恋愛イミテーション

第一話

「早坂先生のクラスの女子って仲が良さそうに見えるんですが、山口だけ一人浮いているような感じがしませんか?」

「寺田先生もそう感じてるんですね。私もそう思って何度か山口さんに聞いてみたことがあったんですけど、本人はいじめられているとか仲間外れにされているって事ではなくて他の生徒さんたちと考え方が違うだけだって言ってるんですよ。仲間外れにされているんじゃなくて、山口さんは自分の意思でクラスの輪から離れようとしているみたいなんですよね」

「体育祭の時も文化祭の時も修学旅行の時も山口は誰かと一緒にいるってことは無かったと思うんですが、私が見かけた時はいつも近くに奥谷がいたと思うんですがね。彼って女子にモテそうな男子じゃないですか。それで、私は他の女子が山口と奥谷の仲の良さに嫉妬して意地悪をしているのかと思ってたこともあるんですがね、山口は奥谷に対して何の恋愛感情も持っていないみたいなんですよ。これは私の長年の教師生活の勘ってやつなんですが、誰が誰を好きかなんて大体予想がつくようになったんですよ。視線とか行動とかちょっとした言葉遣いなんかで察するんですが、奥谷って山口の事を好きだと思うんですよ。ただ、彼の友人たちはそれに気付いていなんじゃないかなって思うんですが、早坂先生はどう思いますか?」

「それはどうなんでしょうね。奥谷君と山口さんは物心つく前からの付き合いって言ってましたし、本当の姉弟みたいな関係だと思うんですよ。山口さんは奥谷君に対して特別な感情は持ってないと思うんですけど、クラスの大半の女子は奥谷君に好意を抱いていると思っていますよ。ちょっと前から流行り出した恋愛アプリでもクラスの女子は奥谷君の事を登録しているみたいなんですからね。でも、肝心の奥谷君は誰を登録しているのかわからないって河野さんとか西森さんが私に教えてくれましたからね」

「早坂先生のクラスの女子はああいうのが好きそうですもんね。私のクラスはあんまりそういったものに関心が無いというか、みんな最後の大会に向けて頑張っている最中ですからね。ですが、部活を引退したら一気に流行しそうな感じはしていますよ。これは教師の勘ってやつですがね」

「私は使ってないんでわからないですけど、写真とかは載せられないようになっているらしいのであまり変な使い方はされないと思うんですが、変な事件とかに巻き込まれなければいいなと思いますよね」

「全くですね。そう言えば、西森が山口に暴力を振るった件は無事に解決したんですか?」

「ええ、被害者の山口さんが西森さんを庇ってくれたおかげで大ごとにはならずに済んだんですよ。どんな理由であれ暴力はよくない事なので反省してもらう必要はあったのですが、周りの生徒たちも思うところがあったみたいで、西森さんのボランティアを率先して手伝ってくれていましたね。そんな事があってクラスの結束は強くなったように思えるのですが、山口さんは以前よりも孤立しているように見えるんですよ」

「正直に言いますが、山口は以前から西森たちとあまり良い関係ではなかったと思うんですよ。体育の授業の時も対立することは多かったのですが、意外と言い返していることも多かったのでそこだけを見ているといじめているのがどっちかわからないような感じでしたね。ただ、あまりにも度が過ぎた場合はちゃんと止めてましたよ」

「そうなんですよね。山口さんって私が学生の時に見ていたいじめられっ子とも違う感じですし、本人もいじめられているとは感じていないのかもしれないんですよね。それどころか、自分から孤立するようなことをしているようにしか見えないんですよね。それって何の意味があるんでしょうね?」

「さあ、あの年代特有の自分は周りとは違うという思いがあるんじゃないでしょうかね。早坂先生もそんな風に考えていた時期はあったんじゃないですか?」

「どうでしょうね。私は何かに熱中するといったこともあまりなかったですし、恋愛とかにもあまり興味が無かったと思いますからね。寺田先生はずっと陸上をやっていたんですよね。それって、走るのが好きだったからなんですか?」

「そうですね。私は小さいところから野山を駆け巡るような子供でしたからね。気が付いたら人よりも走るのが好きになっていたのかもしれませんね。ところで、早坂先生は今日の夜は何か予定があったりしますか?」

「夜ですか?」

「ええ、この前料理がおいしい居酒屋を見付けたのでご一緒にどうかなと思いまして」

「料理がおいしい居酒屋っていいですね。最近は外食もしてないので興味はあるんですが、今日は私が料理当番だったでまたの機会に誘ってくださいね」

「そうでしたか、では他の日に行ってみましょう」

「楽しみにしてますね。他の先生たちの予定も聞いておかないといけないですね」

「ああ、そうですね」

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