第四話

 私が西森と揉めたのは偶然だったんだけど、一番心配してくれたのはクラスメイトの河野だった。河野は西森と同じようなギャルメイクをしているんだけど、中身は私と趣味が合う女の子だ。同じ漫画の同じキャラクターが好きな事がわかってから仲良くなったんだけど、たまたまやっていたゲームも同じだったので一緒にやっているうちにより仲良くなっていったのだけれど、河野がゲーム内では完全にお姫様のロールプレイをしているところが面白かった。私もゲーム内では王子様のロールプレイをしていたのだから都合が良かったのだけれど、私が何となく作ったキャラクターが奥谷に似ていると言われた時は少しだけ悲しい気持ちになったのだった。私にはそんなつもりはなかったのだけれど、身近にいたモテそうな男子が奥谷だったのが理由なんだけど、河野は私が奥谷の事を好きだと思っていたのは少しウザかったな。


 河野とは毎日のように一緒にゲームをやっていたわけなんだけど、しばらく経つとやることもほとんどなくなって自然と雑談をすることが増えていった。他にも何人かフレンドはいたけれど、私は河野と話す機会が一番多かったし楽しかった。

 それでも、定期的にやってくるイベント戦は二人だけで戦うのは無理だったし、気が付いた時にはそれなりの人数のギルドに所属するようになっていた。そうなってくると二人だけで何かをするわけにもいかずになり、必然的にゲーム内での交流も以前とは薄くなってしまったのだった。私はそれが少し寂しかったけど、河野に出会うまではずっと一人だったのでそこまで悲しい気持ちというのは無いはずなのだけど、本音を言えばもっと二人で楽しく過ごしていたかった。それは河野も同じ気持ちだったらしく、いつだったか忘れたけどお互いのLINEを交換したのだった。LINEを交換してからは通話をする機会が増えて前よりもお互いの距離が近付いた。

 先に断っておくが、私も河野も女子よりも男子が好きだ。レズとか百合とかではなく男子が好きなのだけれど、私が王子様で河野がお姫様という事もあり、二人はゲーム内で結婚したのだが、その少し前に河野から現実世界でも告白されていたのだ。

 と言っても、直接会うのは学校だけだしわざわざ二人でどこかへ行くことも無く、精神的な繋がりを求められてのものだったので、私はそれを断らずに受け入れることにした。学校では接触の全くない二人が毎晩のように通話をするようになったのだが、お互いに学校の話はほとんどすることも無く好きなアニメを同時視聴したり普通に会話をしたりして過ごす日々が続いていた。


 旅行などで通話ができないときもLINEでのやり取りは行っていたし、ゲーム内ギルドでのやり取りも多少はあったので通話が出来なくても寂しくは無かったのだが、いつの間にか河野の声が聞けない時間は私にとって辛い時間になっていた。

 ある時、ギルドに新しくやってきた女の子がいたのだけれど、その子は私と河野がプライベートでも知り合いだという事を知って、とあるアプリの事を教えてくれたのだ。それが最近クラスで流行している恋愛アプリだったのだが、私と河野は最初は全く乗り気ではなかったはずなのに、ギルド内でもそれを使ってポイントを貯めてアイテムを購入している人が出てきたことで一気に興味がわき、私と河野はお互いを登録して何度も何度もやり取りを重ねて、次の週には目的のアイテムをお互いに手に入れていたと思う。LINE代わりに恋愛アプリを使うだけで課金アイテムが買えるくらいポイントが貯まるというのはどうも胡散臭かったのだが、特にデメリットも無さそうだしメッセージと通話以外は占いコーナーがあるくらいなので何も悪い事は出来なさそうだった。

 この頃になると、私達は通話の回数も時間も増えていたのだけれど、課金アイテムが欲しいというよりも、お互いに依存しているといった方が正しく思えた。ただ、それでも実際に学校で会うときはお互いに挨拶程度で会話も無いのだけれど、それはそれで面白かったし、周りの人達に何もバレていないというのはそれだけで面白く感じていた。


 私のパソコンの調子が悪くなって修理に出したことがあったのだけれど、しばらくゲームが出来ないのかと思って落ち込んでいたら、河野が予備のパソコンがあるので家に来て一緒に遊ぼうと誘ってくれた。私は人に家に行くのが苦手だったので最初は断っていたのだけれど、家族がみんな親戚の家に行くので河野は一人で残っていて寂しいからと言われて、私は重い腰を上げることにしたのだった。

 どうして一人だけ残ったのか聞いてみたところ、河野はテストで赤点を取ったので補習を受けないといけなかったのだが、その補習期間が親戚の集まりと重なってしまったという事だった。私は人の家に行くのが苦手な理由が他人の家族との触れ合いが嫌いだったためなので問題は無かったのだけれど、赤点を取って補習を受ける立場なのにゲームをして遊んでいていいのかと心配になってしまった。


「山口さんってさ、ウチと同じくらいゲームもアニメもやってるのに何でそんなに頭が良いの?」

「なんでって言われてもさ、学校で真面目に授業を受けてるからじゃないかな」

「ええ、それってウチが真面目に受けてないみたいじゃん。実際そうなんだけどさ、学校で真面目にやるだけでそんなに頭良くなるわけ?」

「どうなんだろ。昔から物事を理解するのが早かったとは思うんだけど、学校では勉強以外はやることも無かったし、ずっと教科書見てたからかな」

「山口さんもウチラに混ざって遊べたらいいんだけどね。でも、そういうのって山口さんの柄じゃないもんね。ゲームやってるときとかアニメ見てる時の山口さんっていいキャラなんだけど、服とかメイクとかそういうのってあんまり興味無いもんね」

「そうだね。それと、あんまり恋愛話に興味が無いかも。現実の男の子に触れたいって欲求はあんまり無いんだよね」

「わかる。ウチもそうなんだよ。てかさ、山口さんってウチの事名前で呼んでくれないけど、ウチの名前知ってる?」

「知ってるよ。河野さんでしょ」

「そうじゃなくて、ウチの名前だよ。名前」

「河野さんの名前は、梓だよね?」

「そうそう、今から二人でいる時は名前で呼んで欲しいな。その代わり、ウチも愛莉って呼んでいいかな?」

「別にいいけど、急にどうしたの?」

「何でもないよ。そうだ、晩御飯作るんだけど、愛莉はハンバーグとか好きかな?」

「うん、ハンバーグは好きだよ。何か手伝おうか?」

「大丈夫。下拵えは先に済ませてあるからね。そうだ、少し時間がかかるから先にお風呂に入ってきていいよ。ウチはその間にご飯の準備をしておくからね」

「先にお風呂をいただくなんて申し訳ないよ。それに、手伝いだってするからさ」

「良いの良いの。あ、もしかして、ウチと一緒にお風呂に入りたかったりするのかな?」

「いやいや、そんなことは無いって」


 私は半ば強引にお風呂に入らされたのだが、他人の家のお風呂はなぜか落ち着かなかったのを覚えている。

 お風呂上りに髪を乾かしていると、突然入ってきた河野が私に乳液や美容液を塗ってくれたのだった。いつもは乾かすだけの髪にもクリームを塗ってくれていたのだけれど、自分でも驚くくらいしっとりと纏まっていたのだった。


「あ、ごめん。梓もお風呂どうぞ」

「私は大丈夫だよ。愛莉が来る少し前にお風呂に入ってたからね。ちゃんと綺麗にしてお出迎えしたんだよ」

「それを言うなら、私も来る前にお風呂に入ってきたんだけどね」

「やっぱりそうだったんだね。でも、お風呂に入ってくれてありがとうね」

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