第2話

 私が奥谷君を好きになった理由は単純に一目惚れだった。でも、一目惚れだけだったとしたらこんなに奥谷君の事を思い続けることなんて出来なかったと思う。単純に彼がいい人すぎるというのもあるのだけれど、奥谷君の事を悪く言う人を私は見たことが無かった。ただ、奥谷君と幼馴染の山口は奥谷君に冷たい態度をとることが多いくらいかな。奥谷君が山口の事を好きだっていうのは前から知ってたし、中学の時のクラスメイトもみんな知っていた事だ。今のクラスだってわざわざ言わないだけでみんな知っているんじゃないかなって思うくらいにバレバレなんだよね。ただ、山口の方は奥谷君に興味が無いのかこれ以上は無いってくらいの塩対応をしている。それなのに、奥谷君はいつも嬉しそうに山口に話しかけているのは鈍感すぎるんじゃないかなって思うんだよね。山口は奥谷君の事に全く興味を持っていませんよって誰か言ってあげればいいのにな。私は絶対に言えないんだけどさ、普段は全然空気を読まない梓ちゃんも言ったりしないし、私のために色々やってくれている亜梨沙ちゃんも奥谷君に対するサポートは何にもしてくれないんだよね。


「そう言えばさ、このクラスで両想いになった人っているのかな?」

「きっといないと思うよ。男子はほとんど泉ちゃんで登録していると思うし、泉ちゃんの好きな人は他の人で登録していると思うからね」

「やだ、私の事を登録している男子なんてそんなに多くないと思うよ。いたとしても何回も告白しようとしてくる田中君くらいじゃないかな。……って、私が好きな人っていったい何を言っているのよ」

「いや、泉ちゃんが奥谷君の事を好きなことくらい見てたらわかるって。どこか見てるなって思ってその方向を見たら、大体奥谷君がいるしね。それで奥谷君の事が好きじゃなかったら、恋する乙女の瞳って何なんだろうって思っちゃうよ」

「そうだよね。泉っていっつも奥谷の事見てるもんな。私も彼といたらずっと彼の事を見ちゃうからその気持ちはわかるんだけどさ、少しは自重した方がいいと思うな」

「ちょっと、二人ともやめてよね。そういう話はしなくていいから。本当にやめてって」

「ごめんごめん。泉ちゃんが可愛い反応するのわかってたからつい調子に乗っちゃったよ」

「ウチもからかい過ぎたかも。ごめんね」

「次からは気を付けてね。今の話が奥谷君に聞かれてたら私は気まずいんだからね。二人が言った事だからって私は関係なく怒るんだからね」

「え、なになに。何の話してんの?」

「あ、亜紀ちゃん。昨日のアプリで誰か両想いになってないかなって話してたんだよ」

「ああ、その話か。ウチは登録しなかったけど歩と茜は片思いだったって悲しんでたよ。私はそんなんで相手の気持ちを知るのってあんまり好きじゃないから二人みたいに一喜一憂することは無いんだけどさ、泉は誰か登録したの?」

「そんなの教えるわけないじゃない。恥ずかしいでしょ」

「まあまあ、言わなくても大体わかるんだけどさ。つか、クラスの女子はほとんど気付いていると思うよ」

「いったい何の話をしているのかな。私は全然思い当たることも無いんだけどな」

「え、泉の好きなのって奥谷だろ?」

「え、えええええええええ。なんで?」

「なんでって、泉って暇さえあれば奥谷の事を目で追ってるじゃん。みんな気付いていると思うけど、それに気付いていないのって泉と奥谷達だけだと思うよ。梓も亜梨沙も聞かなくても分かっただろ?」

「まあね。泉の視線を追って見たら何となくわかったよ」

「私は泉ちゃんの声を聞いてたらわかったかも。奥谷君と話すときだけ微妙に声が高くなっているからね」

「もう、皆やめてよ。あんまり私の事をからかわないでって」

「ごめんごめん。でもさ、奥谷っていっつも山口の事ばっか見てる気がするんだけど、みんなはどう思う?」

「私も亜紀ちゃんと同じことを思ってたよ。奥谷君が泉ちゃんの事を見てたのって小学校時代を入れても数回くらいなんじゃないかなって思うんだよね」

「ああ、ウチも亜梨沙と同じような事を思ってたよ。泉ってもっと自分に自信をもって告白でもして来ればいいのになって思ってたもん。でも、女の子だったら告白するより告白されたいんじゃないかなって思うこともあったけどさ。ウチの場合は彼から告白してくれたんだけど、泉ちゃんもそうなるといいね」

「梓の話はどうでもいいんだけどさ、正直な感想を聞かせてもらってもいいかな。みんなは山口の事どう思ってる?」

「愛莉ちゃんは私達よりも全然頭がいいと思うよ。なんでこの学校を受験したのか気になるくらい頭の出来が違うと思ってるな」

「ウチは山口とちゃんと話したことないんで性格は知らんけど、亜梨沙と同じで山口って頭が相当良いって思うよ。それこそ、なんでうちの学校を選んだのか気になるわ」

「だよね。山口くらい勉強できれば普通にどこの高校でも入れたと思うんだけどさ、あえてうちの学校を選んだとしか思えないんだよな。それってさ、理由はいくつかあるかもしれないんだけど、奥谷がこの学校を受験したからなんじゃないかって思うんだよね。だってさ、二人の家からこの学校まで結構距離あるし、家から近いわけでも何か変わったカリキュラムがあるとかでもないし、わざわざ山口がここを受ける理由なんて無いんだよ。って事は、奥谷がこの学校を受験したから一緒に受けたんじゃないかなって思っているんだよね」

「マジかよ。その話が本当だとしたら、自分の事を好きな男の気持ちを弄んでいるってことになるんじゃね?」

「でもさ、直接聞いたわけじゃないんだし何か理由があるのかもしれないよ。泉ちゃんはどう思う?」

「どうなんだろうね。私はそこまで考えたことは無かったけど、亜紀ちゃんの言っていることが本当だとしたら、山口さんを見る目がちょっと変わっちゃうかもな」

「いっそのことさ、ウチと歩と茜で聞いてみようか?」

「そんなことして大丈夫なの?」

「大丈夫だって。ウチラだって泉に助けられたことたくさんあるし、その恩返しだと思って見ててくれていいからさ。それに、歩と茜も奥谷のこと好きだから奥谷と山口の関係をはっきりさせたいってのもあるんだよね」


 ああ、恋愛脳ってこういう人たちの事を言うのかな。私はそこまで他人の事で熱くなれないんだけど、私がずっと気になってたことをあっさり聞いてくれそうなこの人達には感謝しないとね。いや、私が今までしてあげてたことに比べたらこれくらい些細なことかもしれないよね。でも、ちゃんと感謝してあげるのは大事なことかもしれないよね。


 山口が亜紀ちゃんたちに何て答えるのか、今から楽しみでしょうがないよ。

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