに時間があるわけではない。教えられる時間は一年間だけだ。アルヴィン……呼びにくいからアル君と呼ぶぞ。アル君の魔法を見てみたいが、まあ明日の朝でいいか。準男爵には悪いが泊まる場所と飯だけは頼む」
「分かりました。部屋はアルヴィンの隣の部屋をメイドのリリーに準備させています。食事は申し訳ありませんが私たちと同じものになりますがそれでよろしければ大丈夫です。ところで給金の方はどういたしましょう」
「金には困っていないから給金は必要ないが……まあ、アル君の出世払いということにしておこう」
ルアンナがにやりと笑った気がした……
「それで良いのですか? 分かりました。出世払いの件につきましてはアルヴィンと相談されてください」
「ああ、それでお願いしよう」
モーリスの了解を取ったことで再びルアンナがにやりと笑ったような気がした。モーリスとしては給金を払わなくて済むのは助かるのだろう、ほっとした表情をしている。
「ところで、アル君は剣も使うのかい? 腰の剣はなかなかの業物に見えるが……少し見せてもらってもいいかい?」
(オッ・サン! 見せても大丈夫なの!? 剣を握ったらオッ・サンが見えてばれたりしない!? )
(別にばれても問題はないと思うが……その剣が魔剣だということは俺にも分かるが何か特別な効果があるわけでもないし見ただけじゃばれないと思うぞ? 俺のことが見えるようになるかどうかはわからんが)
(まあ確かに剣を振っていてもニックスの剣との違いは分からないしね。なら問題ないか)
「毎日訓練はしていますが剣はどうも合わないみたいで……見るだけでしたらどうぞ」
剣を渡すとルアンナは食い入るように剣を見始めた。
「ほう……魔剣とは珍しいな。だが、効果が分からん。魔剣なら魔力を送り込めば何か起こると思ったのだがな……」
「その剣はアリス……亡くなったアルの母親が残したものです。まさか魔剣とは……」
モーリスは少し嬉しそうにしている。しかし、まさか僕の母、アリスが残した剣だったとは……
(アルの母親も息子のためを思って剣を残したとは思うが……まさか息子に全く剣の才能がないとは思いもしなかっただろうな)
(オッ・サンうるさいよ!)
「持っているだけで魔力を吸っていくからな、間違いなく魔剣だよ。アル君はこの魔剣の効果は分かるかい?」
変なオッ・サンが憑いているとはとてもじゃないけど言えない……しかしルアンナにオッ・サンの姿は見えていないようだし、剣を触ったからといって見えるようになるわけでもないらしい。
「魔力を吸われるのは感じていましたけどそれ以外は普通の剣だと思っていました。剣の訓練をしても何も起こりませんでしたし、ただ魔力を吸うだけの剣なのではないですか?」
「魔力を吸えば何らかの形で影響が出ると思うのだがな……まあいい、魔剣は貴重なものだ。母親の形見のようだし大事にするんだな」
「貴重なものですか……ちなみに魔剣に身体を乗っ取られたり操られたりということはないのですか」
(こら! 俺がそんなことするわけないだろ! なんて恩知らずなやつだ!)
(オッ・サンが完全に乗っ取るとは思わないけど、女の人を自由に触りたくなったり、お酒を飲みたくなって我慢できなくなったときにやりかねないなと思って)
(……それは否定できないな)
「そんな話は聞いたことがないから安心しろ。人を操ったり乗っ取ったりするためには膨大な魔力と制御が必要だと言われている。いくら魔剣とはいえとても実現不可能だよ」
(とっても難しいんだって、残念だったね。オッ・サン)
オッ・サンは本当に残念そうな顔をしている。やっぱりこのオッ・サンは油断ならない。素直で分かりやすいから問題はないが。
「今日は遅いから訓練は明日からにしよう。なにか気になることがあればその時に聞けばいい。明日はアル君の魔法も見せて貰うぞ」
そこで僕は部屋に戻らされたが、モーリスはルアンナの酒にしばらく付き合わされたそうだ。
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