第17話

 私は家に帰ってからも恋愛アプリで奥谷君と何度もメッセージのやり取りを行っていた。いつだったか亜梨沙ちゃんと朝までお互いにメッセージを送りあっていたことを思い出したのだけれど、その時とはやり取りを楽しいと思う気持ちが違っていた。それは特別な何かのように私は感じていたのだけれど、奥谷君も私と同じ気持ちだったら嬉しいな。

 ただ、奥谷君は亜梨沙ちゃんとは違って話の途中でも会話を切り上げて寝てしまったのだけれど、それはそれでいいと思う。私も前みたいに学校でずっと眠気と戦うのは良くないと思うからだ。


 翌日、奥谷君は学校に遅刻してきたのだけれど、なぜか頭に包帯を巻いていた。頭だけではなく顔や手にも包帯を巻いているのだけれど、一体何があったのだろうか。私はとても不安な気持ちでいっぱいになってしまっていた。


「なんだよその姿は。誰かと喧嘩でもしたのかよ?」

「俺が喧嘩なんかするわけないだろ。昨日の夜にコンビニに飲み物を買いに行ったらさ、帰りに知らないやつらにカツアゲされたんだよ。暗くて顔も見えなかったし、声も聞いた事ないやつだったから誰かわかんないんだけどさ、せっかく買ったコーラとられちまって最悪だよ」

「コーラよりも怪我の事を心配しろよ。信寛ってどこか抜けてんな。ってかさ、お前んちの近くに自販機あんのにわざわざコンビニまで行くなよ」

「そん時はさ、お菓子も買おうかなって思ってたんだけどな、いざコンビニについてみたらジュース代しか財布に入ってなかったんだよ。最初に確認しとけばコンビニに行かなくて済んだのになって思うよ。お前らも夜道は気を付けた方がいいぜ」

「俺らは出歩かないから大丈夫だけどさ、ホントに気を付けた方がいいかもな。違う高校に行ってる友達がさ、暴走族に絡まれたって言ってたからな。でもさ、そんなに酷い怪我じゃなくて良かったな」

「いや、十分酷い怪我だろ。どこ見てんだよ」

「でもさ、俺はお前の顔に酷い傷が無くてよかったよ。信寛って顔は良いからそこだけが心配だもんな」

「顔だけって何だよ。性格だっていいだろ」

「そうだな。それなりに性格も良いかもしれないな」

「その包帯って、とったら血とか出てくるの?」

「たぶん血は出ないと思うけど、勝手に外したら怒られるっぽいんだよな。だから、頼之も朋英も俺の包帯をとろうとするなよ」

「しないって、朋英はわかんないけど俺はしないよ」

「何言ってんだよ。俺だって包帯を外したいなんて思ったりしないよ。それにしてもさ、入院とかにならなくて良かったな。犯人とか早く捕まってほしいよな」

「こういう時ってあっさり捕まるんじゃないか。この町で夜中に出歩ている怪しい奴なんて限られているしさ、目撃者だってきっといるはずだよ。暴走族だとしたら、バイクの音で迷惑してる人達だっているはずだし、きっと通報してたんじゃないかな」

「それがさ、俺はバイクの音を聞いてないんだよね。俺が襲われた時間帯に怪しい人を見なかったか警察も聞き込みをしていたらしいんだけどさ、目撃者はいなかったんだってさ。俺が犯人をはっきり見ていればスムーズに捜査もできるっぽいんだけど、俺は物音を聞く前に後ろから殴られて倒れちまったからんだ。バイクの音が後ろから聞こえてたら警戒するだろうし、俺の持ってた財布には俺以外の指紋がついてなかったって事で金銭目的でもないみたいなんだよな。俺を殴ってコーラだけ持ってくってさ、俺よりもコーラの方が価値あるって事なのかなって思ったんだけど、財布に興味を示さなかったって事は単純に俺を殴りたかっただけなのかもしれないって言われてぞっとしたよ。そいつが誰か知らないけど、俺を殴ったっていい事ないのにな」

「マジかよ。それって通り魔かもしれないってことだよな。それも、物音を立てずに背後から信寛を殴り飛ばすってヤバすぎだろ。俺らだったら一撃で死んでるかもしれないってことだよな」

「そうだよな。俺や頼之だったら間違いなく死んでるわ。そういう意味では殴られたのが信寛で良かったよな」

「いや、殴られて良かったとかないだろ。とりあえず、明日病院に行った後に警察に行かないといけないから面倒だよな。なんで被害者の俺がこんな目に遭わないといけないんだろってつくづく思うよ」


 奥谷君を襲った犯人はすぐ捕まるだろうと私は勝手に思っていたのだけれど、それから数日経っても犯人の手がかりすら見つからなかったそうだ。

 目撃者もおらず、犯行目的も不明で犯人に繋がる手がかりが一切残されていないため捜査は難航しているらしいと奥谷君は教えてくれた。警察は奥谷君が殴られてコーラをとられているので強盗傷害の容疑で犯人を捜しているそうなので手抜き捜査とかは無いと思う。私があの晩、奥谷君と何度もメッセージのやり取りをせずにもっと早い時間に切り上げていれば奥谷君は襲われなかったのかもしれない。そう思うと、私はとても申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。ただ、そんな私の気持ちを感じ取ったのか、奥谷君は「宮崎は何も悪くないよ」と優しいメッセージを送ってくれたのだった。

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