第39話ホテルキャッスルサイド

僕達は教会の前の一件があった後、宿を探した。

「あ、わたしここがいいわ!」

教会から宿のある区画に向かう途中、裏道のような細い道を通った。

すると、宿の区画から少しずれた位置に数件の怪しげな宿が乱立していた。


「マイさん。ここ、絶対怪しいですよ……」


「いいえ、ここが気に入ったの。ここ以外に泊まるなら、野宿した方がましよ!」


えー……


僕はマイさんが気に入った宿を見上げた。

少し古くさく、全体的にピンクい。

雰囲気も、外壁も。

看板には「ホテルキャッスルサイド」と書かれている。

僕は諦めてここの宿に入る事にした。

松風を連れていたので、正面入口ではなく←馬と書かれている看板の方に向かう。

すると、上から黒い暖簾のような物で目隠しされた入口があった。

中に入ると、ちゃんと馬小屋はあった。

見かけによらず綺麗に掃除されており安心した。

僕は松風を小屋の中に入れると、二人で側面入口から宿に入った。


「なんかこの宿は薄暗いわね。」

今は夕方だが、外はまだ明るい。

しかし、なぜか宿の中は薄暗かった。

人の気配が無いので不安に思っていたが、受付カウンターには店員さんがいた。

カウンターの上の壁が低くなっており、店員さんの顔は見えない。


「宿泊ですか? 休憩ですか?」

受付に近づくと、店員さんに声をかけられた。

挨拶も無しとは、あまり教育が行き届いていないようだ。

「宿泊よ。」

気にせずマイさんが答える。


「銀貨五枚です。」

マイさんが袋から銀貨を五枚出して店員さんに渡す。

すると、これまた何も言わずカギだけ渡してきた。

カギには203と書かれたキーホルダーが付いている。


「あの、部屋は何処ですか?」

僕が聞くと、店員さんが答える。


「二階だよ。」

受付の横には階段がある。

上に行けばわかるのだろうか。

仕方なく二人で二階にあがるが、やはり人の気配が無い。


「マイさん、ここの宿やっぱりおかしいですよ。」


「そう? 気にしすぎじゃない?」

この怪しげな雰囲気に、マイさんは何も感じないようだ。

廊下には、各部屋の入口にそれぞれ数字が書いてあった。

203という数字を見つけた。


「マイさん、ここじゃないですか?」

部屋にはカギがかかってある。

受付で受け取ったカギを使うとドアが開いた。

「そうみたいね。」

僕達は部屋の中に入った。


「なんだ、この部屋は……」


「あら、なかなか素敵じゃない!」

部屋の中は一面ピンク色だった。

壁も、床も、匂いさえも。

何処からか扇情的な音楽が聞こえてくる。

僕達は部屋の奥まで入った。

部屋の真ん中には、ハート型の大きなベッドがあり、部屋の横には小さな浴室が付いている。

銀貨五枚でこのクオリティーは凄まじいとしか言えない。


「ほら、ここにして正解だったじゃない!」

僕は腑に落ちないままだが、マイさんはとても嬉しそうだ。


「昨日はちゃんとしたお風呂に入れなかったから、早く入りたいわ!」


「あ、じゃあ僕が沸かして来ますよ!」

そう言って僕は浴室に行った。

浴室には縦長のギリギリ二人入れるかどうかという大きさの浴槽があった。

浴槽の上には蛇口が二つあり、片方を捻るとお湯が出た。

もう片方からは冷たい水が出たので、丁度良い温度になるよう調整してお湯を溜めることにした。

お湯が溜まるまで少し時間がかかる。

僕は一度浴室から出た。


「今、お湯を溜めてます。」

マイさんはベッドに腰かけていた。


「ありがとう。」

部屋に椅子等はなく、大きなベッドのせいで他に座れそうな場所はない。

僕がマイさんの隣に立っていると

「あなたも座ったら?」

と、声をかけられたのでマイさんの隣に腰をおろす。


無言が続く。


ジャアアー


浴室から水の音が聞こえてくる。

なんだろう。凄い気まずい。


「マイさん、今回は一緒に来てくれて、ありがとうございます。」

居たたまれなくなって僕は言った。


「なに? きゅうに改まって。」


「いえ、いつもお世話になりっぱなしだなと思いまして。」


「べつに気にしなくていいわ。」


「はい。」

なぜか会話が続かない。


「そろそろお風呂、良いんじゃないかしら?」

「あ、みてきます!」

立ち上がろうとするマイさんを止めて、そそくさと浴室に向かった。


「あ、丁度良い感じです!」

浴室内からマイさんに聞こえるように声を出す。


「わかったわ! 先に入っていいわよ!!」


「いえ! マイさんが先にどうぞ!!」


「じゃあ、お言葉に甘えて。」

僕が浴室から出るのと入れ替りでマイさんが浴室に入った。

脱衣所にドアはない。

スルスルと衣擦れの音が聞こえる。

僕は見ないように反対を向いている。

ーーやがてマイさんの身体を洗う音が聞こえてきた。


何故だろう、そわそわする。

いつも一緒の部屋で寝泊りしているはずなのに、眩惑の魔法でもかけられたのだろうか。

扇情的な音楽が耳に響く。

とても長い間待っていた気がする。

やがてマイさんは風呂からあがって来た。


「お待たせ。次いいわよ。」

マイさんは薄着一枚で、身体に服が張り付いている。

胸をチラ見すると、いつものようにポッチが見えた。

しかも今日は服が張り付いているためか、回りの輪っかまでうっすらと確認出来る。


静まれ!! マイサン!!


僕はどす黒い我が息子をしかりながら、完全に覚醒する前に浴室に向かった。


「ふぅ、危なかった。」

息子を見ると、完全にサンライズしていた。

力を入れると、自分のへそにペチペチとつける事が出来る。

もしかすると、ドラゴンの紋章が現れてから完全体になるのは今日が初めてかも知れない。

しかし我ながら凄い硬度だ。

しかも、サイズがおかしい。

もはや、こいつの恋人の右手では握れなくなっていた。

僕は息子の成長を喜ぶと共に、こいつを使う相手はガバガハじゃなきゃ厳しいだろうと寂しい気持ちになった。

息子が元に戻るまで待っていたら、だいぶ長風呂になってしまった。

急いで浴室から出ると、マイさんは既に眠っていた。

僕は仕方なくベッドの横の狭いスペースに丸まるようにして眠りについた。


「どう考えてもここ、ラブホだよな……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る