『君に胸キュン:まりあ†ほりっく ED』 我々は三年を待たずに引退しますわ
新学期が始まった。
といっても、はやせたちはなにも変わらない。
とくにリンと、濃密な関係になったわけでもなかった。
恋人同士らしいことをしたと言えば、正月に二人でお参りへ行ったくらいか。
赤に金の晴れ着を身にまとったリンが、やけに眩しかったのを覚えている。
授業を終えて、リンを連れて部室へ急ぐ。
「おはようございます」
部活内では、唱子先輩が先に入室していた。やたら分厚い参考書を手に持っている。
「おはよう」
優歌先輩も、同じような参考書を開く。
「はやせさん、リンとのクリスマスはお邪魔いたしました」
「いえいえ。こちらこそありがとうございます」
リンも「ありがとー」と、お礼を言う。
「さっそくですがリン、それにはやせさん、我々は三年を待たずに部を引退しますわ」
「どうしてまた?」
「芸術大学へ通いますので」
それは、初耳だ。
「父の事業を、継ぐことにしましたの」
卒業後は、海外で父親の仕事を手伝うという。
だが、音楽の勉強はしたいから、芸術大学へ入るそうだ。
「わたしは、唱子さんの秘書になるんだ」
優歌先輩は、普通の大学へ行くという。
つまり、唱子先輩とは違う大学を目指す。
「大学こそ離れ離れですが、同じところから通う予定ですわ」
「ワタシの家から」
二人は、リンの家からそれぞれの大学へ通うという。
「唱子先輩が目指している大学って、たしか坂本龍一の母校でしょ?」
「ええ。『君に胸キュン』ですわ!」
偏差値はそれなりで、クリアできているそうだ。
しかし、入試問題が特殊なんだとか。
「対策を立てづらいのですわ……」
だから、勉強に専念したいと。
「よって、来季からこの部室は二人の愛の巣になりますわ」
「だからって、変なことはしないようにね。すぐに部室が取り上げられるから」
二人は言うが、心配は無用だ。部活以外で使うつもりはない。
「もう二人と、会えないの?」
リンが、寂しそうな顔をして優歌先輩にしがみつく。
「大丈夫だよ。部活には来ないけれど、学校には来るからね」
「よかった」
少しだけ、リンは安心したようだ。
「それと、購入不可の貴重なアイテム以外は、部室に置いていきますわ」
書い直せる分は、自腹で買うという。
「そんな。そこまでしてもらうわけには」
「将来有望な若者への、餞別ですわ!」
有望なのは、二人の方なのだが。
「というわけで、我々は近々、正式に部を引退しますわ」
「いつごろです?」
「バレンタインまでは、いさせてくださいな。それまで、部室の片付け等はしますので」
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