第二話

「山口ってさ、奥谷の事って好きなの?」

「何の冗談かわからないけど、私が奥谷を好きだってどうしてそう思ったのかな。そういうのって迷惑なんだけど」

「迷惑とかじゃなくて、奥谷の事が好きなのか答えろって言ってるんだよ」

「奥谷って昔から知ってるせいなのか、弟しか見てないんだよね。いや、どっちかって言うと人懐っこいペットみたいな感じかも。ペットとして見たら好きかもしれないけど、奥谷はペットじゃないから好きじゃないってことだと思うよ。この答えで満足かな」

「お前はふざけてんのか。それとも私をなめてるってことなのか。どっちでもいいんだけどさ、その態度は良くないと思うんだけど、私になんか文句でもあるっていうの?」

「そりゃ文句の一つや二つくらいあるでしょ。いきなり奥谷のこと好きなのかって聞いてくるとか意味わかんないし、答えたら答えたで逆切れされるし。あ、もしかして西森って奥谷のこと好きなの?」

「は、私がなんで奥谷の事を好きにならなきゃいけないんだよ。奥谷の事が好きなのは歩と茜だよ」

「へえ、渡辺と吉井は奥谷の事が好きなんだ。それならいい事を教えてあげるよ。奥谷って眼鏡をかけてる女の子が好きらしいよ。あ、二人は眼鏡かけてないから関係なかったかな」

「お前、いい加減しろよ。あんまり調子に乗っていると痛い目を見るぞ」

「ちょっと、みんな見てるからやめなよ。亜紀が私達のために山口に聞いてくれているのはわかるんだけどさ、もうすぐ授業も始まっちゃうしそれくらいにしとこうよ」

「そうだよ。亜紀はちょっと熱くなりすぎだよ。早坂先生ももうすぐ来ると思うし席に戻ろうよ。私も歩もそんなに気にしてないから大丈夫だって」

「授業終わったら面かせよ。逃げんなよ」

「なんで私がお前らに付き合わなきゃいけないんだよ。用があるんなら放課後じゃなくて学校が始まる前の朝の方がいいんだけど」

「何勝手なこと言ってんだよ。こういうのって放課後にやるって決まってるだろ。いいから授業終わったらすぐそこにある公園で待ってろよ」

「放課後は用事があるから無理だって言ってるだろ。お前は少し相手の事を思いやった方がいいぞ。渡辺も吉井もお前のそういう暴走するところに困ってるみたいだけど、自分ではそういうの感じないわけ?」

「は、何言ってんだよ。そんなわけないだろ。な?」

「私らの事はもういいからさ、チャイムなったし席に戻らないとダメだって」

「そうだよ。山口の事なんていいからさ。問題起こしたら大変なことになっちゃうし落ち着こうよ」

「ああ、そうだな。放課後に近所の公園で待ってるから逃げんなよ」

「だから、放課後は用事があるって言ってるだろ。お前は人の話を理解する能力が無いのかよ。そんなんだから国語の簡単なテストでも赤点とっちゃうんじゃないかな。渡辺も吉井も赤点とってないのに一人だけ赤点って恥ずかしいやつだな」

「はあ、そんなの今は関係ないだろ。マジムカついたわ。ここで今からやってやろうか?」

「こら、もう授業は始まっているんだから早く席につきなさい。何か揉めていることがあるなら先生が両方の話を聞いてあげるから後で職員室に来なさい」

「いや、大丈夫です。先生には迷惑かけませんから」


 昔からこういった恋愛脳だけで生きているような女とは仲良くなれそうにないのだ。大体、私が奥谷の事を好きだったらもっと昔から仲良くしているとは思わないのだろうか。今の私達の距離感を見て何も感じていないのだとしたら、この女たちは全く人を見る目が無いと言っても問題無いのではないだろうか。

 勉強だけじゃなくて人を見る目が無いとなると、大人になったら簡単に悪い奴に騙されるんじゃないかなって思ってしまうな。そう考えると、このクラスの人達は悪いやつに簡単に騙されそうなやつばかりだってことになるんじゃないか。


 それにしても、放課後に公園に来いって本当に言うやつがいるのは面白いな。私がそんなのに付き合うわけもないし、そんな無駄な事に割く時間も無いのだ。

 今日もいつものメンバーたちでネットゲームを楽しまなくてはいけないし、こんな恋愛だけの脳内お花畑女たちに関わるつもりは一切ないのだけれど、それをわかってくれないこいつらに関わるのはもうやめにして欲しい。


 そうだ、放課後はいやだけど朝ならいいよって言っておくかな。こいつらはいっつも遅刻しそうな時間に来ているしどうせ朝には来ないだろ。それに、いくら馬鹿でもそんなウソに引っかかるわけも無いと思うしな。本当に信じてしまったら仕方ないけれど、そんな事を信じるほど馬鹿ではないだろう。

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