第74話夜の散歩

「今日はこっちの区画にしようか?」

ーー僕は今ザベスさんの夜の散歩に来ている。

いつもは夜の店がある区画に行っていたが、今日は商業区画に行こうと思う。


「そうですわね、まだ何人か残っているかもしれませんワン。」

ザベスさんは季節外れのロングコートを羽織り、周りから首輪が見えないようにしている。

首輪にはリードが付いていて、片側は僕が握っている。

町ゆく人はまだまだ多いが、みな僕たちの事なんか気にしない。

ーー僕たちが向かうのは人通りの多いメイン通りだ。


「そろそろいいかな?」


「はい、この辺りがちょうどいいかと思いますわ。」

商業区画のちょうど中心地に着いた。

僕たちは人混みを避け、道の端まで移動する。


僕は頭の中にマァムさんを思い浮かべる。

記憶探知メモリーソナー

パチンッ!


僕は音に闇の魔力を乗せて周囲に飛ばした。

僕の新技、記憶探知メモリーソナーは、探知ソナーの応用で、僕が思い浮かべた条件に合致したもののみ探知出来る便利魔法だ。今回はマァムさんの事を知っている人を対象としている。


ーー見つけた!


「どうでしたか?」

ザベスさんが聞いてきた。


「三つ反応があった。二つは反応の大きさからおそらく女か子どもだと思う。」


「でしたら、今日のターゲットは一人ですねわね。」



ーーーーーーーー

ーー



「買い物に夢中ですっかり遅くなっちまったな。」

オレは自分の家に帰るため、裏道に入った。

こっちの方が近道なのだ。

知り合いの魔道具屋に買い物に行ったらついつい話し込んで帰りが遅くなってしまった。


ーー


「ん? 誰だ?」

道の前方に人影がある。この道でこんな時間に人と会うのは初めてだ。


「すいません、ちょっといいですか?」

オレが通り過ぎようとしたら、男が話かけてきた。


「なんだ? オレは急いでるんだが。」


「聞きたい事がありまして。マァムという人、ご存じですよね?」

最近引退した娼婦のことか?


「ああ、知ってるぞ。オレもそいつに卒業させてもらったからな。」


「そうですか。それは残念です。」

男の身体から禍々しい魔力を感じる。


「なんだお前、拗らせちまったやつか? あいつはみんなのアイドルみたいなもんだ、諦めろ。」

マァムさんで卒業すると勘違いして自分の女だと言い出すやつがいる。

その度に娼館のボディーガードが出て来て取り押さえられていた。最近はめっきり少なくなったと思っていたが……。


「マァムさんは僕の妻です。妻の過去にとやかく言うつもりはありません。ですが、僕は人より独占欲が強いみたいでして。」


「おいおい、マァムさんのストーカーか? 逆恨みはよしてくれよ?」

念のため魔法を使う準備をする。


「言っとくけどな! オレは王国軍魔法師団で中隊長をしている。それでもいいってんなら相手してやる、っよ!」

オレは魔力球を放った。詠唱してない分威力は下がるが、目眩ましには充分だ。


ドォンッ!


魔力球が命中し、辺りに砂煙が立つ。


「雷よ、一条の光となり彼の者を目指せ!雷光ライトニングボルト!」


光の速さで射出された高電圧の魔力が目標に命中した。


「正当防衛だ。死は元より覚悟は出来ていたんだろ?」

煙が晴れていく。

今ので命は無いだろう。衛兵を呼ばねば……。

ーーなに!?


「覚悟は出来てますよ。死ぬつもりは無いですけどね。」

煙の中から無傷の男が出てきた。

男の身体は薄い金色の光で包まれている。


「初めてわたくしの魔法が役にたちましたわ!」

男の後ろから女が歩いてくる。


「あ、あなたは! 姫さま!?」

王宮で何度か目にしたことがある。

勝ち気な目に美しいカールされた金髪。間違いなくエリザベス姫殿下その人だ。


「この魔法何て言ったっけ? 凄いね、完全に魔法を無効化しちゃったよ。」


「わたくしの得意な光属性魔法、聖光防鎧シャインガードですわ! どんな魔法でも一度だけ完全に防げますの!」

姫様はよほど嬉しいのか、満面の笑みで答えた。


「姫さま! こんなところに居てはなりません! 早くこちらへ!!」

しかし首をかしげて此方にくる気配はない。


「それじゃ、そろそろお別れの時間だね。あっ、死ぬ訳じゃないから安心して!」

そう言うと男の闇の魔力が身体から漏れ出してきた。


ーーまずいな……。


閃光フラッシュ

まばゆい光が相手の目を眩ます。

男も目に手を当てている。

ーー姫様、申し訳ありません。一時撤退させて頂きます。

心の中で詫びを入れ、男と逆方向に駆け出した。


光の束縛鎖ライトバインド!」

ーーくそっ、動けない!

光の拘束具が手足を縛り動きを封じられてしまった。


「さすがだよ! ザベスさん! これは後でご褒美あげないと。」

男が目を押さえながら近づいてきた。


「拘束は長いこと持ちません。早めにお願いしますわ!」

ーー姫さま、なぜ!?


「言われなくてもそうするさ。性反転エロティックリバース!」

男から闇の魔力がオレに纏わりついてきた。


「な、なんだ!? やめてくれ! ぐわあぁぁあっ!!」

ーー頭が、割れそうだ!

今までの記憶が走馬灯のように蘇ってくる。


ーーダメだ……。意識が……飛びそう……だ……。


バタッ!


ーー


「成功だ。また一人罪な男を作り出してしまった……。」

僕はニタフィーと共に感情反転リバースの研究をし、性にのみ作用する魔法に昇華した。

彼はマァムさんとの記憶を消され、男しか性的な対象と見れない身体になった。


「仕方ありませんわ。偉大なるご主人さまの野望の為、彼も喜んで受け入れるはずです。」


「そうだね。これであらかた始末はついたかな?」

新居に越してきてから、僕は既に二百人近くに性反転エロティックリバースを使った。

これで王都のマァムさんと関係を持った男は殆んどがホモサピエンスと化した。


「はい。これ以上探すのはさすがに厳しいと思いますわ。」

ーーとりあえず夜の散歩強化週間はこれで終わりかな。

もちろん定期的に記憶探知メモリーソナーでマァムさんと関係を持った不届き者は退治するつもりだ。


「それにしてもザベスさん、今回は助かったよ。何か欲しい物はないかい?」


「でしたらわたくし、ご主人さまとの赤ちゃんが欲しいですわ……。」


ーーえー? めんどくさいメス犬だなー。

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